作戦要務令

第三部


第2篇 補給及び給養

第2章 給養及び給養諸品の補給
  1. 第152
    高級指揮官以下は常に部下の給養に留意し、要すれば機宜の処置を講じ、以って之を完全ならしむるに勉むるを要す
  2. 第153
    給養は、各人馬の携帯する糧秣、行李及び輜重に携行する糧秣、倉庫の糧秣、若しくは部隊の購買、徴発せる糧秣に依るを通常とし、稀に舎主の供給する糧秣等に依ることあり
  3. 第154
    人馬に対し給与すべき糧秣の標準の定量を基本定量、行李及び輜重に携行する定量を携行定量、各人馬の携帯する定量を携帯定量と謂う
    状況、特に戦況、現地物資の状態等に依り、前項の諸定量中、其の品種及び量を変更し、或は標準金額を示し部隊をして適宜調達せしむることあり
    軍より師団等に対し補給する定量(補給定量と謂う)は、作戦地の状況に依り異なるものにして、適時指示せらるるものとす
  4. 第155
    基本定量に対する不足の糧秣(補足糧秣と謂う)は給養単位たる部隊長勉めて之を充足し、高級指揮官も亦、諸種の手段を講じ物資を調達して各部隊に交付するを要す
  5. 第156
    携帯糧秣は他に給養の方法なきとき、師団長の命令に依るか、各部隊長自己の責任を以って之を使用するものとす。而して、後の場合に於いては、速やかに順序を経て師団長に報告するを要す 携帯糧秣を使用したる際、之が補給を受け得ざる場合に於いては、各部隊長は先ず行李糧秣其の他の代用品を以って繰替補充するものとす
    各級幹部は厳に部下を監視し、常に携帯糧秣を完全に保持せしむるを要す
  6. 第157
    行李糧秣は部隊長自ら之を使用し、部下の給養に充つるものとす
    師団長は行李糧秣補給の為、各部隊長に糧秣交付所の位置、補給すべき糧秣の種類、数量、交付開始の時刻等に関し、必要なる事項を示す
    行李糧秣使用後、補給を受け得ざる場合に於いては、各部隊長は機を失せず現地物資により之を補充するに勉め、且つ其の状況を師団長に報告するものとす
  7. 第158
    輜重糧秣は師団長をして、通常行李糧秣の補給に使用するものとす
    師団長、輜重糧秣を各部隊に交付する場合に於いては、機を失せず輜重兵連隊長に交付すべき糧秣の種類、数量、地点、時刻、受領者、要すれば交付直後に於ける行動等に関し命令す
    輜重兵連隊長は前項の命令に基き所要の部隊を前進せしむ。師団長は其の経理部長をして所要の人員を派遣して之を受領し、糧秣交付所を開設し各部隊に交付せしむ。状況に依り、輜重隊より直ちに各部隊に交付せしむることあり
    糧秣交付所の位置は、敵情、各部隊の状態、道路網の関係等に依り異なるも、特に各部隊に対する授受の便を考慮し、通常1若しくは数箇所に選定す。行李、独立して宿営する場合に於いては、行李の宿営地附近に之を選定するを可とす
  8. 第159
    野戦倉庫は師団又は軍に於いて、各々其の作戦地域内に主として給養諸品を集積する為、其の経理部長をして設置せしむるものにして、現地調達若しくは追送に依り充実するを通常とす
    軍隊駐留するときは速やかに野戦倉庫を設置し各部隊の給養に便ならしむるを可とす。状況に依り、軍隊行動間に於いても野戦倉庫を設置するを有利とすることあり
  9. 第160
    広く現地物資を利用するは、給養を円滑良好ならしむる為大なる効果あるものとす
    状況に依り、軍隊自ら薪炭、干草等を製造若しくは採集するを要することあり
  10. 第161
    現地物資を利用するに方りては、調達の方法を適切にし其の散逸を防止すると共に、妄りに之を消費し、或は今だ之を取るべきの期に至らざるに使用し尽くし、為に爾後の利用困難に陥るが如きことなきを要す
    前方に在る部隊は常に背後より来る諸部隊の需要を考慮し現地物資の確保に勉め、又適時其の状況を報告、通報するものとす
  11. 第162
    軍隊は、高級指揮官の命令あるにあらざられば、其の地方の物資を燼滅し、又は必要以上に携行するを許さず。但し、退却等の場合に於いては糧秣其の他の諸品を敵手に入らしめざる如く処置すること緊要なり
  12. 第163
    各部隊の現地物資調達区域は通常其の宿営(戦闘)地域内とするも、他部隊の在らざる地区には適宜調達区域を拡張することを得。而して、数部隊相隣接しある場合等に於いては、上級指揮官は必要に応じ之が境界を指定するものとす
    高級指揮官は予め各部隊に物資調達の標準価格を指定し置くものとす
  13. 第164
    高級指揮官自ら徴発を実施せんとする場合に於いては、其の経理部長をして之に任ぜしむるを通常とし、其の実施に方りては特に地方官憲をして協力せしむるに勉む。若し、地方官憲又は住民にして徴発に応ぜざるか、或は敵意を有する場合に於いては、将校の指揮する軍隊をして之を援助せしむ
  14. 第165
    各部隊直接徴発を実施せんとする場合に於いて、各部隊長は時間の余裕あるときは地方官憲又は住民中の名望ある者に日時及び地点を告知して所要の物件を提供せしめ、時間に余裕なきか又は前記の要領に依り難きときは将校の指揮する徴発隊を編成し、徴発物資、賠償の方法、警戒、其の他徴発隊の遵守すべき事項等に関する細密なる規則を設け、至厳なる監視の下に施行せしめ、且つ、其の状況を高級指揮官に報告するものとす
    各部隊の徴発に依る給養法は資源を節用し難く、且つ之が使用の均衡を得ざるの弊あるを以って、給養品の購買又は追送の途なき等、止むを得ざる場合に限り行うべきものとす
  15. 第166
    舎主の供給する糧秣に依る給養に於いて、現金を以って支払うべき命令なきときは、軍隊は舎主に所定の証票を交付するものとす
  16. 第167
    炊事は主として飯盒に依るも、為し得れば地方炊具を利用するを有利とす。而して、行李に携行する野戦炊具は、飯盒炊事に便ならざるか、或は之を不利とする場合、又は地方炊具の不足を補う為使用す。之が為、師団長は携行の野戦炊具を所要の部隊に予め交付し置くを可とすることあり
    炊事に方りては、各部隊長は井泉の配当、糧秣及び薪炭の分配、炊事単位、炊事法、炊事場の位置、炊事終了の時刻、警戒の要領等に関し必要なる事項を示し、以って炊事の為戦備を欠き、若しくは混雑を惹起するが如きことなからしむるを要す。警戒部隊等に於いて特に然り
  17. 第168
    飲料水を得難き地方に在りては、高級指揮官以下は水の補給及び節約に関し周密なる注意を必要とす。之が為、高級指揮官は、作井、濾水、及び貯水の方法を講じ、或は給水源を配当し、或は他より良水を得て之を各部隊の位置に輸送分配せしむ。状況に依り給水所を開設することあり。また、各部隊には作井機、濾水機、浄水剤、搬水具、沸水車等を携行せしむ。何れの場合に於いても水の検査を励行すると共に防疫の処置を講じ、以って病原菌其の他毒物に依る被害を予防すること緊要なり
  18. 第169
    給養機関を有せざる小部隊の給養は、配属を受けたる部隊又は之を区処する部隊に於いて担任するを通常とす
    給養機関を有せざる小部隊より給養の援助を請求せられたる部隊は、之に応ずるを要す