KANON in the AIR
Act.4 戦後・現代編



ウチュー人 ささき
crazy17@lanset.com





全壊 前回のあらすじ


 重くて発射速度が低くて故障多発のブローニング 12.7mm を備えた米軍と、低初速で装弾数の少ないエリコン 20mm の日本海軍、へっぽこ軽量弾のホ-103 12.7mm を備えた日本陸軍の壮絶な戦い!…が終わって地球に平和が訪れるかと思ったら、世の中そう上手くは行かないのであった。

さふっふっふ、久しぶりだねチキューの諸君…KANON in the AIR 著者にしてウチュー人のささきである。

彩アシスタントの彩華です。…久しぶりすぎます。Vol.3 のアップから半年以上経ってますよ、何サボってたんですか。

さサボっていた訳ではないぞ。つまりだな、その…なんだ、いろいろ忙しかったのだ。

彩言い訳ばっかり。どうせ放ったらかしてお酒なんて飲んでたんでしょ。

さ(ギク)そんな事は…ない!ウチュージン、ウソツカナイ。

彩もー、恵理子さんったら暇持て余してどっか行っちゃったじゃないですか。恵理子さん、出番ですよ。恵理子さーん!

恵あ、はーい!呼ばれて飛び出てジャジャジャーン、合いの手役の恵理子でーす!

さ合いの手役…

彩愛の手かも知れませんね。

さ確かに、お前のツッコミには愛がないからな。

彩人を小馬鹿にしたような発言ばかりするからです!何なんですか今回のタイトルは、へっぽことか低初速とか好き放題じゃないですか。

さだってホントのことだもん。

恵ささきさん、意地悪ですー(泣)

彩また泣かせましたね…。

さふっ。女を泣かせるのはイイ男の宿命さ。

彩…(しら〜っ)

恵…(むす〜っ)

さ(汗;)…そ、それじゃ本編を始めようか。第二次大戦終結からの続きだったよな。


朝鮮戦争編


僕らが残したあの足跡

さまぁ、前回のような経緯の末に第二次大戦が終結した訳だが、次の戦争はそれ以前にひそかに始まっていた。

恵いわゆる「東西冷戦」ですねー。

彩チャーチルもルーズベルトもトルーマンも、本音では共産主義を嫌っていましたからね。「敵の敵は味方」だから仕方なく連合していたようなものです。

さアメリカは「核」というジョーカーを持つことでソ連に対し絶対優位に立っているつもりだった。しかし 1949 年 8 月 29 日にソ連の核実験が成功し、アメリカの威信は大きく揺らぐことになる。

彩アメリカ空軍(1947 年 7 月 16 日に陸軍航空隊から独立)は、またしてもタチの悪い幻想に捕われることになるんですね。

さだが、その前に極東で予期せぬ戦争が始まっていた。1950 年 6 月 25 日、朝鮮民主主義人民共和国軍は突如停戦協定ラインを破って南下を開始、これに呼応してアメリカを中心とする国連は軍事介入を決定する…。

彩いわゆる朝鮮戦争の勃発です…。

さ東西両陣営とも、朝鮮戦争に繰り出した兵器は第二次大戦の直延長上にあるものだった。超音速ジェット機もなければ誘導ミサイルもなく、プロペラ機とジェット機が入り乱れて機関銃を撃ち合う最後の空中戦の舞台となったのだな。

彩米海軍グラマン F9F パンサー(Grumman F9F Panther)、米空軍ノースアメリカン F-86 セイバー(North American F-86 Sabre)、朝鮮のミコヤン・グレビッチ MiG-15「ファゴット」(Mikoyan-Grebich F-15 Fagot) が有名ですね。

さ華々しいジェットの陰に隠れて目立たないが F4U-5 コルセア、AD スカイレイダー、P-51 マスタング、P-82 ツインマスタング、ホーカー・シーフューリー、ヤコブレフ Yak-3, ラボーチキン La-9 といった最終世代のレシプロ戦闘機も多数参加している。

恵レシプロ機としては究極の高性能機ばかりですけど…影が薄いですー。

彩シーフューリーは短銃身軽量版の 20mm イスパノ Mk.V x 4 連装、コルセアとスカイレイダーもほぼ同仕様の 20mm AN-M3 x 4 連装ですね。米空軍の戦闘機は相変わらず 12.7mm ですが、750 発/分に発射速度を向上した Cal.50 M3 仕様になっていたようです。

さ対する東側、Yak-3 は 20mm ShVAK モーターカノンに 12.7mm UBS 同調機銃、La-9 は新型 23mm NS-23 機銃を 4 連装で同調装備していた。だが、これらレシプロ機はジェットの敵ではなく、主として対地攻撃に従事していた。

彩ジェットの武装は F9F が AN-M3 x 4 連装、F-86 が Cal.50 M3 x 6 連装。東側の MiG-15 は NS-23 x 2 挺に 37mm N-37 機関砲を 1 挺の混載武装です。

さNS-23 は VYa に代わる機関砲として 1945 年に開発されたものだ。機構的には NS-37 を小型化したもので作動は反動利用ショートリコイル式。VYa の 23x152B 弾に代えて低威力の 23x115 を採用しており、その分小型軽量化されている。

彩重量は VYa の 66Kg に対し 37Kg と半分近くになっていますね。

さN-37 は NS-37 の後継機として 1946 年に開発された機関砲で、同じ設計者ながら軽量化のため短い 37x115 弾を採用しガス圧利用式となっている。発射速度は 400 発/分に向上したが、初速が 690m/s にまで低下してしまった。

恵エリコン一号銃なみですー!

彩12.7mm x 6 連装のセイバー vs 機関砲混載の MiG。まるでバトルオブブリテンの再現ですね。

さセイバー vs MiG のキルレシオは米ソともに異なる数字を挙げており優劣は決め難いが、互いに自兵装の有利を主張すると同時に相手を脅威に感じていたことが面白い。また投射密度と投射質量で比較してみよう。

朝鮮戦争時代のジェット戦闘機武装
機種 搭載銃 発射速度
(発/分)
搭載弾数
(発)
射撃時間
(秒)
弾頭重量
(g)
投射密度
(発/秒)
投射質量
(g/秒)
F-86 M3(x6) 750 300 24 46 75 3450
F9F AN-M3(x4)750 200 16 130 50 6500
MiG-15NS-23(x2)550 160 17.5 200 18.3 3660
N-37 400 40 6 735 6.7 4925

さ航続時間が短く、飛行速度の速いジェットの空戦はレシプロ以上に射撃回数が限られた。短い時間に有効打を与えるには投射密度こそ鍵…と言いたいところだが、12.7mm が数発当たった程度では致命傷にならない。

恵でも、撃たれ強さってことならジェットもレシプロも大差ないでしょう?

さ第二次大戦で米軍が多用した編隊空戦はつまり「袋叩き」だった。坂井三郎さんの硫黄島戦記にあるだろう、寄ってたかって 12.7mm の火網を浴びせズタズタにするという戦法だ。しかしジェットの空戦では事情が違った。傷ついた MiG は国境線目指して一目散に逃げてゆき、セイバーにはそれを捕捉できる程の速度差も燃料の余裕もない事が多かったのだ。

彩交戦規定上、中国に逃げ込まれると手出しできなかったのも一因でしょうね。朝鮮戦争の空戦記にはせっかく手傷を負わせた MiG を苦々しく見送る描写がよく出てきます。

さ一方、MiG のパイロットは低発射速度と低初速の不利を痛感したらしい。37mm が一発当たれば大抵の飛行機はバラバラになるが、エリコン一号銃なみの初速でそう簡単に当たるものではない。相手がすばしこいセイバーなら尚更だ。

恵MiG の武装は対地および対大型機用だったんですね。対日戦で無敵を誇った B-29 がバタバタ落とされて大被害を被ったという話を聞いたことがありますー。

さ第5航空団の戦闘報告によれば、朝鮮では3年間で約 20000 ソーティーの B-29 が投入され損失 34 機、うち戦闘機による被害は 16 機とされている。対日戦では1年間約 33000 ソーティに対し損失約 500 機強だ。

恵あ、あれれ…?!

