1936年発布

赤軍臨時野外教令


第八章
  1. 防禦
    1. 第224
      防禦は次の場合に於いて之を行う
      1. 決戦方面に兵力を集中する為、他の正面の兵力を節約せんとする場合
      2. 攻勢に必要なる兵力を集結し得るまで、時間の余裕を得んとする場合
      3. 決戦方面に於ける攻撃の成果を待つ為、次等正面に於いて時間の余裕を得んとする場合
      4. 某地域(地区、地線、及び道路)を保持せんとする場合
      5. 防禦に依りて敵の攻撃力を破摧し、爾後攻勢移転を行わんとする場合
      防禦力は、畢竟最高度に火力を発揚し、最も有効に、地形、技術、及び化学資材を利用することに帰着す
      他方面に於ける攻勢、若しくは爾後の攻勢移転を伴う防禦、特に敵の側面に向う攻勢を伴うものは、敵を完全なる壊滅に導き得るものとす
    2. 第225
      現代戦に於ける防禦は、全縦深に対して同時に攻撃を企図する優越せる敵の攻撃力に対抗し得ざるべからず
      即ち防者は陣地帯の前方に於いて敵歩兵の攻撃を破摧するのみならず、左の如く防禦を行わざるべからず
      1. 敵戦車の陣地帯内部に対する進入を阻止す
      2. 戦車の突破に当りては、対戦車資材を以って之を撃破すると共に歩戦を分離せしめ、遮蔽せる機関銃及び小銃火を以って歩兵の前進を阻止す
      3. 陣地帯内部に進入せる戦車に対しては、砲火及び戦車を以ってする逆襲に依り之を撃滅す
      4. 歩兵、戦車共に陣地内に侵入せば、火力を以って之を攪乱し逆襲を以って之を撃破す
    3. 第226
      現代戦の防禦に於いて第一に具備すべき要件は対戦車防禦組織なり。対戦車防禦は、自然的又は技術的対戦車障碍物、対戦車地雷、及び其の他の人工障碍物を伴う各部隊ならびに対戦車砲兵の火網より成る
      防者の勇敢なる行動と、巧妙なる地形の利用とは、小銃及び機関銃の十字火と相俟って敵歩兵に大なる損害を与え、且つ之を戦車より分離することを得しむるものなり
      防禦陣地帯の完成に伴い、兵員を掩護する為、次の手段を講ずるものとす
      1. 敵機関銃及び砲兵に対する技術的掩護設備
      2. 対化学装備
    4. 第227
      敵と離隔しある場合、又は退却中陣地占領を行う場合に於ける防禦は、通常左の如き要素より成る
      1. 陣地帯前方に於ける技術的又は化学的障碍地帯
        障碍地帯は少数の歩砲兵より成る前進部隊を以って守備す
        陣地帯の第一線と障碍地点前縁との離隔は、地形の状態に依り差違あるも通常約12粁とす
      2. 直接戦闘警戒部隊及び有力なる警戒部隊占領地区
        陣地帯の前縁より1乃至3粁を離隔す
      3. 主陣地帯(師団打撃部隊を含む)
      4. 後方陣地帯
        主陣地帯より12乃至15粁に設備す
      戦闘の経過中(敵と触接中)防禦に転移する場合に於いては、通常前方障碍地帯を設くること無く、且つ主陣地帯は爾後の企図ならびに防禦の利便を顧慮して選定す
    5. 第228
      技術的又は化学的前方障碍地帯の構成ならびに守備兵力の派遣は、狙撃師団又は軍団長の任とす
      障碍地帯の配置は、之に依り敵をして主陣地帯前縁の径始を誤認せしむる如く、陣地帯の正面と併行せしめざるを要す
      障碍地帯の守備に任ずる前進部隊は、退却に当りては戦闘警戒部隊と協力して、敵を不利なる方面に誘致することに努むべし
    6. 第229
      防禦に在りては、狙撃軍団及び師団は某正面の陣地帯を担任し、狙撃連隊は数個の大隊地区より成る連隊守備地域を担任す
      狙撃師団の守備する陣地帯は、正面8乃至12粁、縦深4乃至6粁とし、狙撃連隊の守備地域は、正面3乃至5粁、縦深2粁半乃至3粁、狙撃大隊の守備地区は、正面1粁半乃至2粁とす。但し、第一線大隊地区は互いに其の境界を接するものとす
      本標準は、任務、地形、及び対戦車防禦資材の多寡に依りて変化す
