作戦要務令

第三部


第2篇 補給及び給養

通則
  1. 第111
    補給及び給養は軍隊の戦闘力を維持増進する為必須の要務にして、之が適否は作戦に重大なる影響を有す。而して、軍の需要は輓近益々複雑多量となり、補給及び給養を困難ならしめ易し。不毛、極寒の地に於いて特に然り
  2. 第112
    高級指揮官は絶えず作戦の推移に応ずる軍の需要を予察し、其の緩急を明かにし、補給路の設定、輸送機関の運用、軍需品の整備、交付等を適切ならしむる如く、勉めて計画的に統制ある補給を行うこと緊要なり
  3. 第113
    高級指揮官以下は補給に関し絶えず部下軍隊の現況を明かにし、必要の事項を上級指揮官に報告し、補給機関との連絡を密にし、所要の軍需品を充実し、常に其の戦闘力を完備せしめ、緊急の場合に於いては自ら責に任じ機宜の処置を講ずるを要す
  4. 第114
    高級指揮官は補給を円滑ならしむる為、各種輸送機関の特性を発揮せしむると共に其の濫用を戒め、適宜整備の時日を与え、又、道路の維持、補修、及び交通整理に留意すること緊要なり
  5. 第115
    各級指揮官は軍需品を節用愛護し、現地物資を収集、利用する等、軍需品追送量の軽減に勉め、緊要なるものの補給を容易ならしむるを要す
  6. 第116
    広く敵国の工場施設を利用するは、軍の戦闘力を保持増進する為極めて緊要なり。故に、軍隊は之を占領せば其の破壊及び散逸防止の処置を講ずると共に、速やかに之を報告し、其の利用に遺憾なからしむるを要す
  7. 第117
    補給に任ずる指揮官は、常に戦況及び地形を詳かにし、進んで上級指揮官の企図、及び関係部隊の状態、特に其の希望を詳知するに勉め、適時補給の状況及び自己の企図を報告、通報し、要すれば意見を具申し、積極的に行動し、以って補給をして戦機に投合せしむること緊要なり
  8. 第118
    高級指揮官は自己の企図に基き、補給を受くべき軍需品、補給点(師団等に対し補給品を交付する為定められたる地点を謂う)、輸送機関、及び軍隊装備の現況、現地物資の状況、道路の状態等を考慮し補給計画を定む
  9. 第119
    補給に方りては単に数量の全きを以って満足することなく、其の実質を完全ならしむるに勉むるを要す
  10. 第120
    状況に依り、兵站輸送機関の一部を第一線兵団に配属して其の輸送力を増大し、或は師団輜重の一部を兵站に転属し、時として此等を臨機改編する等、特別の手段を講ずることあり。此の際、高級指揮官は所要に応じ其の積載品の品種、数量等に関し標準を定むるものとす
    輜重と弾薬班、段列及び行李との間に於いても亦、前項に準じ臨機の手段を講ずることあり
    各級指揮官は輸送機関の行動困難なる場合に於いては、弾薬、糧秣等を人力を以って運搬し、補給に遺憾なからしむるを要す
  11. 第121
    師団長、予備軍需品を集積するときは、弾薬、燃料、化学戦資材其の他の戦闘資材は兵器部長をして其の集積場に、糧秣其の他の給養品、被服、事務用品等は経理部長をして野戦倉庫に、衛生(獣医)材料は軍医(獣医)部長をして衛生隊(師団病馬廠)に保管せしむるを通常とす
  12. 第122
    師団長は作戦上の必要に基き、所要の軍需品を増加携行せしめ、又は直接必要なきものを残置せしむることあり。此の場合に於いては、之が携行、輸送、保管等に関し的確なる指示を与うること緊要なり
    各部隊長は、患者を運搬するとき、及び定数外の軍需品を運搬するときに限り、師団長の許可を得て一時行李を増加することを得。然れども、過度に之を増加し作戦行動に支障を及ぼすことなきを要す
    行李の予備車輌(予備駄馬)を使用する場合に於いては、1車輌(1駄馬)の積載量は定量の約半ばを超過せしめざるを要す
  13. 第123
    輜重の運用に方りては、動物輜重は戦線に近く、自動車輜重は後方に使用するを通常とす。然れども、道路及び他部隊の行動等之を許せば、所要の自動車輜重をして戦線近く迄直送せしむるを利とすることあり
    動物輜重、自動車輜重相互の接合点には、通常積換所を設くるものとす。而して、積換所は各種輸送機関の輸送力、道路網、授受の便否、特に交通整理の難易、敵火等を考慮し、成るべく戦線に近く選定するの着意を必要とす
  14. 第124
    師団長は装甲運搬車隊を主として緊要なる戦線に対する補給の為、第一線部隊に配属するを通常とす
  15. 第125
    現地物資を利用せんが為には、通常購買又は徴発に依るも、成るべく購買に依るを可とす
    徴発は高級指揮官の命令に依るか、若しくは其の許可を受けて実施するを通常とす。然れども、非常の場合に於いては各部隊長、或は其の地に於いて指揮を執る高級先任の将校は徴発の権を有す
    本令に示す徴発法は敵国に於いて行う方法にして、同盟国又は連合国に於ける徴発は別に定めらるる方法に依る
  16. 第126
    徴発せる物資に対しては賠償を与うるか、若しくは後日の賠償に資すべき証票を附与す。但し、賠償を受くべき者不在又は不明の場合に於いては公示等適宜の方法に依り賠償の処置を為すものとす
  17. 第127
    軍司令官又は独立せる師団長は、要すれば鹵獲品を以って其の隷下部隊の馬、器材、燃料、糧秣等を補充せしむることを得。然れども、所要の消(除)毒又は防疫の処置を講ずるを要す
  18. 第128
    軍需品は空襲の目標となり、或は敵の間諜又は小部隊の攻撃を受け易きを以って、警戒を厳にし、且つ其の集積法、偽装等を適切ならしむること緊要なり。弾薬、燃料等に於いて特に然り
    軍需品中、発火若しくは爆発性大なるものは之を離隔し、又気象の交感大なるものは適宜保護の処置を講ずるの着意を必要とす
  19. 第129
    集積又は輸送中の軍需品は予め被毒防止の処置を講じ、要すれば消(除)毒の準備を整うるものとす。而して、汚毒せられたる軍需品は所要の消(除)毒を行い、止むを得ざるものは之を廃棄す
  20. 第130
    軍の後方は屡々空襲の目標となり、又、機甲部隊、空挺挺身隊等の攻撃を受くることあり。之が為、各級指揮官は行李、輜重等の掩護に関し留意すると共に、此等部隊は常に警戒を厳にし自衛戦闘の準備に遺憾なきを要す。而して、戦闘に方りては勉めて積極的に行動すること緊要なり