彩統計のマジックですね。洋上不時着で多数を失った対日戦と異なり、作戦距離の短い朝鮮では墜落寸前の手傷を負った B-29 が友軍飛行場に何機も不時着したようですが、こういうのは被害カウントに入っていない筈です。

さ実際に B-29 の被害は深刻だった。MiG が編隊をすり抜けるたびに2機、3機と大穴が開き、生還した機体も多くは廃機となったという。ジェット機の護衛をつけても被害の増大を食いとどめられず、1951 年に B-29 は昼間の作戦から引き下げられている。

恵良かった…また間違ったこと言っちゃったと思いましたよー。

さMiG の機関砲に衝撃を受けた米空軍の慌てぶりを物語る有名なエピソードがある。かつて五式 30mm を開発した河村博士のところへ「ソ連の 32mm 機銃」に対抗する兵器を生産できないかという打診があったというのだ。

恵実際は 23mm + 37mm じゃないですかー。

さMiG-15 そのものが神秘のベールに包まれた未知の機体で、細かい仕様などほとんどわかっていなかったらしいからな。アメリカは高額の懸賞金を付けて MiG パイロットの亡命を呼びかけるが、彼らが可動状態の MiG-15 を手にするのは停戦後 1953 年 9 月の事になる。

彩結局アメリカは一発あたりの威力不足、ソ連は初速と発射速度の不足に悩み、どちらも「高初速大威力で発射速度の高い機関砲こそ正義」という戦訓を得たことになりますね。よく考えれば当たり前のことですけど。

恵ところで MiG とセイバーの戦いばかりが華やかですが、米海軍の艦載機は何をやっていたんです?

さ空戦性能に劣る F9F は制空戦闘に投入されなかったが、対地攻撃機として大活躍した。核時代の到来とともに無用の長物視されていた航空母艦が、海外における局地戦闘に欠かせない存在であることを実証したのが朝鮮戦争でもあったのだ。

彩特に空軍が朝鮮半島に飛行場を持てなかった戦争序盤、呼んですぐ来る上空援護は空母戦力だけだったんですよね。

さ母艦航空隊は北朝鮮/中国軍の得意とする人海突撃を何度も阻止して陸軍を窮地から救っている。時代遅れ扱いされていたレシプロの AD-1 スカイレイダーが上空に長時間貼り付ける直援機として再評価されたのも朝鮮だな。ナパームを含む爆弾搭載量と 20mm x 4 連装の対地制圧能力は人海突撃の阻止に効果的だったようだ。

彩こうして互いに決め手のないまま一進一退の散発戦を繰り返しながら 38 度線を挟んで戦線は膠着、1953 年 7 月 27 日に停戦協定が締結されます。幾多の課題をはらんだ朝鮮戦争の終結ですね。

さアメリカには朝鮮の戦後処理以上に頭の痛い課題があった。ソ連の長距離核爆撃機が大西洋や北極海やベーリング海峡を渡って多数同時侵攻してくる悪夢への対応だ。

1950 年代 米ソ主要航空機銃
名称重量使用弾薬弾頭重量初速発射速度作動機構備考
Browning cal.50 M3 29Kg 12.7x99 46g 880m/s750rpmS-Recoil (Improved M2)
20mm AN-M3 42Kg 20x110 130g 850m/s750rpmGas/Recoil(Mod.HS404)
NS-23 37Kg 23x115 200g 815m/s550rpmS-Recoil
N-37 103Kg 37x155 735g 690m/s400rpmGas
1m
朝鮮戦争時代の機銃


消える飛行機雲

さ実は、米空軍もジェット時代における 12.7mm のパンチ力不足は 1940 年代終わり頃に認識していた。Cal.50 に代わる機銃として 20mm AN-M3 の弾薬を改良した 20mm M24 を採用し、初の本格的ジェット迎撃機 F-89A/B スコーピオン(Republic F-89 Scorpion, 1949)にはこれを 6 連装で搭載している。

彩しかし朝鮮で戦った F-86F も、戦闘爆撃機的な F-84 サンダージェット(Republic F-84 ThunderJet)も 12.7mm x 6 連装ですよ?

さ軍人とは保守的なもので、一度実績を作ったものは手放したがらないからなぁ。第二次大戦時 12.7mm で育った戦闘機乗り連中にとって、いくら大威力でも投射密度が三割引きになってしまうのは納得できなかったのかも知れない。

恵大威力を欲しながらも、初速や発射速度を妥協することを良しとしなかったんですね。まるで第二次大戦のドイツ人みたい。

さそのドイツ人の遺産が役に立つ時が来た。アメリカは第二次大戦後ドイツで捕獲したモーゼル MG213C リボルバーカノンを研究していたが、朝鮮戦争でこれに拍車がかかったのだ。試作名称 T-160 として自動車メーカーのポンティアック(Pontiac)が開発にあたり、1953 年には実戦テストのため朝鮮にも送られている。

彩制式採用後は M39 の名称が与えられていますね。自重 89Kg、20x102 弾使用、弾頭重量 100g、初速 1030m/s、発射速度 1700 発/分。だいたい MG213C と同じ性能です。

さセイバーの後期生産型 F-86H は M39 x 4 連装を搭載、投射密度 113 発/秒・投射質量 11333g/秒と大幅に向上した。同じ 20mm でも AN-M3 x 4 連装の二倍近い火力だな。

恵無敵ですーっ!!

さだがしかし、航空機銃の行く手には暗雲が漂っていた。ドイツの残したもう一つの空対空火器が機銃の役目を奪いつつあったのだ。

彩つまりミサイルですね。

さその前に無誘導の対空ロケット弾があった。ドイツで R4M と呼ばれたロケット弾の直系で、アメリカでは 2.75in マイティ・マウス(Mighty Mouse)あるいは FFAR(Folding Fin Aircraft Rocket)の名称で呼ばれた。レーダーを積んだ全天候迎撃機 F-86D、F-94C、F-89D などは機銃を全廃しロケット弾のみの武装となっている。

恵機銃全廃なんて寂しすぎますー!(泣)

彩これらロケット武装迎撃機の配備は 1949〜1951 年頃、まだ朝鮮戦争は終わっていませんよね。

さアメリカにとって、特に米空軍にとって朝鮮はしょせん遠い戦場だったのだろう。彼らの本業は祖国の防衛であり、核爆弾を積んだソ連機が祖国を蝕む前に確実に仕留めることだった。その為の武装は一撃必殺でなければならない。米空軍は究極の一撃必殺兵器として狂気の空対空核ロケット弾 GM-1 ジニー(Genie) まで開発し配備したのだぞ。

Republic F-89J Scorpion
全天候型核武装迎撃機 F-89J スコーピオン

彩…アメリカって第二次大戦の 1941 年頃にも同じような悩み抱えてませんでした?

恵何やってんでしょー。

さ戦争とはそんなものだ。しかし、まだ制空戦闘機の武装として機銃の余地は残されており、長距離侵攻戦闘機として試作された XF-88 や XF-90 の武装は M39 x 6 連装だった…だが、すぐにこれも変わる時が来る。

彩今度こそミサイルの登場ですね。米空軍最初の空対空ミサイル、ヒューズ GAR-1 は 1954 年から量産開始されています。当初は戦闘機としての番号 F-98 が与えられていましたが、「無人戦闘機」だなんて関係者の狂喜ぶりを示しているみたいですね。

さ米空軍最初の地対空ミサイルであるボマーク(BOMARC)の配備は 1957 年、こちらには F-99 の番号が与えられている。既に第一世代の超音速ジェット戦闘機が試験飛行を開始しており、近い将来には空戦速度が音速を超えて人間の反射神経では対応不可能になると思われていたのだ。

Boeing F-99(IM-99) BOMARC
お騒がせ「無人戦闘機」ボーイング F-99(IM-99) ボマーク

彩ボマークは「これさえあれば戦闘機など不要」と世界中に宣伝し、カナダの超音速戦闘機 CF-105 アローの息を止め、イギリスの超音速戦闘機 BAe ライトニングを葬りかけた挙げ句、地対空ミサイルとしての能力不足が発覚して早々に引退したという曰く付きの代物ですね。

恵F-104 が「最後の有人戦闘機」なんて呼ばれたのもこの頃なんですね。「最後の有人戦闘機」と「最初の無人戦闘機」がペアになってたんですね…。

さだが米空軍は必ずしもミサイル万能主義に走ったわけではなく、全く新しい形の航空機関砲を 1957 年に開発している。「新しい」というのは語弊があるかも知れない…それはもっとも古い連発銃の原理を利用していたからな。

恵バルカン砲の登場ですねー!!