      陣地帯前縁の径始、兵力配置、対戦車地区の所在、及び陣地帯の縦深に関し敵を偽騙する為、左の如く処置するを要す
      1. 陣地帯前縁の径始は一定の形式に陥ること無く、所に依り、或は高地の前方斜面を利用し、或は其の反対斜面を利用して、特殊の地形又は地物に拠ることを避く
      2. 陣地帯前縁の径始を欺騙する為、特に敵の攻撃に便なる地区に有力なる警戒部隊を配置して、陽に陣地帯第一線を装い、之に突入する敵を主陣地帯第一線の十字架を以って捕捉する如くす
      3. 敵の為、遮蔽近接路、有利なる砲兵陣地ならびに観測所を得難く、歩兵及び戦車の展開を遮蔽するに便なる地帯無き地線に陣地帯の前縁を設定す
      4. 自然的対戦車障碍に富み、技術的障碍の設置容易なる地線に沿い第一線を選定す
      5. 陣地帯前部に亙り同一の縦深を附与することを避く
      6. 全ての作業を周到に遮蔽(偽装)す
      7. 各部隊の配備は明瞭なる集団的配置を避け、且つ顕著なる地線又は地点を回避し、局部的偽陣地を以って之を補綴す
    7. 第230
      陣地帯第一線、打撃部隊ならびに砲兵陣地の位置は、対戦車防禦の便を顧慮して之を選定す(戦車の近接困難なる地区地物の利用、側防陣地の配置等)
      陣地帯内部には対戦車地区を設定して、之に打撃部隊を配置し、之に依りて砲兵陣地ならびに戦闘司令部を掩護す
      対戦車地区は之を環状配置とし、其の相互間の間隙は対戦車砲の有効なる直射火力を以って火制し得る如く配備せざるべからず
      対戦車砲兵は、陣地帯第一線に在りては夫々対戦車障碍物を以って援護せられ、陣地帯内部に在りては対戦車地区の内部に之を配置す。対戦車砲の一部を反対斜面の掩蔽下に分散配置するは有利なり
      対戦車壕、地雷地域、及び其の他の障碍物は、敵の正面観察に遮蔽せる対戦車砲の火制下に在らしむるを要す
      主要対戦車地区は師団長之を定め、連隊長は之を補足する為、所要の対戦車地区を設くることを得
    8. 第231
      陣地帯に於ける歩兵(対戦車砲を属す)の配備は、敵砲兵に対して各大中隊の配備地区の判定を困難ならしめ、敵戦車に対して自然的ならびに人工的障碍物の発見を困難ならしむることを顧慮して決定せらる
      防禦に於ける歩兵の戦闘力は、畢竟敵歩兵に対する殲滅的近距離火力に在り。従って、歩兵は決勝の瞬時に至るまで其の火力資材を保全することに努め、小銃及び軽機関銃手は過早に其の位置を暴露することを避けざるべからず。凡て過早に暴露せる歩兵の軽火器は容易に敵の砲兵火力に制圧せらる。従って、 遠距離に対する射撃は陣地帯内部よりする重機関銃の任とす
      歩兵は斜面の前方、或は後方に於いて縦深横広に分散配置せらる。其の最も有効なる防御手段は、第二線歩兵の火力に依りて支援せらる第一線各火点の十字火力に在り
      敵歩兵を戦車より分離する為、対戦車地区には遮蔽して短機関銃を配置し、其の奇襲的側射火力を以って戦車に続行する敵歩兵を破摧するを要す
      戦車に対して防禦する歩兵は、散兵壕内に遮蔽しある限り、戦車は之に対し大なる脅威を与うるものに非ざることを銘記すべし。加え、歩兵は自己の資材(手榴弾其の他所在の資材)を以って有効に戦車と戦闘を行い得る性能を有す。但し、歩兵は我に対し最も大なる危険を与うるものは、戦車に続行する敵歩兵なることを確知せざるべからず。故に歩兵は、 敵戦車の襲撃に当りては、一方其の資材を以って敵戦車に損傷を与うることに努むると共に、濫りに自己を暴露すること無く、好機に投じ自己の全火力を挙げて攻撃歩兵を圧倒し得る如く其の兵力資材を部署するを要す
      歩兵は、戦車が著しく視界を限定せられ、且つ歩兵との連絡保持頗る困難なることを顧慮し、其の弱点に乗ずることに努めざるべからず
      攻撃歩兵を戦車より分離し、火力を以って之を圧倒すること即ち是なり
      大隊守備地区は全周に独立して防禦し得るを要す
    9. 第232
      歩兵支援砲兵群と歩兵との協同は、防禦に於いても攻撃に於けると同様なり
