−空冷エンジンと液冷エンジン−


なんかこうテーマ的に昔から論じられていることなので「マタか・・・」と思われ
そうですが、今回のテーマはあくまで”エンジン(発動機)”。
「空冷機と液冷機」ではないところがミソです(なんだそりゃ)。

○空冷?液冷??
”ヒコーキ大好き”な皆様にとって空冷・液冷の意味する物が分からない方はいら
っしゃらないとは思いますが、いちおう”おさらい”しておきましょう。
この言葉が意味するものはすなわちエンジンの「冷却方式」です。空冷エンジンは
発熱したエンジンを直接外気等にあてることにより放熱・冷却させます。特徴はず
ばり「軽量・簡易構造」ですね。液冷の場合はエンジン内部に「ウオータージャケ
ット」と呼ばれる空間をつくり、その中にクーラント液(冷却液)を通す構造が一
般的です。つまりエンジンで発生した熱が熱伝導でクーラントに伝わり、その熱を
外部で冷却してやることによって排熱するわけです。多くはラジエターと呼ばれる
熱交換器を利用していますが、このラジエターを冷却する際に空気中への放射冷却
に頼っていますので結局は両者とも最終的にはエアクーラントな訳です。

○冷却効率
一般的に液冷(水冷)エンジンは空冷エンジンよりも冷却効率が高いと言われてお
ります。ガソリンエンジンでは燃焼時にエネルギーの30%程が熱損失で奪われる
といいますから、冷却効率が高ければそれだけエンジンに対する要求も大きくでき
ることになります。ではなぜ空冷だと限界が低いのか・・・?
空冷エンジンの場合シリンダー上部やシリンダーヘッド等熱が多く発生する部分に
大きなヒダ(冷却フィン)を設けて表面積を大きくすることにより、放射冷却を促
進させています。発熱量が大きくなればなるほどそれを補うために当然それに見合
った分だけ表面積を増やさなければなりませんから「フィンを大型にする」もしく
は「フィンを増やす」等の対策が必要になってきます。しかしこれは無限に対応で
きる訳ではありません。もちろん多気筒エンジンではお互いのスペースの問題もあ
りますが、主な理由は次の通りです。

・冷却フィンに効率よく熱を伝導させるには、ある一定の”厚み”が必要である。
・冷却フィンが熱を持っている状態のとき、その表面には”暖かい空気の層(境界
層)”が出
来るが、非常に粘性が高いので(フィンに張り付いている)冷却するためにはこれ
を強力な空気の流れで吹き飛ばさなければならない。そのためフィン同士はあまり
密に並ばない方が望ましい。

では一方の液冷の場合はどうでしょうか。一口に言えば「ラジエターの容量を増や
せばよい」ということになります。しかもラジエターの配置場所には特に制限はあ
りません。冷気を取り込むのにもっとも効率が良いところに置いておけばよいわけ
です。
空冷と液冷の冷却効率を考えた場合実はもっと”大きな差”があります。それは、

・液冷ではウオータージャケットをどこに配置するかで、「積極的に冷却したい部
分」・「過冷却させたくない部分」を自由に選べる。
・クーラントの温度管理さえ出来れば、エンジンを常時適切な温度条件で運転でき
る。

という理由です。
エンジンは「冷えれば良い」というものではありません。適当な発熱があるからこ
そ、ガソリンが効率よく気化し燃焼効率がアップするのです。航空機に搭載された
エンジンの動作環境はかなり過酷です。地上で始動させたときは大気温度が摂氏2
0度で効率よく運転できても、高々度では零下30度以上の冷気を吸い込んでしま
うわけですから。空冷エンジンでは(混合気の)急激な温度低下が起きると燃焼室
自体もかなり影響を受けますが、液冷では熱を持ったクーラントがエンジンを適温
に保ってくれますので、かなり安定して燃焼を続けることができます。これは二輪
車等を寒冷地で乗っておられる方は経験があるかと思いますが、空冷バイクではエ
ンジンを止めた後1時間も放っておけば再始動が困難となるところが、水冷だとク
ーラントの保温効果のおかげで割と難なく始動できるのと同じ理屈です(車種によ
ってはキャブレターにまでクーラントを廻しているものもあるほど)。混合気やシ
リンダーはたしかに温度が上がりすぎてもよくないですが、冷たすぎても不完全燃
焼のモトになってしまうんですね。そのため普通は一番発熱が大きいシリンダーヘ
ッド(特にプラグのある部分)やシリンダー上部を積極的に冷却するようにしてい
ます。液冷の場合はこの部分にクーラントの通う通路を大きく持っておけばよいわ
けです。空冷の場合はシリンダーヘッドの形状がかなり複雑になるので工作は容易
ではありませんね。しかもクーラントを適温に保ちたい場合にはサーモスタットを
利用してエンジンからラジエターまでの通路に設けたバルブを動作させてやれば自
動的に制御できるのです。冷えすぎたらバルブを閉じてクーラントの流れを滞らせ
ればいいだけですからね。
今回は空冷・液冷というテーマなのであえてエンジンオイルによる冷却はとりあげ
ませんが、空冷の場合はこのオイルに頼る部分もかなりのウエイトを占めていると
だけ書いておきます。