彩ジェネラレル・エレクトリック M61「バルカン(Vulcan)」外動力駆動 6 砲身回転式機銃。Vulcan とはギリシャ神話に登場する「火の神」のことで、当初は新世代航空機銃開発プロジェクトのコードネームだったそうです。弾は M39 と同じ 20x102 弾を使用、自重 114Kg で 6000 発/分。M39 x 2 挺以下の重量で 3 挺以上の火力を実現しています。

さ一方の米海軍はリボルバーにもガトリングにも興味を示さず、あくまで古典的な往復動作式のメカニズムに固執した。理由はよくわからんが、空軍へのライバル意識だとしたら日本のことを笑えんな。彼らは AN-M3 を徹底的に改良し、20x110 弾を 1000 発/分以上で撃ち出す Mk12 を完成させた。

彩海軍最初の超音速ジェット戦闘機グラマン F11F タイガー(Tiger, 1954) や、ヴォート F8U クルセイダー(Crusader, 1955)、ジェット攻撃機ダグラス A-4 スカイホーク(Douglas A-4 Skyhawk, 1954) に積まれたのがこの機銃ですね。

さだが、海軍は戦闘機を戦術支援から外す決断をした。そもそも戦闘機の本業は艦隊防衛であり、核爆弾を抱えて艦隊に忍び寄るソ連の爆撃機を遠距離で阻止することだ。その為に必要なのは迎撃点へと急行する超音速性能と一撃必殺のミサイル兵器である。

恵また「核爆撃機一撃必殺主義」ですか…。

彩レーダー誘導式の AIM-7 スパロー(Sparrow)は 1952 年にスペリー(Sperry)社によって、赤外線誘導式の AIM-9 サイドワインダー(Sidewinder)は 1953 年にレイセオン(Raytheon)社によって開発されています。どちらも当初の顧客は海軍向けですね。

さLTV XF8U-3 クルセイダーIII(試作のみ, 1957) や マグダネル・ダグラス F4H ファントム II(Phantom II, 1957)はこれら新鋭ミサイル搭載前提とした超音速艦隊防衛戦闘機であり、機銃を全廃していた。

恵1957 年…なんか東南アジアの方がきな臭いですよー!

彩1954 年にフランスの植民地政権が撤退、しかしその後釜に入る形でアメリカ支援を受けゴ・ジン・ジェム内閣が成立。革命派はこれを倒すため 1960 年末に南ベトナム解放戦線を結成、以後は軍事顧問増員という形で共産勢力拡大を押え込もうとするアメリカとの軋轢が強まってゆきます。

さそして 1964 年 8 月 2 日のトンキン湾事件をきっかけにアメリカは直接軍事介入へ乗り出す。泥沼のベトナム戦争勃発だ。

1960〜70 年代 米国主要航空機銃
名称重量使用弾薬弾頭重量初速発射速度作動機構備考
M24 42Kg 20x110 130g 850m/s750rpm Gas/Recoil(Mod.HS404)
M39 89Kg 20x102 100g 1030m/s1700rpmGas (Rev.Cannon)
M61 114Kg 20x102 100g 1030m/s6000rpmExt.Power (Gatling)
M61A1120Kg 20x102 100g 1030m/s6600rpmExt.Power (Gatling)
Mk12 46Kg 20x110 130g 850m/s1000rpmGas/Recoil(Mod.HS404)
1m
近代米軍主要機銃


ベトナム戦争編


遠くへの帰路

さアメリカはベトナム戦争に超音速ジェット機・ヘリコプター機動歩兵など最新兵器の数々を投入したが、結果として敗退した。その敗因は政治的なものも含め数多くの要因が挙げられるが、大きな教訓は「核を使わない戦争」が健在であるという認識だった。

彩米空軍も米海軍も、核が使われることを前提に兵器体系を構築していたんでしたよね…。

恵現代の常識で考えれば「核を使うこと前提の戦争」ってほうが狂ってますー。

さ戦争なんてそもそも正気の沙汰じゃない、武器には人を狂わせる力があるのだ。核のように非常識に強烈な兵器なら尚更だろう、それを持つ者にとって非常識が常識となってしまう。

彩アメリカ政府は北ベトナム背後にあるソ連の力を常に意識し、核戦争に発展させないよう『制限戦争』という枠の中で勝利を得ようとしていましたね。

さその常識と非常識のギャップは第一線の兵隊が身を持って埋める破目になった。航空兵力とて例外ではない、超音速戦闘爆撃機や戦略核爆撃機が通常爆弾を満載して『ホーチミン・ルート』粉砕に駆り出される破目になったのだ。

恵ホーチミン・ルートって、実態はジャングルの中のケモノ道みたいな代物だったんでしょ?爆弾で破壊するものなんて何も無いじゃないですか。

さだから「非常識」なのだよ。アメリカ政府と軍の高官達は圧倒的高性能兵器を投入することで北ベトナムの意思を挫くことが可能だと信じていたが、それはあまりにも現実を無視した認識だった。もう一つ信じ難い事だが、ベトナム人にはソ連が供給するハイテク兵器を使いこなす能力が無いと見くびっていたらしいのだ。

彩太平洋戦争では日本人をナメてかかって大火傷したというのに…。

さベトナム人はまず、ありとあらゆる手段で対空火器を確保し重要拠点を要塞化した。中国・ソ連製の 14.5mm、23mm、37mm、57mm あたりだな。対空砲など旧世代の兵器だと多寡を括って低空侵入した米軍機は随分これにやられている。彼等にとって更に悪いニュースは、北ベトナムが対空ミサイルとジェット戦闘機の運用能力さえ身に付けたという事だった。

恵やっと本題に戻ってきましたねー!

彩当初の主力戦闘機は MiG-15 および改良型 MiG-17「フレスコ」(Fresco, 1954)、のちに双発の超音速機 MiG-19「ファーマー」(Farmer, 1956) が加わり、更にマッハ2級の東側最新鋭機 MiG-21「フィッシュベッド」(Fishbed, 1958) が少数参加します。

さMiG-15 の武装は朝鮮戦争時と同じ 2x23mm + 37mm、ただし 23mm は新型の NR-23 に換装されている。MiG-17 では更に 37mm に換えて 30mm NR-30 が搭載され、MiG-19 では更に発展して NR-30 の三連装となった。

彩NR とは例によって開発者 Nudelman and Rikhter の略です。NR-23 はガス圧式、23x115 弾、39Kg、200g、815m/s、900 発/分。NR-30 もガス圧式で 30x155B 弾、66Kg、410g、780m/s、900 発/分。混載武装の MiG-17 でも、両者の特性は MiG-15 よりずっと揃ったものになりましたね。

さかくして海軍の A-4 や空軍の F-105 の単独行動は危険となり、戦闘機の援護が必要となった。ところが米空軍の戦闘機は F-104 や F-106 などカッ飛ばし屋の迎撃機ばかりで制空戦闘に向かない。空軍は慌てて海軍の F-4B をベースにした空軍仕様 F-4C を 1962 年に発注している。

恵…何やってんでしょう。

さ海軍はまた別の問題に直面していた、実戦に投入してみるとミサイルには思ったほどの信頼性が無いことが明らかになったのだ。スパローはしばしば誤って友軍機を撃墜し、サイドワインダーは自爆したり太陽に向かって飛んで行ったりした。

恵機銃を全廃した報いです…。

彩MiG との取っ組み合いとなると固定機銃を残した F-8 クルセイダー戦闘機の方が有利だったようですね。しかし、海軍・海兵隊のファントムは最後まで固定機銃無しで運用されています。

さこれに対し、空軍の F-4C は中央パイロンに SUU-16 ガンポッドを懸架して運用した。SUU-16 は M61 バルカンと 1200 発の弾薬を搭載したもので、元々は地上掃射用に開発されたものだった。空気抵抗の増すガンポッドを空戦に持ち込むのは好ましくないが、背に腹は代えられなかったのだろう。だが SUU-16 は砲の動力源を風力タービンに頼っているためスピンアップが遅く、引き金を引いてから定常回転数(6000 発/分)に達するまで 1 秒もかかる欠点が指摘された。

彩改良型の F-4D(1964) ではアップデート版の SUU-23 ガンポッドが搭載可能になっています。これは M61A1 をガス圧駆動に改造した GAU-4 を搭載したもので、スピンアップ時間は 0.4 秒に向上していますね。

さしかし空気抵抗の増加や低命中精度などの問題は残り、しょせんは間に合わせに過ぎなかった。空軍向けの最終型 F-4E(1965) は M61A1 と 639 発の弾倉を固定武装として搭載している。

恵やっと機関砲の復活ですー!

さ実はソ連でも状況は似たようなものだった。MiG-21F(1958) は 57mm 無誘導ロケット弾を主武装・NR-30 機関砲(単装、装弾数 30 発)を副武装とする迎撃機として開発され、のちに AA-12 空対空ミサイルがロケットに代わり、MiG-21PF(1962) では遂に機銃が外された。

恵…何やってんでしょう。

さ結局、アメリカもソ連も同じ悪夢に悩まされていたという事なのだろうな。雲霞のように分散侵入する核爆撃機を阻止するのは目標を数キロ先で粉砕できる高性能ミサイルを抱いた超音速戦闘機であり、数百メートルまで接近しなければ当たらない機銃の出番などない…筈だったのだ。

彩しかし、ベトナムに派遣された MiG-21 は甚だ不評だったようですね。

恵当たり前ですーっ!たった二発のミサイルで何ができるんですかー!