      師団の防禦地域8粁以上なる場合に於いて、地形の著しく断絶する時及び正面一層狭小なる時に於いては、歩兵支援砲兵群は通常狙撃連隊に配属せらる
      防禦に於いては砲兵は縦深に亙り数線配置を採るものとす
      歩兵支援又は遠距離砲兵の陣地選定に当りては、努めて自然的ならびに人工的対戦車障碍物、地雷、ならびに発見困難なる障害を以って、之を掩護することに努めざるべからず
      遮蔽せる各砲兵中隊の陣地は、適時敵戦車の現出を発見する為、各近接路に対し夫々監視兵を配置す
      各砲兵陣地は戦車を射撃する為、800米の直射射界を有せざるべからず。若し放列位置にして此の要求を充たし得ざるときは、砲兵中隊は敵戦車の襲撃に当り直接照準に依る射撃を施行する為、遮障(胸墻)上に進出するか、或は前車を附して特に予定せる対戦車陣地に位置を変換す
      陣地帯内部に突入せる戦車に対する射撃に当りては、友軍歩兵に損害を与えざる如く注意すべし
      陣地帯第一線に対する敵戦車の襲撃を撃退する為には、歩兵支援砲兵、遠距離砲兵、及び戦車の襲撃を受けざる隣接地区の砲兵も亦此の戦闘に参加するを要す
      戦車、我が阻止射撃地帯を通過して直接我が近接戦闘火器と触接するに至らば、砲兵主力は直ちに其の火力を敵歩兵ならびに戦車随伴砲に転移す
      歩兵支援砲兵群の各中隊は、自衛の為対戦車陣地に移るを必要とするに至る瞬間まで、頑として敵活動兵力との戦闘を継続す。自己の地域に於ける敵戦車を撃滅せば、各中隊は再び本陣地に復帰し、本来の任務に服するものとす
      阻止射撃開始の為の連絡は発光信号を以って規定せらるべく、各放列に在りては、之を監視する為特別の監視者を配置せざるべからず
      師団長又は連隊長は、敵戦車の主攻方面に使用すべき対戦車砲の移動予備を其の手裡に掌握しあること極めて緊要なり
    10. 第233
      各兵団の固有ならびに配属戦車は、共に打撃部隊の編成に入るものとす
      各戦車大隊は機動に便なる地帯を熟知し、地雷地域及び偽装せる対戦車壕の所在を探求、且つ標示し、対戦車砲及び中隊の位置を承知せざるべからず
      若し時間の余裕あらば、戦車の逆襲発起位置に遮蔽して各戦車を配置し得る如く、特別の戦車壕を準備するを要す
    11. 第234
      陣地帯前方には直接戦闘警戒部隊を配置す
      其の任務は敵の奇襲を予防し、且つ其の捜索を妨害するに在り。戦闘警戒部隊は原則として強大なる敵と真面目なる先頭に陥るを避くるを要す。但し、高級指揮官、敵をして陣地帯前縁の径始を誤認せしめんが為、特に部署せる警戒部隊は之を例外とす。之の場合に在りては、当該警戒部隊長は之に関し必要の命令を受領し、対戦車資材の配属を受くるのみならず主陣地帯砲兵の連絡班を伴うを要す。 此れ等警戒部隊の撤退は強大なる敵の圧迫を受くる場合に限るものとし、而も撤退に当り敵の捕捉を避け、我に膚接して主陣地帯に闖入せんとする敵の急追を防止する為、砲兵及び機関銃の火力を以って掩護せらるるを要す
    12. 第235
      主陣地帯の後方には、軍団長の部署に依り後方陣地帯を設備することあり。其の前方陣地帯との離隔は、敵砲兵の射程、後方に於ける防禦に有利なる地線、特に対戦車防禦に便なる地区の有無、何等かの地域を固守するの必要等を考慮して決定せらる。此の陣地帯は軍団打撃兵団又は予備隊を以って占領せらる
    13. 第236
      防御に於ける技術的作業左の如し
      1. 化学部隊と共に、捜索ならびに掩護部隊に対する援助
      2. 陣地帯前方に於ける障碍地帯の構成、ならびに同地帯に於ける前進部隊の援助
      3. 対戦車地区、対戦車障害物、地雷地域等の構築
      4. 小銃手、機関銃、砲兵等の為の本陣地、ならびに予備陣地の設備、射界の清掃、戦闘司令所、対歩兵障碍物、遮蔽交通路、掩蔽部、其の他欺騙的諸施設の構築
      5. 偽地区ならびに偽陣地帯の構築
      6. 道路の阻絶準備、後方陣地帯の構成、後方防御の準備
      7. 橋梁の復旧、架橋、道路の改修ならびに構築、着陸場の構築、倉庫の建設
