1936年発布

赤軍臨時野外教令


第十一章 特殊の状況に於ける行動
  1. 其の三 沙漠に於ける行動
    1. 第299
      沙漠の特性は、住民希薄、物資貧弱、給水困難(水は大なる距離を間して存在する少量の井水のみ)にして、夏季日中の暑熱酷烈なる点に存す
      右の特性に基き、沙漠に於ける行動は、通常井水及びオアシスの存在する方向に限定せらるるものとす
    2. 第300
      沙漠に在りては諸兵種悉く使用せらるるも、就中機械化部隊(兵団)、及び航空部隊は其の価値特に大なり。技術部隊は沙漠に於いては、特に給水作業、自動車道の敷設、及び飛行場の建設に任ずるを要す
    3. 第301
      行軍は、空中及び地上(戦車を伴う自動車化歩兵及び騎兵)よりする遠距離捜索、縦隊路の偵察ならびに標示(道標設置)、及び有力なる全周警戒を伴わざるべからず。道路外の行動可能なることは広正面を以ってする行軍を容易ならしむ。然れども此の際は、各縦隊に嚮導を附すること肝要なり。若し軍隊に対する搬水不可能なる時は、軍隊の進路及び行程は、一に進路上に於ける瀦水の位置又は穿井の可能性如何に依るものとし、独立して一方向に行動する縦隊(支隊)の兵力編組は、戦術的独立性を附与するの必要と、現有輸送資材の多寡とに依りて決定せらるべきものとす
      輜重は当該縦隊の後尾に続行す。若し、独立の縦隊として行進するときは特別の掩護を附するものとす。沙漠に於ける行軍に於いては、航空部隊は軍隊及び輜重の掩護の為大なる価値を有するものなることを考慮するの要あり
      行軍間、指揮官は兵の体力の保持、及び飲料水の節約に関する規定の厳守に就き、特に注意するを要す
    4. 第302
      攻撃に当りては、敵防御陣地の翼ならびに其の警戒手段を偵知し、正面攻撃に依りて敵を正面に抑留しつつ、主力、戦車、及び飛行機の支援を有する歩兵の主力を以って敵の側面を攻撃するを有利とす。此の際、同時に航空部隊及び機動部隊を以って敵の予備隊及び背面を攻撃するを得ば更に有利にして、一翼に対する主攻撃と、他の外翼に対するの迂回とを併用することも亦有利なる一手段なり
    5. 第303
      防禦は、拘束部隊の全周防禦、広汎なる火力機動、ならびに砲兵、戦車、及び飛行機の支援を有する強力なる打撃部隊の攻撃に依り成立す。尚、背面防御の為、機動予備を控置すること肝要なり
    6. 第304
      通信連絡の為には、無線、飛行機、自動車化通信器材、回光通信機材、及び伝騎を使用す
    7. 第305
      沙漠に於ける行動は、補給業務の整調、後方機関の掩護、及び給水原点に対する特別の配慮を要求す。就中、泉水及び予備糧秣の毒物に対する防護に関しては、特に十分なる注意を払わざるべからず
      沙漠に於ける作戦、特に攻勢作戦は、自動車化後方機関及び輸送飛行隊を以って支援せらるるを要す