さもしミサイルが 100 発 100 中だったなら一回の出撃ごとに確実撃墜2機を挙げられるわけで、それは凄いことなのだぞ。だがまぁ、世の中そうそう宣伝文句通りには行かないものだ。結局ファントム同様 MiG-21 にも機関砲ポッドがオプション装備となり、MiG-21bis(1969) では半固定の標準装備となった。機銃は新型の 23mm GSh-23 だ。

彩GSh-23 は「ガスト式(Gast Type)」と呼ばれる反動利用式の2銃身機銃ですね、GSh は例によって開発者 Gryazev と Shipunov のイニシャル。東側標準の 23x115 弾を使用、ただし弾頭重量が 200g から 175g に減量され初速が 740m/s に増加しています。自重 50Kg で 3000 発/分以上というのは素晴らしい性能ですね。

さGSh-23 は MiG-21bis をはじめ、可変後退翼の迎撃戦闘機 MiG-23「フロッガー」(Flogger, 1973)など 1960〜1970 年代の幅広いソ連機に搭載された。GSh-23 には大口径の兄貴分 30mm GSh-30 が存在し、自重 105Kg で 30x165 弾の 390g 弾頭を初速 900m/s、最高 3000 発/分撃ち出す。これは Su-25「フロッグフット」(Frogfoot, 1978)対地攻撃機に搭載された。

恵「ガスト」って、何だかファミレスみたいな名前ですねー。

さガスト式の原形は第一次大戦末期 1918 年にドイツで試作された 7.92mm GAST 機銃だ。発明者カール・ガスト(Carl Gast)にちなんだ命名で、2挺の機関部がシーソーのように交互に動くメカニズムで高速発射を実現している。

恵またもやドイツの遺産ですか…しかし、50 年もの間省みられなかったというのは不思議な気がしますね。

彩あれほど多種多様な機銃を乱発気味に開発した第二次大戦ドイツでも、何故かガスト式には手を染めなかったようです。

さガスト系2銃身機銃は軽量コンパクトで高発射速度という特長を持つが、何故か西側ではほとんど省みられなかった。逆にリボルバーカノンやガトリングはソ連ではあまり活用されていない、こういうのをお国柄と言うのかな。

彩アメリカでも、量産されたリボルバーは空軍の M39 だけです。米海軍にも Mk11 という 20mm 連装リボルバーカノンがありましたが、ガンポッド用に少数生産されただけでした。リボルバーの本場といえば西側ヨーロッパですね。

1960〜70 年代 ソビエト主要航空機銃
名称重量使用弾薬弾頭重量初速発射速度作動機構備考
NR-23 39Kg23x115 200g 690m/s900rpm Gas
NR-30 66Kg30x155B 410g 780m/s900rpm Gas
GSh-23 50Kg23x115 175g 740m/s3000rpm GAST-Recoil(Twin Barrel)
GSh-30105Kg30x165 390g 900m/s3000rpm Gast-Recoil(Twin Barrel)
1m
近代ソ連主要機銃


風を待つ静けさ

さでは朝鮮・ベトナムを中心に米ソの航空兵装変遷を追いかけてきたが、ここでちょっと欧州にも目を向けてみよう。

彩欧州と言ってもイギリス・フランスが中心ですね。第二次大戦後のジェット機は非常に高価な代物となり、余程の国力がなければ開発できなくなっていたようです。

さまずはイギリスだな。英国の第一世代のジェット戦闘機グロスター・ミーティア(Gloster Meteor, 1944) やデハビランド・ヴァンパイヤ(De Haviland Vampire, 1946) はイスパノ Mk.V 20mm 機銃を搭載していたが、来るべき核時代に対応するには威力不足だと思われていた。

恵何だか、いつの時代どこの国でもおんなじ事を考えてるような気がします…。

さ英軍は空対空 114mm 無反動砲なんてキワモノにも手を出すが、結局モーゼル MK213C/30 の設計をほぼそのまま発展させた 30mm ADEN 機関砲を採用した。ADEN とは開発元のエンフィールド工廠に因んだ Armament Development ENfield だが、イギリス人の考える略語にはセンスがないな。

彩ADEN 30mm リボルバーカノンは 30x86B 弾使用、自重 87Kg、弾頭重量 273g。初速 604m/s、発射速度 1200 発/分となっています。

恵初速 604m/s…エリコン FF と大差ありませーん!

さなんせ原型の MK213C/30 が対重爆用機銃だからな。低初速を発射速度でカバーするつもりだったかも知らんが、それでもジェット時代にこの性能はどうかと思ってしまう。

彩英軍もそう思ったのか、のちに弾頭重量を 247g に減らして初速と発射速度を向上した 30x113B 弾を用いる ADEN Mk.4 が開発されています。初速は 810m/s、発射速度 1400 発/分となっていますね。

さ30x86 弾と 30x113 弾は弾薬全長が同じ 200mm であり、弾倉や給弾機構はそのまま・機関部も僅かな改造で対応することができた。そもそも ADEN 30mm 弾はネック絞りのないストレートケースなので、弾薬全長さえ同じであれば弾頭/薬莢長の比率が少々変わっても問題ないのだ。

ADEN 30mm ammunition
ADEN 30mm 弾薬

彩何ですか『トイレットペーパーの芯』ってのは。

さいや、たまたま寸法が似ていたので参考になるかと思ってな。

恵わーい♪

彩…バカばっか。

ささて、ADEN を最初に搭載したのは英空軍期待の星:第二世代ジェット戦闘機ホーカー・ハンター(Hawker Hunter, 1951)で、機首下面に4挺を搭載した。投射密度は 93 発/秒、投射質量は 23Kg/秒に達する。

恵これが M61 バルカンだと…一挺あたり 6000 発/分ですから投射密度は 100 発/秒、投射質量は 100g 弾頭ですから 10Kg/秒ですね。

彩でも射撃時間5秒として M61 に 500 発装填だと約 350Kg、ADEN 4挺に5秒ぶん 100 発を付けると 600Kg 以上になります。重量と効果の対比で見ると、どちらが優れているとは一概に言えませんね。

さしかも、ADEN だと機関砲4挺+30mm 弾 400 発の容積を食ってしまうことも問題だろうな。ハンターではさして問題とならなかったが、この後の戦闘機では機首容積はレーダーやデータリンクシステムなど電子機材の為に必要となり、機銃は段々無用の長物扱いされて行くことになる。

恵英空軍もグロスター・ジャベリン(Gloster Javelin, 1953) では頑張って ADEN 4連装を続けているんですけどぉ…。ライトニング(BAe Lightning, 1960) では2挺に減り、ライトニング F.3 仕様ではとうとうミサイルだけになっちゃいましたぁ(泣)。

彩英海軍のシーヴィクセン(De Haviland Sea Vixen, 1951) は空軍より一足先に機銃を全廃していますね。とは言ってもまだミサイルが無く主武装は無誘導ロケット弾で、空海対抗演習ではジャベリン相手にドッグファイトに持ち込まれてキルを取られることが多かったそうですが。

恵機銃全廃のリスクはベトナム以前にわかってたんじゃないですかぁ!ライトニングだって F.6 仕様では ADEN を復活させてるんですし…一体何やってんでしょう。

さドッグファイトという戦術そのものが過去の戦闘形態だと思われていたんだよ。マッハ2で飛ぶ飛行機は秒速約 700m/s、真正面から対向すれば 1km 先の敵機と 0.7 秒後にすれ違ってしまう事になる。こんな物凄いスピードで飛ぶ機体同士が機銃の射程距離内(せいぜい 500m)で丁々発止を演じることなどあり得ないと思われたのだ。

彩しかも戦闘機の搭載レーダーは次第に高性能になり、互いの動きが数十キロ先から筒抜けで読めるようになった…と思われていたんですね。より強力なレーダーと長射程のミサイルを搭載し、相手を先に見つけて早くボタンを押した者の勝ちという訳ですか。

さまぁ、それほど単純に割り切れた訳でもないのだがな。これら純ミサイル戦闘機は「迎撃機」、つまり(核)爆撃機を阻止撃滅する任務を課せられていたことも忘れてはならない。その為にはイスパノ 20mm より ADEN 30mm の方が良いし、ADEN 30mm よりミサイルの方が良いに決まっている。

恵またですかぁ。まるで 1930 年代の「戦略爆撃思想」や「空中戦艦思想」の再来ですー。

さ本質的には同じことなのだが、脅威規模の桁が違う。ゲルニカと広島の違いだぞ、死者数で言えば二千と二十万だ。核爆撃機は一機の侵入を許せば街や艦隊が一つ消滅する、これを確実に阻止する為の航空兵装は一撃必殺でなければならないのだ。