      8. 陣地設備、軍隊配置、道路施設其の他の偽装
      技術作業は通常左記順序に従うものとす
      1. 第一次作業
        真散兵壕、偽散兵壕の構築、視界及び射界の清掃、戦闘司令所及び監視所の構築、人工障碍物(先ず対戦車障碍物)の設置、最も主要なる方面に於ける遮蔽交通路の設定、探照灯の設置
      2. 第二次作業
        後方の連絡路及び各種掩蔽部の構築、第一次作業の進捗強化
      3. 第三次作業
        戦闘及び糧秣補給に必要なる野戦道路の構築、現有道路の改修、第一次及び第二次作業の進捗強化
      技術的偽装の当否は、空中写真に依りて之を監督するを要す
      陣地構築と同時に、火力指向を容易ならしむる為、陣地帯前方の地点ならびに地線に対する距離測量を行う
      長時日に亙る防御に在りては、陣地帯は鉄筋コンクリート製火点、掩蔽部、及び縦深大なる鉄条網を以って強化せらる。守備地区の築城工事は、之を占領する部隊自ら之を行う。技術部隊は築城作業の計画ならびに指導に任ずる他、複雑且つ重要なる構築物の構築に従事す。後方陣地帯の設備、ならびに後方管区に於ける道路の修理は、後方に在る部隊及び地方住民を以って実施す
      隊附技術幹部(及び偽装小隊長)は技術的作業を計画し、兵団又は部隊指揮官之を確定す
      戦車に対する技術的準備は各種障碍物の構築を以って其の主体とす。即ち
      1. 陣地前方及び守備地区内に於ける氾濫
      2. 戦車の近接を困難ならしむる為、斜面の傾斜の増加
      3. 対戦車壕の掘開
      4. 地雷地帯の構成其の他
      此れ等の障碍物は偽騙的障碍物を以って補綴せらるるを要す
    14. 第237
      狙撃軍団長は、陣地占領に当たりては、陣地占領を完了すべき時期、陣地帯前縁の一般的径始、各師団の占領すべき地帯、軍団砲兵の内より遠距離砲兵として師団に配属せらるべき部隊、技術的ならびに化学的障碍地帯の設置ならびに其の位置、後方陣地帯構築の時期及び其の方法を指示す
    15. 第238
      師団長は陣地占領に当たり、左記諸件を指示す
      1. 陣地帯前縁の径始を稍々詳細に指示す
      2. 各連隊守備地域及び支援砲兵群を示す
      3. 打撃部隊を部署す
      4. 対戦車地区を構成す
      5. 戦闘警戒部隊の位置ならびに陣地帯前縁の径始を偽騙する為の、有力なる警戒部隊を配置すべき位置を指定す
      6. 戦車に対する移動弾幕射撃の準備地帯、打撃部隊の逆襲時に於ける砲兵の任務、及び逆襲支援の為の陣地帯内部に於ける砲兵観測所の配置を示す
      7. 師団地帯の技術的作業に関する指示を与う
    16. 第239
      連隊長は自己の偵察に基き、左記諸件に関し指示す
      1. 陣地帯前縁、直接警戒部隊の線、ならびに対戦車地区の径始を詳細に指示す
      2. 拘束部隊ならびに打撃部隊を部署し、其の守備地区を定む
      3. 歩兵支援砲兵群を各大隊に配当して、其の協同を律し、且つ砲兵に対し戦闘警戒部隊に関する任務を与う
      4. 陣地帯前方に対する固定弾幕射撃地帯を定め、戦車の攻撃を受くる虞ある方向に対し連隊砲及び大隊砲を以って対戦車火網を構成することに関し、歩兵支援砲兵群長に指示を与う
      5. 打撃(第二線)大隊の陣内火網構成に関する指示を与え、逆襲準備方向に対する砲兵の任務を示す
      6. 連隊守備地域の技術的作業を計画す
    17. 第240
      第一線大隊長は自己の偵察に基き、左の如く処置す
      1. 各狙撃中隊占領地区を示し、直接警戒部隊を派遣す
      2. 機関銃中隊に、遮蔽陣地よりする射撃の為の諸元決定に関し、任務を与う
      3. 陣地帯前方に対する機関銃中隊の火網を構成し、且つ短機関銃に任務を与う
      4. 狙撃中隊の射撃地域を示す
      5. 歩兵支援小砲兵群、迫撃砲、及び対戦車資材に任務を与う