○軍用機としての空冷・液冷エンジン
よく液冷エンジンは「被弾に弱い」とありますが、液冷の冷却方式を考えれば簡単
なことですね。はい、弱いです。
なにしろシリンダーごとにウオータージャケットで”ぐるぐるまき状態”ですから、
 このどこか一個所でも穴が開けば冷却液はドクドクと漏れはじめて(クーラント
はウオーターポンプを使って巡回している)しまいますから、クーラントの流れが
止まったシリンダーは数分と経たないうちにオーバーヒートによる焼き付き(高温
にさらされることによりシリンダーとピストンが設計値よりもはるかに膨張して、
ピストンが動かなくなる現象)を起こしてしまいます。焼き付いたエンジンはその
場で止まります。たとえ18気筒のうち1気筒だけが焼き付いたとしても、クラン
ク軸はすべてに直結された関係にありますから他のピストンも動かなくなるのです
。これはかなり悲惨です。しかも焼き付いたシリンダーとピストンはそっくり交換
するしかないでしょう・・・。空冷エンジンならたとえ一本を残して残りのシリン
ダーに全て被弾したとしてもオイルが全て流れ出なければ動く可能性はあります。
しかもオイルパン(エンジンオイルを溜めてある場所。クランクケース下部)さえ
やられなければかなりオイルの吹き出しは防げるはずですから、耐久性はよさそう
です。次に危ないのはオイルポンプか各シリンダーのヘッド部分でしょう。オイル
ポンプは死んでしまえば各部のオイル供給がストップしてしまうのでかなりヤバい
ですが、シリンダーヘッドも吸排気バルブを潤滑させるためにオイルを吹き付けて
いますからここに穴が開くとかなりオイルを捨ててしまいそうです。ちなみにドラ
イサンプのエンジンではオイルパンにオイルを溜める代わりに、オイルキャッチタ
ンクというのを別の部分に持っていますので、装甲を施した部分にこのタンクを持
ってくればかなり安全であるかと思われます。もっともウエットサンプ・ドライサ
ンプは空冷・液冷には関係なく採用できますが・・・。
なんか話がオイルに傾倒してしまいましたね。この辺については機会があれば次回
に譲ることとします。(”油冷エンジン”っつうのもあるんですわ・・・)

○ところでなんで液冷?
知りません。(笑)
なんででしょうねえ・・・。私の知りうる範囲では循環させる際の物質の”粘度”
や単純に”比熱”を比べたら”純粋な水”がもっとも効果があるように記憶してい
るのですが・・・(なので現代科学のテクノロジーを結集させたレーシングマシン
では例外なく”純水”を使っている。だってLLCとか混ぜたら効率落ちちゃうし
・・・)。ちなみに水の沸点は1気圧だと100℃ですが圧力を加えてやることに
よって沸点をあげてやることが出来ます(1Kg/立方センチくらい圧力を与える
とその沸点は130℃くらいまで上昇させることができる)。
昔はたしかに100%のエチルなんちゃらとかいう”液体”をクーラントに使って
沸点を120℃くらいまで稼いでいたと記憶していますが(結構あいまい)、今は
どうなんでしょうか・・・。おそらく大戦中ならばクーラントに”水”かもしくは
”水+混ぜ物+加圧”程度だと思うんですけどねえ・・・。というか昔のエンジン
はシリンダーとヘッドのシーリングに問題があったんで(あまりクーラントに圧力
をかけられない)なんか別の液体を使ってたのかもしれないなあ。(なんか自分で
言っててウソくさいけど・・・)
ちなみに皆さんがお家で車に乗るときには冷却液に100%の水を使うのは止めま
しょう。冬場になれば凍るし、まちがいなくラジエターが錆びます(笑)。あれは
毎レースのたびに分解してメンテナンスを行うからこそ成せる技ですから・・・。

では、最後に。
「ねえ、なんで冷却液が沸騰しちゃいけないの・・・。」
「沸騰すると気泡が出来て冷却水とジャケットの接する面積が減るでしょ。以上!」


ということでこの文に対する皆様のご意見・ご質問・苦情・ご指摘などありました
ら辻までお願いいたします。今回も長い文章になってしまいましたね、ここまで読
んでいただいた皆様お疲れ様でした。


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