彩シーヴィクセンやジャヴェリンの後継機として英海軍・英空軍に導入された F-4 ファントムも基本的にはミサイル迎撃機であり、固定機銃を持っていませんね…。英空軍のファントム FGR は戦闘爆撃機としての用途も考慮されていたようですが、機銃掃射能力はガンポッドで補っていたようです。

さしかし、その後に開発された戦闘爆撃機ジャギュア(SEPECAT Jaguar, 1969)は ADEN 30mm を固定装備している。ちなみにジャギュアは英仏共同開発だが、フランス版のジャギュアは ADEN の姉妹銃と言える DEFA 30M553 を搭載している。例えミサイル時代であっても、自衛用あるいは対地掃射用として固定機銃の価値は無くならないという認識が出来たと見るべきかな。

彩ではジャギュアが出たところで、フランスに話を移してみましょう。

さ第二次大戦終了以後、フランスは急速に兵器大国としての地位を取り戻して行った。いささかやり過ぎの感が無きにしもあらずだったが…自国軍隊が弱いという事はどういう結果を招くか身に染みた経験の直後だからなぁ、仕方あるまい。

彩フランスは 1960 年 2 月 13 日に核実験を成功させ、アメリカ・ソ連に次ぐ第三の核兵器保有国となっていますね。ちなみに、その4年後 1964 年 10 月 16 日には中国が核実験を成功させて世界を衝撃に陥れるのですが。

さまぁ、核兵器のことは置いておこう。フランスは再軍備にあたってドイツの残した遺産を最大限に活用した。戦時中は占領体制下でドイツ兵器の生産をさせられていたのだから、図面や製作機械や半完成品の兵器が山ほど残っていたのだ。これを活用しない手はあるまい。

彩対独終戦直後の 1945 年 5 月、フランス解放軍はドナウ河畔のオーベンドルフ(Oberndorf)にあったモーゼルの工場を接収し、開発中だった MG213C リボルバーカノンの図面や実物を入手しています。ここから持ち去れた資料を元にアメリカで M39、イギリスで ADEN、フランスでは DEFA および GIAT が完成していますね。

恵…なんか、第一次大戦の時とおんなじことやってません?

さ「歴史は繰り返す」と言うが、そもそも第二次大戦をおっ始めた張本人のヒトラーが一次大戦従軍兵士だったというのは皮肉の限りだな。さて DEFA が最初に完成させたのは 30x97B 弾を使う 30M541 で、自重 84Kg、弾頭重量 264g、初速 670m/s、発射速度 1200〜1400 発/分という性能だった。のちに弾頭を軽量化し薬莢を延長した高初速版 550 シリーズが開発され…。

恵イギリスとやってる事がおんなじですーっ!

さ彼等もそう思ったのだろう、イギリス・フランスの間で ADEN Mk.4 と DEFA 550 の弾薬仕様を共通化する合意が行われた。のちに共同開発されるジャギュアへの布石だったのかも知れんな。

彩DEFA 550 シリーズには 552, 553, 554 など細部の異なる派生型があり、ジャギュアの他シュペル・ミステア(Dassault Super Mystere, 1956)をはじめミラージュ(Dassault Mirage, 1964)の各型、シュペル・エタンダール攻撃機(Dassault Super Etendard, 1978)などに搭載されていますね。

さしかし現用の DEFA 30M554 は ADEN より 30cm ほど銃身が長く、同じ 30x113B 弾でも装薬組成や初速が異なっている。ADEN と DEFA の弾は寸法こそ同じだが、「撃てないこともない」程度の互換性と考えておいたほうが良いだろう。

1960〜70 年代 英仏主要航空機銃
名称重量使用弾薬弾頭重量初速発射速度作動機構備考
ADEN Mk.3LV 87Kg30x86B 273g604m/s1200rpmGas(Rev.Cannon)
ADEN Mk.4 87Kg30x113B247g810m/s1400rpmGas(Rev.Cannon)
DEFA 30M541 84Kg30x97B 264g670m/s1400rpmGas(Rev.Cannon)
DEFA 30M554 80Kg30x113B247g840m/s1500rpmGas(Rev.Cannon)
1m
近代英仏主要機銃


現代編


さよならのない旅

さかくして 1960 年頃には「アメリカ 20mm」「西側ヨーロッパ 30mm」「東側 23mm」という住み分けが確定したように思われたのだが、次世代の航空機銃を求める動きは水面下で胎動していた。

恵第二次大戦当時から見たら夢のような性能の機銃が登場しているのに…いつまで経っても満足しないんですねぇ。

さベトナムの戦訓で固定機銃の必要性が再認識されたこと、核兵器の運搬手段が重爆から大陸間弾道弾(ICBM)となった事で戦闘機が「一撃必殺の重爆キラー」である必要がなくなった、という事情があるだろう。フランスとイギリスは一発の威力を求めて 30mm を採用したが、改めて見直せば初速と発射速度で米ソに見劣りしていた。

彩ADEN や DEFA は 1200〜1500 発/分ですから一挺あたり投射密度は 20〜25 発/秒、投射質量は 5〜6 Kg/秒ですね。ジャギュアやミラージュの携行弾数は一挺あたり 100〜150 発程度だから、射撃時間は 4〜7.5 秒です。米軍の 20mm バルカンでは 100 発/秒および 10Kg/秒、携行弾数は 400〜700 発で射撃時間は 4〜7 秒と大差ない値になります。

さ装弾数はORで求められた必要射撃時間に基づいているのだろうな。しかし同時間内に 1/5 の弾丸しか撃ち出せず、投射質量も 1/2 しかないというのは、一発あたりの弾頭重量が 2.5 倍あることを差し引いても有利と言えるかどうか?

恵リボルバーは軽くてコンパクトだし、外部動力も要らないし、消耗品の銃身も一本なので安上がりに済むという利点もあるんですけど…。

さその隙間に商機を見つけたのは、他ならぬリボルバーカノンの本家モーゼル社だった。彼等は独自の研究によって 20mm と 30mm の隙間を埋める理想の口径を 27mm と決定し、1969 年に 27mm リボルバーカノン BK27 を完成させた。

彩BK27 は 27x145B 弾使用、自重 100Kg、弾頭重量 260g、初速 1025m/s、最高発射速度 1700 発/分です。

恵へぇ!口径が小さいのに 30mm ADEN や DEFA より弾頭が重いんですね!

さ27x145 弾は薬莢弾頭とも ADEN 系 30mm より長く、弾薬全長が約 250mm あるのだ。既存の航空機銃を置換する為ではなく、新世代の戦闘機に搭載する為に開発されたと見て良いだろう。実際、BK27 は英独伊共同開発のトーネード(Panavia Tornado, 1971)の為に発注されたという経緯がある。

彩攻撃機仕様のトーネード IDS は BK27 を2挺、防空戦闘機仕様の ADV は1挺搭載しています。装弾数はどちらも 180 発、1700 発/分として射撃時間は 6.3 秒ですね。1挺あたりの投射密度は 28.3 発/秒、投射質量は 7.4Kg/秒です。

さところが英国は 1980 年代後半、ハリアー(Hawker/BAe Harrier) GR Mk.7 に搭載する機関砲として25mm 版の ADEN 25 を開発することを決定した。純粋に軍事的な要求以外に、国内産業技術の保護とか何とか政治的な思惑もあったのだろうな。ADEN 25 は NATO 標準の 25x137 弾を使い、弾倉や機関部の寸法もなるべく ADEN 30 に合わせてアップデート可能なことを狙っていた。

彩ADEN 25 は自重 98Kg、弾頭重量 180g、初速 1050m/s、最高発射速度 1850 発/分です。性能は優秀ですけど、軽量弾頭なので威力は中途半端ともいえます。わざわざ BK27 と二本立てにする意味があるかは疑問ですね。

さ英国はジャギュアやホーク(BAe Hawk, 1974)の搭載機銃として輸出需要も目論んでいたようだが、結局成功しなかったようだ。1999 年に ADEN 25 の開発は中止されている。

恵何やってんでしょう。

さADEN25 失敗の理由は色々挙げられるが、一番の原因は銃口に装着するブラスト・ディフューザーの形状が「かなり恥ずかしいカタチ」だった事じゃないかな。

ADEN 25mm Blast Diffuser
ADEN25 の銃口部

彩…ささきさんっ!!