      6. 機関銃中隊及び第二線中隊に陣内火網構成に関する任務を与え、全周防禦の際に於ける第二線中隊の予備陣地を示す
    18. 第241
      陣地占領に当たり、各幹部は当該部隊に与えられたる射撃地域に於いて、決戦距離たる400米以内の地区に於いては敵に死角を与えざる如くあらゆる手段を講ずるを要す。陣地対前縁より400米の地帯内の各地点は悉く各種の火力、特に斜射側射に依りて火制せられざるべからず。隣接部隊との接合部に於いて特に然り。 近距離に至って初めて射撃を開始し、而も最も有効なる火力を発揚する為には、高度の忍耐力を必要とす
      各火点ならびに対戦車砲、若し敵捜索部隊又は前方部隊との戦闘に於いて其の位置を暴露せば、必ず陣地変換を行うを要す
    19. 第242
      敵の突撃準備破摧の目的を以って、軍団長は逆襲的砲撃を行うことあり。集結せる敵(突撃発起位置にある歩兵、出撃陣地に在る戦車、判明せる司令部及び通信中枢等)に対する逆襲的砲撃は比較的狭小なる地域に対し行うものとし、其の範囲は之に使用する砲兵の兵力に依りて決定す。然れども、其の範囲は為し得る限り歩兵1師団以上の敵の打撃兵力全部を包含するを要す(約2粁)
      逆襲的砲撃は原則として敵の準備砲撃に対し機先を制するを要す
      逆襲的砲撃に参加する砲兵は予備陣地より之を行うものとす
    20. 第243
      敵は警戒部隊の攻略後、主力の準備未だ完からざる時期に於いて弱点を暴露することあり。此の場合に於いては、師団長は捜索機関の情報に基き、機を失せず1又は数個の支隊を以って積極的に敵の前方部隊を駆逐し、攻撃準備を攪乱することを得。本行動は夜間之を行うを以って最も安全なりとす
      此れ等出撃支隊の攻撃及び撤退は、凡て師団砲兵の火力を以って掩護せらるるを要す
    21. 第244
      戦闘司令所は通信連絡の施設ならびに戦闘指揮容易にして、其の位置より逆襲を指導するに便なる地点に之を選定す。戦闘司令所は其の近傍に自己の監視所を有するのみならず、之を補足する目的を以って補助監視所(複数)を設定し、幕僚幹部をして同所より戦場を監視せしむるを要す。尚、敵の突破を受くる場合を予想し、予め予備司令所を選定し置くこと肝要なり。防御に於ける通信連絡組織は左記要求に応ずるを要す
      1. 濃密且つ完全なる有線通信網を備え、予定せらるる戦闘司令所の通信施設を完備し、且つ迂回路を準備す
      2. 逆襲の場合を顧慮し予備通信機材を控置す
      3. 電話ならびに無線電話の窃聴及び傍受を予防す
      窃聴を避くる為、第一線より3乃至4粁の地域に在る電話線は悉く之を往復線とし、且つ重要なる地域に於いては地下線を採用す
      防禦に於ける無線通信は主として受信に使用せらる
      無線の発信は戦闘開始後に於いてのみ之を許し、陣内戦の指導に利用せらる
      但し、左の場合に於ける無線通信は制限を受けざるものとす
      1. 捜索部隊の通信
      2. 砲兵射撃指揮の為の砲兵部隊内の通信
      3. 飛行機との連絡、ならびに飛行機相互の空中通話
      4. 逆襲時、戦車との連絡ならびに戦車部隊内部の通話
      5. 対空防禦警報
      窃聴及び無線連絡機関は、敵の電信、電話、及び無線通話の傍受に任ず
      通信機材に依る通話を制限し、且つ之を秘匿する為、周到なる注意を以って秘密通話を適用すること肝要なり(通話表、暗号、無線信号其の他)
    22. 第245
      空中及び地上捜索は、敵の兵力編組を偵知し、重砲、戦車、其の他重要戦闘資材を発見し、其の数量ならびに型式を査定し、敵の主攻方向を探索し、砲兵の配置、戦車の待機ならびに出発陣地、化学部隊(迫撃砲)、戦闘司令所及び監視所の位置、歩兵の配置濃密なる地区、第二線部隊及び機動部隊の位置等を偵知せざるべからず
      特に俘虜獲得の目的を以って、夜間敵戦闘部隊に対し戦車及び歩兵の奇襲を行うを要す
    23. 第246
