私論 陸海軍の軍用機


陸自生徒(中退)と海自曹学の経験があり、本業との兼ね合いから軍事技術史の勉強 を続けています。旧陸海軍の軍用機統一に関する考察、これまでの各論興味深く拝見 させていただくと共に、参考とさせていただいております。まったく各論ご高説の通 りと存じます。一部重複するかとは存じますが不整合、不統一の要因につきまして、 私事若輩ながら私見申し上げます。

1.技術行政面

2.作戦運用上の要求スペック

3.運用及び航法

このうち、1.2.につきましては、既に各論ご高説の通りかと存じますので、3. について申し上げます。

あるいは、一般的に語られることが少ないのかもしれませんが、航空機搭乗員は、 基本的な操縦や航空工学、航空理論などの教育については同一ですが、陸、海(軍) では当然ながら異なる教育を受けます。陸の航法では地形判別に伴う地上目標の索敵 が主となり、海では洋上における目標の索敵が主となります。

これは現在の自衛隊で も大差ありません。ただし、旧軍の場合は空軍なるものが存在しませんでしたので、 陸、海それぞれが前述のような特徴以外にも、広域の防空任務を果すことが要求され ております。任務上は、こうした共通項が見られるにもかかわらず、本質的には異な る用途に供されるという点が、旧陸海軍の各軍用機仕様(スペック)を大きく左右し た節が見受けられます。

たとえば、零戦は空戦性能の面だけで軽量化が図られたので はなく、海軍機であるために不時着水時、搭乗員が操縦席から脱出できるまでの間、 浮力を保つように初期設計されており(「零戦」朝日ソノラマ・堀越二郎・奥宮正武 著)、したがって、余談ながら従来の風評的定説にありますように、零戦が人命軽視 の設計思想を有したという主張も必ずしも正論たり得ないものと存じます。

生徒当 時、航空科出身の教官から聞いた話ながら 陸上の飛行と海上の飛行とでは視野感覚がかなり異なるそうです。空自の偵察 飛行隊にはベテラン操縦士が起用されるというのも、なるほど分かるような気がしま す。航空自衛隊において、優秀な操縦士の条件は単に空戦に優れているだけでなく、 陸、海双方の航法や射爆等の想定訓練に長けた操縦士であると言われています。やは り旧陸海軍においても、作戦任務や航法の違いによる差を、技術的整合性という形で 帰結させることは極めて困難であったのかもしれません。

海自 ヘリの航法上の特徴など、その一部を拙書小説ながら記しておりますので、 なにか宣伝めいて恐縮ながら、ご高閲いただければ幸甚です。テーマ掲げていただ き、ありがとうございました。

「有事 防衛庁特殊偵察救難隊 (学研・歴群新書) 中村ケイジ」