恵きゃ〜っ♪

ささて冒頭でも述べたように、近代的戦闘機の開発予算は世代ごとに増大し、一国で賄うのは困難となってきた。アメリカ・ソビエトの新世代戦闘機に対抗すべく、ヨーロッパでは 1992 年にイギリス・フランス・ドイツ・イタリア・スペインが協力して「ユーロファイター(Eurofighter Typhoon)」を開発する事になった。…が、フランスは途中で自国開発のラファール(Dassault Rafale)を選択して降りてしまう。

彩ユーロファイターの固定武装は BK27 ですね。給弾方式がベルトコンベア式のリンクレスフィードに変更されており、携行弾数は 150 発、射撃時間は 5.3 秒です。

さ一方、ユーロファイター計画を降りたフランスはラファール用の固定機銃として新しい 30x150B 弾を使用するリボルバーカノン GIAT 30M791 を開発することを決定した。これも何だか政治的匂いがプンプンするなぁ。

彩30M791 は自重 120Kg、弾頭重量 275g、初速 1025m/s、発射速度 2500 発/分とされています。火力性能だけで見れば BK27 より優秀ですね。…でも、大抵の資料では「現在まだ開発中」とされているんですけど。

さまぁラファール自体、この先どうなるかわからん飛行機だからな。30M791 も ADEN 25 みたいに売り込みに失敗して開発中止なんて羽目になりかねん。

恵何やってんでしょう…。

ささて EF2000、ラファールと並ぶ「欧州カナードデルタ三羽烏」スウェーデンのサーブ 39 グリペン(SAAB JAS39 Gripen, 1996)は、機銃新規開発のリスクを避けて BK27 を搭載している。実はグリペンの前作サーブ 37 ビゲン(SAAB J37 Viggen, 1968)は当初機銃を全廃していたのだが、やっぱりあとで必要になってエリコン KCA 30mm リボルバーカノンを半固定のポッド式に搭載していた。

恵KCA はエリコン社が初めて作った本格的リボルバーカノンですー!同じ 30mm でもモーゼルをまんまコピッた ADEN や DEFA と違って独自設計に近い機構なんですよ。自重 136Kg、30x173 弾使用、360g の弾頭を初速 1080m/s で発射、射撃速度は最高 1350 発/分ですー!

彩恵理子さん、久々の登場ですね!

さだが、固定機銃として搭載されたのはビゲンだけだけどな。

恵…えーん(泣)

彩また意地悪言うんだから…。

さKCA は強大な火力を持つ優秀な機銃だが、嵩張りすぎ・重すぎたのだ。いまどき固定機銃にそこまでの威力を求める機体はそんなに無い。米軍は A-10 攻撃機に搭載するため KCA を仮採用していたが、30mm GAU-8 ガトリングの開発成功によってキャンセルされている。

恵35mm の KD シリーズは対空機銃のベストセラーになったんですけど…戦後のエリコン社は航空機銃ではあんまり成功してないです…。

ささて、対するソビエトは GSh-23 の発射速度・威力ともに不満を感じるようになっていたが、あえて「理想の口径」を模索せず既存の弾薬体系のまま武装強化を図る道を選んだ。これにより、ソ連航空機銃は 23x115 弾と 30x165 弾の二本立てとなる。

彩まず発射速度向上の要求に応えて、1974 年に 23mm GSh-6-23 および 30mm GSh-6-30 が開発されていますね。6砲身のガトリング式ですが、M61 と異なりガス圧駆動です。23mm で自重 76Kg で発射速度 9000 発/秒、30mm は 160Kg で 5000 発/秒と伝えられます。

恵23mm 版で投射密度 150 発/秒、投射質量 26.3Kg/秒…30mm 版で 83 発/秒 32.5Kg/秒ですか…凄いですね。

さGSh-6-23 は MiG-31「フォックスハウンド」(Foxhound, 1979)および Su-24「フェンサー」(Fencer, 1974) に、GSh-6-30 は MiG-23 から派生した対地攻撃機 MiG-27「フロッガー」(Flogger, 1973) に搭載された。

恵GSh-6-23 の高い発射速度は空戦に最適に思えますが…ミサイル迎撃機の MiG-31 も 戦術爆撃機 Su-24 も機銃を撃つのは余興ですよね。取っ組み合いが本業の Su-27「フランカー」(Flanker, 1977)や MiG-29「ファルクラム」(Fulcrum, 1985)に搭載されなかったのは何故なのでしょう?

さ嵩張るのが嫌われたのじゃないかな。これら新世代戦闘機の為には 30mm GSh-301 が用意されていた。単銃身反動利用ボルト往復式という古典的なメカニズムを採用しながらも、一挺あたり最高 1800 発/分という驚異の発射速度を持つ機銃だ。MiG-29/Su-27 の装弾数は 100〜150 発で射撃時間は 3〜5 秒、だがソ連のORは一回の出撃で 100 発撃つことは無いだろうと推測しているらしい。

彩GSh-301 で特筆すべきはその自重で、わずか 44Kg しかありません、第二次大戦時の MG151/20 なみです。しかし MG151/20 が 92g 弾を 11.7 発/秒撃ち出すのに対し、GSh-301 は 390g 弾で 30 発/秒…投射質量は 1.1Kg/秒 に対し 11.7Kg/秒 です。

さGSh-301 を図面や写真で見ると給弾部が機関部の後方ギリギリに位置しており、ボルト後退およびスプリング格納の為のいわゆる「尾筒」の長さがゼロに近く、銃身・薬室・給弾部だけの全長しかない。一体どんな閉鎖・給弾排出機構を用いているのか知らんが、よほど切り詰めた設計ということが伺えるな。

恵…ソ連お得意の「耐久性を犠牲にして性能向上する」手法でしょうかね?

さだろうな、帰還した機体は再装填のついでに機銃ごと交換してしまう位の発想なのだろう。そもそもソ連の戦闘機は MiG-15 以来、機銃交換しやすい構造に設計されている。彼等がガトリングに消極的なのは、こういうクイック・リリース機能に対応させにくい事も影響しているのではないだろうか。

恵…こうして欧州とソ連が新世代の戦闘機と機銃を開発している間、アメリカはどうしてたんでしょう?

さアメリカは原則として 20mm バルカン一本槍だった。M39 に対抗して Mk12 を開発したり、F-4 ファントムには頑固なまでに機銃を積まなかった海軍さえ、後継機の F-14(Grumman F-14 Tomcat, 1972)には M61A1 バルカンを固定装備している。

彩その間にダグラス F6D(Douglas F6D Missileer, 計画のみ) とかグラマン XF12F(計画のみ)とか F-111 の B 型(General Dynamics-Grumman F-111B, 1965, 不採用)とか、純ミサイル武装の失敗作を連発していますが…。

さそれは言わない約束になっておるのだ。

恵…(^_^;)

さとにかく、米軍機の機銃はワンパターンなくらい M61 バルカン一点張りだ。A-10 攻撃機(Fairchild A-10, 1976)の為に 30mm GAU-8 ガトリングを開発したり、海兵隊の AV-8B ハリアーII(McDonnell Douglas Harrier II, 1985) の為に 25mm GAU-12 ガトリングを開発したりもしたが、これらはあくまで例外だな。

彩GAU-8 は7砲身外部動力式ガトリングで 30x173 弾使用、自重 281Kg、425g の劣化ウラン徹甲/焼夷弾頭を初速 988m/s 4200 発/分で発射します。GAU-12 は5砲身、25x137 弾、180g、1050m/s、最高 4200 発/分。AV-8B の場合、GAU-12 の動力源としてエンジンコンプレッサーから供給される高圧ガスを利用しているのが珍しいですね。

恵A-10 も AV-8B も対地攻撃機ですね。やっぱり対地攻撃では一発あたりの破壊力が重要だと考えたのでしょうか。

さ逆に言えば、そういう特殊任務の機体でない限り固定武装は使い慣れた 20mm で良いという割り切りだったのだろうな。必要とあらば火力はガンポッドで補えるのだから、無理して大口径を積む必要はないと考えたのだろう。

彩米空軍は 1970 年代からステルス技術を研究し、F-117(Lockheed F-117 Nighthawk, 1981)は 1991 年の湾岸戦争で秘密のベールを脱いで世界を驚愕させましたね。この機体は戦闘機の F ナンバーですが実態は攻撃機であり、しかもステルスを活かした夜間精密爆撃専門なので固定武装を持ちません。

さ湾岸戦争では昼間の近接支援任務で A-10 や AV-8B も活躍し、前線で戦う兵士には好評だったが損害も少なくなかった。古典的な航空戦術がその有効性と限界を同時に証明してしまったのだな。これ以降、米軍はますますステルス・精密誘導弾・無人兵器などアウトレンジ戦術へ傾倒してゆくことになる。