      狙撃大隊長は其の地区の守備に任じ、常に完全に包囲せられたる場合を顧慮して防禦戦闘を準備すべし。大隊長の其の打撃部隊を以ってする逆襲は短切に実施せられざるべからず。第一線大隊の主要なる任務は、敵の歩兵及び戦車に対し重軽歩兵火器及び対戦車砲の全火力を挙げて之を圧倒し、以って能く其の守備地区を確保するに在り
      大隊長は常に之を支援する砲兵と連絡を保持し、機関銃及び砲兵の火力を併せて、敵歩兵を戦車より分離することに努むべし
    24. 第247
      連隊長は敵の主力集団に対して砲兵火力を集中し、拘束部隊たる大隊の戦闘を指揮す
      敵戦車我が第一線を通過して突破し来る時は、連隊長は之に対し機動的戦車予備隊(配属せられある場合)を指向す
      敵歩兵、若し陣地帯内部に突破し来らば、連隊長は全火力を挙げて其の前進を阻止し、連隊打撃部隊及び戦車を以って之を逆襲す
      対戦車資材は対戦車地区を撤すること無く、四周に対して之を守備す
    25. 第248
      師団長は敵主力に対し師団砲兵の阻止射撃を集中して、歩戦を分離せしむることに努む
      敵戦車陣地帯内部に突破し来る時は、師団長は其の機動的対戦車予備隊を之に指向すると共に、自己の戦車を以って敵戦車を襲撃す。敵の戦車を撃退し、其の歩兵を混乱に陥れ得たる時は、師団長は各連隊の逆襲を統一し、自らも亦機を失せず其の打撃部隊を以って逆襲を行い喪失せる陣地を回復す
      逆襲は苟しくも使用し得べき全力を挙げて之を行い、陣地帯第一線を回復し得るに至るまで続行せざるべからず
      若し陣地の全正面に亙りて敵の突破を受け、完全に陣地組織の崩壊を見るに至らば、寧ろ逆襲を中止して打撃部隊の位置する既設陣地に依り防禦に転移するを有利とす
      逆襲中止に関する決心は師団長に限り其の権限を有するものとし、此の際に於いては速かに之を軍団長に報告するものとす
      師団長は自己の飛行機を以って絶えず戦闘進捗の状況を監視す
    26. 第249
      軍団長は多くの場合単に予備隊を部署するのみとし、若し敵の突破大なる危険を呈するに至らば、軍団予備、上級兵団より増加せらるる兵力(軍予備)、ならびに比較的緩なる正面に在る師団の部隊にして適時抽出使用し得る兵力を以って打撃兵団を編成し、之を以って突破せる敵を逆襲して之を撃破し、陣地帯を回復するを要す
      軍団長の予備少数にして、而も戦車を有せず、師団より之を抽出することも不可能なる場合に於いては、軍団予備は之を師団に増加するか、或は一時敵の戦果拡張を阻止する目的を以って之を小規模の積極的行動に使用することを得
    27. 第250
      敵の強大なる機械化部隊、陣地帯後方に突破し来るときは、軍団長は該部隊と後方との連絡を遮断し、且つ突破孔の拡大を防止する目的を以って全力を挙げて突破孔の閉塞を企図せざるべからず
      此の場合、あらゆる後方施設ならびに後方部隊は、最寄の戦車近接不能地区又は地点に掩蔽し、自己の兵力を以って防禦し得るの準備に在らざるべからず
      突破せる敵機械化部隊を撃滅するは、軍予備及び航空部隊の任とす
    28. 第251
      着陸せる敵の空挺挺身隊との戦闘は、軍団長及び軍司令官の編成する特別支隊を以って之を行う
      航空部隊は挺身隊の飛行中ならびに着陸に際して之を攻撃し、爾後其の行動を監視しつつ特別支隊又は後方守備部隊を之に誘導す
    29. 第252
      仮令敵の攻撃開始後と雖も、軍団に配属せられたる襲撃及び軽爆飛行隊は逆襲に参与して敵の砲兵及び戦車を撃破し、第二線部隊の前進を遮断し、或は着陸せる敵の挺身隊を襲撃し特別支隊又は後方守備部隊を之に誘導す
      駆逐飛行隊(軍団に配属せられある場合)は、主として敵航空部隊との戦闘に任ずると共に、襲撃及び軽爆飛行隊の行動を掩護す
    30. 第253
      防御に於いては左の如く化学兵器を使用することを得
      1. 突撃準備中敵の強大なる兵力資材の集結せられある地域の毒化
      2. 陣地帯前方に於ける遮蔽近接路の毒化
      3. 敵砲兵陣地及び観測所地域の毒化ならびに目潰
      4. 敵の密集部隊ならびに近接中の敵予備隊に対する毒物攻撃
