歩兵操典

第六篇 通信隊教練
第二章 通信
第一節 分隊
第二款 戦闘
  1. 第616
    線路は戦況に適合し、且つ之が保持確実なる如く構成す
    線路の選定に方りては、構成の為使用し得べき時間及び器材の多寡、爾後に於ける利用の度、友軍、就中車馬部隊の行動等を考慮し、特に掩蔽し、線路の構成及び保持容易なる如く着意す
    分隊長は、線路構成の為多くの時間を要すと判断せる地点に対しては、予め所要の人員器材を以って準備せしむるを可とす
  2. 第617
    戦闘間、線路を構成するには、分隊長は勉めて地形地物の掩護下に準備を整え、的確に分隊を部署し、迅速に行動せしむ
    開豁地に在りては、通常目標に向かい直進するを利とす。此の際、分隊は敵火の状態に応じ、散開して躍進し、線を地面に膚接し、且つ十分なる余長を存血し、又接続部は勉めて地形地物の掩護下に在らしむ
    無線及び視号に関しては前諸項に準ず
  3. 第618
    線路錯綜する地域に於ける線路の構成に方りては、混信を避け、且つ保線及び撤収を用意ならしむる為、適宜他の線路と離隔せしむると共に、標識を附す
  4. 第619
    線路の構成に方り撒毒地域に遭遇せば、成るべく之を迂回し、若しくは制毒せる地域を利用するを可とす。然れども、状況之を要すれば、撒毒地域と雖も構成を強行し、以って機を失せざること緊要なり
  5. 第620
    連絡すべき指揮官の移動に方り、有線分隊長は速やかに通信所を移動し、連絡に遺憾なきを要す。之が為、予め指示を受け進路を偵察し、要すれば標示を行い、線を補充し、為し得れば延線し置く等、準備を周到ならしむ
    連絡すべき指揮官移動せば、有線分隊は追随しつつ延線す。若し追随し得ざるときは、連絡すべき指揮官と通信所間に視号、伝令等を配置し、要すれば他の連絡機関と協同し、連絡を中絶せしめざるを要す
    連絡すべき指揮官、既に構成しある線路に沿い移動するときは、此の線路を利用し接続部に、又は之より分岐し通信所を開設して逐次移動す
    無線及び視号に関しては第一、第二項に準ず
  6. 第621
    線路の保持を確実ならしむる為、有線分隊長は適時保線兵を派遣し、或は所要の地点に之を配置し、時間の余裕を得るに従い、線路の敷設を堅固ならしむ。敵弾下に於いて特に然り
    保線兵の兵力は、敵情、線路の景況、明暗の度等に応じ、又、要すれば戦闘を準備しつつ行動し得る如く、之を定む。特に掩護兵等を増加することあり
  7. 第622
    分隊長は部下分隊の通信の疎通良好なりや、通信手良く通信の法則及び規定を守るや、沈着して動作するや、器材及び馬の取扱適当なりや、秘密保持可なりや等を監視す。又、絶えず連絡すべき指揮官と密に連絡し、適時分隊の状態、空界の状態等を小隊長に報告し、要すれば自ら調整若しくは送受信を為す等、機宜の処置を講じ、極力連絡の確保に勉む
  8. 第623
    防禦に方りては、分隊長は時間の許す限り準備を周到にし、予め通信所の位置、線路等に就き偵察を行い、要すれば人馬、器材の区分の変更、応用材料の準備等を為したる後、通信施設に着手す
    通信施設は、戦闘激烈なる時に於いても確実に之を維持し得る如く、通信所及び配置せる保線兵の位置に掩体を設け、予備の通信所を準備し、線路の重要部を埋設し、或は複線にし、状況に依り線路、空中線、地線の為、壕を設く
  9. 第624
    夜間通信系の構成に方りては、分隊長は準備を周到にし、部下の掌握に勉め、方向の維持に注意し、通信手は相互の連繋を密にし、警戒を十分にし、静粛確実に動作す
    分隊長は、夜間確実に所命の地点に到達する為、連絡すべき指揮官に同行するか、若しくは之より出されたる誘導者に依り前進し、或は予め進路を偵察し標示を行う。状況に依り、磁石を用い、又は目標を定めて直進することあり。而して線路は多少迂路となるも明瞭なるものを選ぶ
    途中進路を失いたるときは通信所を開設し基点に連絡するを可とす
  10. 第625
    夜間は特に通信所の秘匿、警戒、及び指揮官との連絡に注意し、且つ通信所の標示を行い、通信所内を整理し、無線及び視号に在りては特に火光の漏洩及び発電機の回転等より生ずる噪音の防止に注意す
    夜間構成せる通信施設は、払暁後速やかに点検し、所要の補修を行う
  11. 第626
    通信系の撤収は通常小隊長の命令に依る
    夜間線路の撤収は、之が構成に任ぜる者をして実施せしむるを可とす
  12. 第627
    通信系を異にする通信所との通信は、通常小隊長の命令に依る。此の際、分隊長は対所の通信中ならざることを確認し、対所の通信諸元に依り連絡を行いたる後通信を行い、終れば直ちに其の通信系より脱す
  13. 第628
    敵襲に方り分隊危殆に陥り、命令を受くるの遑なきときは、通信文、暗号書、其の他重要の書類を処理し、敢然敵を撃退し、縦い一兵となるも、飽く迄其の任務を遂行すべし