恵ま、また機銃の出番がなくなってゆきます…。

さ新しい時代の戦場に向け、米空軍はいかなる空中脅威にも勝てる究極の制空戦闘機(Air Dominance Fighter)を目指し、高いアウトレンジ戦闘能力に加えてステルス性と高運動性を両立した F-22 ラプター(Lockheed F-22 Raptor)を開発したが、あえて固定武装を残している。機銃は使い慣れた 20mm ガトリングだが、この機体の為に改良型 M61A2 を開発した。

彩M61A2 の火力性能は A1 と同等ですが、銃身部の肉厚を削減し軽量化することでスピンアップ時間を短縮しています(M61/A1 で約 0.4 秒、A2 は約 0.2 秒)。銃身を薄くするということは耐久性低下と引き換えですが、ロシア同様のOR結果を得たのでしょうか。

恵しかし、アメリカの近代航空機銃ってガトリングばっかりですね…。

さ発射速度を 2500 発/分に向上した M39 の改良型リボルバーカノン、フォード・タイガークロウ(Ford TigerCraw) が F-20(1982) 用に試作されたり、ガスト式 25mm 2連機銃のジェネラルエレクトリック・モデル 225 が試作されたりはしたのだが、どちらも採用されずじまいだった。

恵伝統というのかお国柄というのか…。

さだが、米軍は F-22 を補完する JSF(Joint Strike Fighter)計画でロッキード X-35 案を採用したが、この機体の固定武装には当初 BK27 の搭載が予定されていたのだぞ。

彩結局、紆余曲折の末、ジェネラル・エレクトリック社で GAU-12 を原型とした 25mm 口径の 4 砲身ガトリング(油圧モーター駆動)を新規開発することで落ち着いたようですが…。米軍がリボルバーカノン、しかもドイツ製の採用を真剣に検討するなんて珍しいですね。

さ採用理由は必ずしも戦術的要求だけではなく、例によって米国軍事産業の圧力だとか政治的理由も色々絡んでいるのだろう。だが、ステルス化のため小柄な機体に全兵装を内装しなければならない JSF において、リボルバーのコンパクトさが評価されたろうことは想像できる。

恵必ずしも、米軍が 20mm ガトリング絶対主義じゃないって事ですね。

さガトリングは圧倒的な発射速度を誇るが、スピンアップ遅延のためバースト射撃に向かず、機関部や弾倉が嵩張り、メンテナンスコストがかかる欠点がある。単砲身リボルバーの利害得失はこの正反対で、ガスト式はその中間なのだろう。

彩使用環境や目的によって評価基準が異なるので、どちらが良い悪いと一概には言えないのですね。

さそして、軍用機を取り巻く環境は激しく変化している。当分の間、航空機銃もそれに合わせて進化し続けるのだろうな。

1980-現代 主要航空機銃
名称重量使用弾薬弾頭重量初速発射速度作動機構備考
Mauser BK27 100Kg 27x145B260g 1025m/s1700rpm Gas(Rev.Cannon)
ADEN25 98Kg 25x137 180g 1050m/s1850rpm Gas(Rev.Cannon, Exp)
Oerlikon KCA136Kg 30x173 360g 1080m/s1350rpm Gas(Rev.Cannon)
GIAT 30M791 120Kg 30x150B275g 1025m/s2500rpm Gas(Rev.Cannon)
GAU-8 281Kg 30x173 425g 988m/s4200rpm Ext.Power(Gatling)
GAU-12 123Kg 25x137 180g 1050m/s4200rpm Ext.Power(Gatling)
M61A2 93Kg 20x102 100g 1030m/s6600rpm Ext.Power(Gatling)
GSh-6-23 76Kg 23x115 175g 740m/s9000rpm Gas(Gatling)
GSh-6-30 160Kg 30x165 390g 900m/s5000rpm Gas(Gatling)
GSh-301 44Kg 30x165 390g 900m/s1800rpm Recoil
1m
西側近代主要機銃
GAU-8/A
東側近代主要機銃



未来編

夢のあと静かに

恵今後、航空機銃はどうなってゆくんでしょう。

さ地球人がもう少し利口になって戦争が無くなれば機関銃の必要も無くなるだろうが、まぁあと10年や20年でそうなるとは思えんな。

彩また偉そうなことを…。

さとりあえず米軍はステルスと精密誘導兵器に傾倒しており、その先に遠隔操作兵器・無人兵器を展望している。

恵無人兵器ですか…機関銃の出番は無くなりそうですね…。

彩でも 70 年代のミサイル万能論だとか 80 年代の ICBM ボタン戦争論だとか、有人通常兵器の出番は無くなると言われ続けて一向に無くならないですね。

さ今の地球の科学力で無人兵器を作っても、狂犬的な皆殺し兵器にしかならんだろうからな。仮に高性能なものが出来たとしても高価で精密な代物になり、全ての国がそれを運用できる訳でもないのだ。有人軍用機のニーズは当分無くならず、航空機銃も必要であり続けるだろうと思う。

恵喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか…複雑な気持ちです。

彩しかしマキシムが最初の機関銃を発明してから 100 年以上経ちましたが、金属薬莢、固体火薬、旋条銃身という基本メカニズムは何も変わっていませんね。

さ往復ボルトからリボルバーやガトリングになったのを質的な変化と捕らえるべきかどうかだが…両者とも基本メカ自体は往復ボルト以前から存在したものだから、結局発射速度が上がっただけだよな。

恵SFの世界には液体火薬だとかプラズマ砲だとかレールガン(電磁推進砲)なんてアイデアが出てきますが、どれも実用化には遠いみたいですねー。

さ固体火薬はエネルギー効率と安全性で飛び抜けて優れた性質を持っているからなぁ。とりあえず、当面の課題は金属薬莢からの決別だろう。

彩金属薬莢は真鍮(時として軟鉄やアルミ合金)の圧延加工で作られており、消耗品のくせに素材にも製造にもコストがかかります。また重量が嵩み、衝撃に弱く(凹んだり曲がったりする)、悪条件下では錆びるという欠点も持っていますね。

さ金属に代わるべきプラスチック薬莢は様々な形状のものが各国で試作されている。弾頭を薬莢に埋め込み、推進薬を周囲に配した「テレスコピック(Telescopic)」型と呼ばれるものが多いな。これによって全長を短くでき、弾頭を密閉できるので衝撃や湿気にも強くなるメリットがある。

Telescpoic and Conventional case
テレスコピック弾と通常弾

恵いいことづくめじゃないですかー。

さだが弾頭が銃身に挿入されていない状態から発射されるため、ガス漏れを起こしたり命中精度が低下するなどの問題があるのだ。メカニズムや装薬燃焼方式が工夫されてはいるのだが…。

彩でも、「弾頭が銃身に挿入されていない状態から発射される」のはリボルバーカノンでも同じことじゃないですか?

さうむ、だからテレスコピック弾はリボルバーカノン向きだと言われている。リボルバーに使用する場合、シリンダ前方からの給弾(Front-Loading)を行うことでメカニズムをコンパクトかつ単純にしようという試みがよく行われているようだ。

恵だから、テレスコピック薬莢の図では銃口側に溝が付いていたんですね!

さ前方給弾のテレスコピック・リボルバーカノンはメカニズムとして実用化に近いレベルにあるようだ。ただ既存の兵站体系と全く異なる弾薬を使用すること、実績がない不安などでなかなか制式採用に踏み切れないようだな。

恵軍人さんっていつも保守的なんですね…。

さ平時の軍事技術なんてのはそんなものだ。湯水のように予算を使い、海とも山とも知れん試作兵器をダメモトで実戦投入できちゃう戦時のほうが異常なのだぞ。

彩近年の流行としてはプラスチック薬莢の他に、薬莢そのものを無くしてしまおうという試みもありますね。

恵いわゆる「ケースレス(Caseless)」ですねー!

さ艦砲や重砲は昔から弾頭と装薬が別になった薬嚢式だが、自動火器ではないので論外だな。最近の戦車砲は自動装填装置を持ち、しかも薬莢の大部分を強化紙で作った可燃式のものを使っているが、これを機関砲とは言い難い。自動火器で完全に薬莢を無くすのは難しいのだ。

彩1990 年代にヘッケラー&コッホ社が G11 ライフルを試作し「これぞ新世代の歩兵銃」と大々的に宣伝していましたが、結局モノになりませんでしたね。

さあれも完全なケースレスではなく、弾頭と装薬を保持するプラスチック・サボを持ち機関部下面の小穴から排出する方式だったがな。

恵あの…旧日本陸軍のホ-301 を忘れていませんか?