      化学部隊は防禦に在りては、煙幕の展張、陣地前又は陣内に於いて攻撃中の敵に対する火焔攻撃ならびに消毒の為使用せらる
    31. 第254
      河川防禦は左の如く実施せられざるべからず
      1. 陣地帯の前縁は其の大部を我が方の河岸に選定す。河川重大なる対戦車障碍を呈する時に於いて特に然り
      2. 広正面に亙る多数の渡河点を我が手中に保持し、将来の攻勢移転を容易ならしむ
      攻勢防禦を行う場合に在りては、将来の攻勢移転計画に基き配備を決定せざるべからず。渡河点の配置は、各渡河点を渡河せる部隊をして相互の戦術的協同に便なる態勢を占めしむるを以って主眼とす。主攻方面には最も多数の渡河点を有せざるべからず。之が為、我に有利なる河川の屈曲部は凡て之を利用す。砲兵の配置は攻勢移転の主義に合致するのみならず、我が橋梁に向かい攻撃し来る敵を側射し、或は 隣接橋梁よりする逆襲を支援し得ざるべからず
      橋梁は我が陣地帯に湾入せる河川の屈曲部に架設するを最も有利とす。橋頭堡は敵の機関銃火力及び砲兵観測に対し橋梁を援護すると共に攻勢移転の為の各部隊の展開を容易ならしむるものにして、橋頭堡は我が河岸よりする機関銃及び砲兵の側防火に依り掩護せらるるを要す
      橋梁は単に敵の地上視察に遮蔽しあるのみならず、空中に対しても亦十分防禦手段を講ぜられあるを要す
      河川に沿う陣地帯は遮蔽交通路及び通信網を完備し、逆襲又は攻勢移転に当たり軍隊の機動を容易ならしむる如く設備せられあるを要す
    32. 第255
      広正面防禦は、兵団が防禦の為著しく広大なる正面を与えられたる時之を行う
      広正面防禦に在りては一連の陣地帯を構成すること無く、防禦は敵の前進を予想せらるる方面に構成せる個々の防禦地区と、此れ等防禦地区相互、ならびに後方に配置せらるる打撃部隊との協同動作を基礎とす
      広正面防禦の主体は大隊防禦地区(守備地区)にして、其の任務は火力を以って敵を撃退し、若しくは之を拒止して打撃部隊の到着を待つに在り。砲兵は連隊地域及び大隊地区に分属せらる
      大隊地区相互間の間隙は、敵をして歩兵の真配備を誤認せしむる為、警戒部隊(機関銃を有す)及び偽陣地を以って閉塞するを要す
      右の外、大隊地区相互間の間隙は両隣接地区よりする機関銃及び砲兵の十字架を以って火制せられざるべからず。又、此の間隙は持久毒物を以って毒化せらるることあり
    33. 第256
      移動防禦は、某種の作戦構想に依り、仮令若干の地域を犠牲とするも之に依りて時間の余裕を得、且つ兵力の壊滅を避けんとする場合之を行う
      移動防禦は決戦を避けて、隠密なる離脱と新陣地の占領とを反復する屡次の防禦戦闘に依りて成立す
      移動防禦に在りては、一般の場合に比し少数の兵力を以って拘束部隊を編成するのみならず、師団砲兵は通常分属主義を採り、各連隊ならびに屡々各大隊に配属せらる
      某線より某線への退却は、交互に逐次之を行うか、或は後衛の掩護の下に実施せらる
      技術的ならびに化学的障害物は移動防禦に於いて屡々有効に実施せられ、飛行機は其の数仮令十分ならずとも広範なる使用に供せらるるものとす
      移動防禦に在りては屡々展開中の敵に短切なる打撃を加え、或は無謀に前進する敵を邀撃する等、あらゆる好機を利用すること肝要なり
    34. 第257
      兵団の退却は上級指揮官の命令ある場合に限り之を行うことを得。但し、兵団指揮官が与えられたる任務に基き一層有利なる態勢を以って敵と戦闘する為、自己の独断に依り単に兵団の一部のみを後退せしむるは此の限りに非ず
      計画的に戦闘を離脱する場合に在りては、兵団拘束部隊の兵力は逐次減少せざるべからず。拘束部隊よりする兵力の抽出は、逐次後方地線に向かう退却に当たり之に伴う機動に依りて実施せらる
      後衛は有力なる火力資材を有せざるべからず
      機械化兵団及び戦略騎兵(若し存在せば)の一部は敵追撃縦隊の側面及び背面に打撃を加うる為に使用せらる。尚、騎兵団(部隊)は地形を利用して数段の移動防禦を行い、歩兵部隊の退却を掩護す
      戦闘飛行隊は後衛と協力して敵の追撃を妨害し、敵の空中捜索及び襲撃に対して主力の退却を掩護す
      砲兵指揮は通常分属主義に依る
      狙撃部隊は独立して師団長の指示せる後方陣地帯に向い後退するものとし、中間目標線に向う退却間に在りては、連隊長は絶えず隣接部隊の側面を安全ならしむる手段を講じ、常に隣接部隊に連隊の退却状態を通報す
      戦闘離脱に於ける諸兵連合の単位は大隊とし、大隊は各種の火力及び運動を統合するものとす
      各部隊は敵航空部隊の退却部隊に対する行動の可能性を顧慮し、適時対空防禦の手段を講ぜざるべからず(高射砲及び高射機関銃の移動、退路上に於ける隘路の防空強化、開豁地に於ける、軍隊、砲兵、及び輜重等の密集回避等)状況若し之を許さば、退却及び戦闘離脱は夜間之を行うを有利とす
      夜間の退却及び戦闘離脱に当りては、其の掩護は之を機関銃を有する少数の捜索部隊及び斥候に制限することを得。掩護の為残置せられたる部隊は、敵を偽騙する為退却前と同様の行動を継続するを要す
      敵の追撃を阻止する為、予め軍司令官の承認せる一般計画に依り、橋梁、道路、及び諸施設の破壊を行う。本計画は破壊すべき諸物件を列挙し、破壊を命ずべき指揮官、及び其の時期を明示す。停車場ならびに其の付属設備、鉄道橋及び鉄道破壊の為、若し鉄道部隊の部署無きか、或は之を欠如せる場合に於いては主力より特別の人員を派遣す。 後衛の通過すべき橋梁は爆破すること無く、単に爆破の準備を行うものとし、此れ等の橋梁に残置せられたる人員は、後衛橋梁を通過するや直ちに爆破を行う。若し、一層早く橋梁の爆破を行うの必要ありたる時は、敵岸に残りたる兵力大ならざる限り、軽渡河材料に依り架設せる橋梁を経て我岸に撤退せしむることを得べし
      戦闘離脱に当りては、通信部隊は広範なる機動を行い、当時の状況に適合する如く逐次交代を行う
      退却に当りては、戦闘司令所の運動軸に沿い情報蒐集所及び中間連絡点を配置し、其の位置を各司令部及び軍隊に通報す
      無線通信は専ら無線略符を使用す
      高級指揮官と後衛との通信連絡ならびに配属、又は支援砲兵との協同に必要なる通信組織に関し、特に注意するを要す
    35. 第258
      築城地域は次の場合に於いて適時構成せらる
      1. 経済的、政治的、ならびに戦略的要点又は地区を我が手に保持せんとする場合
      2. 展開及び機動の為必要なる地域を保持せんとする場合
      3. 主攻方面に於いて打撃に任ずる諸兵団の側面を援護し、機動の自由を確保せんとする場合
      築城地域の任務は、敵をして多くの時間を費やし強大なる兵力資材を集結して正面攻撃を行うの止む無きに至らしめ、永久築城の火力を以って之を破摧し、野戦部隊の側面攻撃を以って之を撃滅するに在り
      築城地域内の某地区に在る兵団は、一部の兵力を以って永久築城を、他の一部を以って之を補足強化すべき野戦築城を占領し、残余を以って打撃部隊を編成す
    36. 第259
      対空防禦は次の如く之を行う
      1. 陣地帯拘束部隊に属する歩兵部隊は自己の資材を以って
      2. 連隊ならびに師団(軍団)打撃部隊は、其の編成内に在る歩兵部隊の資材、及び連隊ならびに師団(軍団)高射部隊を以って
      3. 砲兵は自己の有する高射資材、及び師団ならびに軍団の資材を以って
      対空監視及び監視斥候は全周に対する監視を遺憾無からしむる如く配置せられ、前方部隊、警戒部隊、各大隊、各連隊本部、及び師団ならびに軍団司令部、其の他特科部隊に設置す
    37. 第260
      防禦に於ける対化学防禦は、単にあらゆる一般的手段のみならず、敵の継続的瓦斯攻撃に対抗する為、特殊の手段を予定せざるべからず。即ち、
      1. 瓦斯掩蔽部の構築
      2. 長時間毒物の攻撃を受けたる部隊の交代
      3. 毒化地域より部隊を撤退せしむる場合に応ずる予備陣地の構築
      4. 化学攻撃の根源に対する戦闘