さあれは斬新な試みだったとは思うが、装薬と燃焼室を含む弾頭重量が推進力に比して重過ぎた。初速 150〜200m/s というのはグレネードランチャー並みだからなぁ…。

彩少なくとも、航空機銃に使用するには原理的に無理があったという事ですね。

さ現在、中口径機関砲のケースレス弾薬としては主として可燃性薬莢が検討されているようだ。例えばモーゼル RMK30 は可燃性テレスコピック薬莢を用いた前方装填リボルバーカノンで、しかも薬莢の燃えカスを含む発射ガスを機関部後方に吐き出して反動を相殺する無反動機関砲という触れ込みだ。

1m
Mauser RMK30
モーゼル RMK30 無反動機関砲
恵すごーい。アイデアの塊ですー。

さ1990 年代末に次世代ヘリコプターや装甲車の理想的武装として盛んに売り込んでいたようだが、何故か最近あまり話題を聞かなくなったぞ。(笑)。買い手が付かなかったか、メカニズムを完成しきれなかったのか、それとも両方か。まぁ、この手の「ハイテク機銃」は今後も時々出ては消えてゆき、何かのきっかけで成功作が出来て技術革新が起こるのだろうな。

彩弾頭と推進薬を別々に供給する液体火薬もケースレスの形として期待されていますね。可燃薬莢とどちらが先に実用化されるか興味深いところですが…電磁エネルギーを使うレールガンやプラズマガンは、現状ではエネルギー効率が悪すぎて実用化には程遠いようです。

恵電磁エネルギーといえば、ビーム兵器というのは出来ないのでしょうか?たしか米空軍が空飛ぶレーザーを作っていたような…。

彩ボーイングの ABL(Air Borne Laser)ですね。一応 YAL-1A という型番が与えられているようです。Attack Laser なんて勇ましい名前ですが、本当は短・中距離ミサイル迎撃機ですよね。

Boeing ABL
ボーイング ABL

さアレはジャンボジェット一機のペイロードを丸々発振器に使う代物だからなぁ、限りなく実験機に近い機体と見るべきだろう。実験機と言うと予算が下りにくいから、湾岸戦争の「スカッド・ショック」にかこつけて中短距離ミサイルの空中迎撃云々と言っているだけじゃないかな。

恵それじゃ、とりあえず機関銃の出番はなくなりそうにないですね!

彩SF世界には小火器の誘導弾が出てきますが、現実はどんなもんなんでしょう。

さいわゆるスマート・ブレット(賢い弾丸)だな。軍用というよりむしろ警察や特殊部隊用として、長距離狙撃用に 12.7mm 級の誘導弾は試作されているようだ。しかし一発あたりのコストは相応に高くなるので、秒間 100 発近くバラ撒く航空機銃には向かないだろう。現代の航空機銃はしょせんミサイルのバックアップなのだからな。

恵「高価で精密な誘導弾」ならミサイルを持っているのだから、わざわざ 20mm や 30mm の弾を誘導弾にする必要なんてないわけですねー。

さうむ。軍用機の機銃は「いつでも確実に発射でき、撃てばとにかく弾が飛んでゆく」単純さにこそ意義があるのだと思う。暗視ゴーグルとレーザーサイト付き MP5 で武装した特殊部隊員が、腰に昔ながらのコンバットナイフを下げているようなものだ。

彩わかりやすいような、わかりにくいような例えですね…。

恵でも、キーポイントは「生身の人間」というところにありそうですねー!

さ機銃は戦闘機にとって最後の武器であり、空戦でこれを使うのは絶体絶命のシチュエーションだろうが、そういう時に使える武器を持っているかいないかはパイロットに与える心理的影響が大きいと思う。また機銃には「威嚇射撃」という重要な役割があるが、これこそ生身の人間と人間が戦うゆえに必要な能力だよな。

恵機械と機械の戦いなら、壊すか壊されるかの二者択一ですもんね。

彩では、そろそろこの辺でまとめてみましょうか。

さ第一次大戦で航空機と共にデビューした航空機銃は、第二次大戦では短期間に多種多様のメカニズムが開発された。その後ジェット時代を迎え、ミサイルの台頭により一時期は長物とさえ思われたが、やはり現実の戦闘には機銃が欠かせないことが認識され、殆どの現代戦闘機には高発射速度の中口径機銃が搭載されている

恵航空機銃は不滅ですーっ!

さショートスパンで見れば、の話だがな。次世代のメカニズムとしてテレスコピック弾、非金属薬莢、ケースレスなどは地平線に見えているが、その先がどうなるのかはハッキリ言ってよくわからん。

彩兵器の形態は戦争の形態によって左右されるものだから、これから地球人類がどんな歴史を築いてゆくかに依存するわけですね…。

恵私が言うのも変なんですけど…できれば、機関銃なんて要らない世の中になって欲しいものです…。

彩地球人同士いがみ合ってる場合じゃないですよね、ウチューの脅威がすぐそこまで迫っているのですから。

さ…うぐぅ。


編集後記

彩途中長らくお休みを頂きましたが、「KANON in the AIR」四部作はこれで完結です。

恵おつかれさまでしたー。

さ軽い気持ちで始めた企画だったが、思ったより大変だったな…。

彩引用した数値は二次資料の子引き孫引きじゃないですか。

さうん、だから数字は目安というか参考程度にしてして欲しいのだ。それにしても、二次資料ベースでも資料集めにはそれなりに苦労したのだぞ。

彩またイイワケしてますね…。

さ今まで省略していたが、ここで主な参考書籍とホームページをまとめて紹介させて頂こう。

参考書籍
"BRITISH AIRCRAFT ARMAMENT Volume2",
R.Wallace Clarke, Patric Stephens Limited 1994
ISBN 1-85260-402-6
英国航空機銃と照準器について「だけ」で 200 ページ余を埋めた航空機銃マニア垂涎の著。第一次大戦時の対飛行船兵器、大戦間期の試作機銃などマイナーなネタもあります。
"RAPID FIRE"
Anthony G.Williams, Airlife Publishing Ltd, 2000
ISBN 1-84037-122-6
陸戦用・艦載用・航空用について古今東西の機関砲の話題を集めた力作。機銃マニアを名乗るなら必携です。
"EARLY AIRCRAFT ARMAMENT",
Harry Woodman, Smithsonian Institution Press, 1990
第一次大戦の航空機銃の話題「だけ」で 250 ページ余を埋めた猛烈に濃い本。黎明期の機銃同調装置の話はとても勉強になります。
「航空技術の全貌(上)(下)」
岡村純ほか元海軍技術将校共著 興洋社, 1948
日本の軍用機技術開発に携わった当事者による貴重な証言集。機銃については下巻に詳細な記事があります。
「歴史群像 No.24 局地戦闘機紫電改」学研, 2000
ISBN 4-05-602064-7
国本康文氏による 20mm 機銃の解説は、おそらく日本の出版物のなかで最も詳しいものではないかと思います。
「歴史群像 No.31 試作戦闘機」学研, 2001
ISBN 4-05-602509-6
同じく国本康文氏の寄稿で、「幻の機銃」とされてきた海軍二式・五式・陸軍ホ-155 について現時点で判明している殆どの情報が掲載されています。

参考 WEB ページ
「国本戦車塾」国本康文氏
http://www.warbirds.nu/kunimoto/type51/index.htm
戦車から艦砲まで幅広い話題を扱っていますが、「航空機銃メカニック」コーナーは恐らく旧軍航空機銃に関する日本最強のページです。
"The WWII Fighter Guns" Emmanuel Gustin
http://www.geocities.com/CapeCanaveral/Hangar/8217/fgun/fgun-in.html
第二次大戦の航空機銃を特集したページ。本文が読めなくとも、スペックシートを見ているだけで色々と参考になります。
"Swedish Military Aviation" Urban Fredriksson
http://www.canit.se/%7Egriffon/aviation/
スウェーデンを中心に現代ジェット戦闘機の話題を扱っており、Aircraft Gun Table のコーナーには貴重な現代戦闘機固定機銃の一覧が掲載されています。
"Russian Aviation Museum" Alexandre Savine
http://hep2.physics.arizona.edu/~savin/ram/index.html
おそらく世界最強のロシア航空機ページ。軍用機だけでなく試作機や民間機まで網羅した濃い内容と、使いやすい検索システムにはいつもお世話になっています。
"WWW.AVIATION.RU" Eugene Dvurechenski
http://www.aviation.ru/
ロシア機一般に関するファンページ、Russian aviation guns のコーナーは ShVAK, VYa など謎めいたロシア機銃の命名由来の参考になりました。
"Federation of American Scientists"
http://www.fas.org
タイトルは全米科学者連盟となっていますが、軍事技術についてやたらに詳しいサイト。特に DOD-101は必見です。
GOOGLE
http://www.google.com
現在世界最強の検索サイト。断片的な情報を調べるのに大変お世話になりました。

彩これで全部…な訳ないですよね。

さ軍用機に関する書籍やページでほんの1、2行の情報があったりするのだが、そういう断片的な情報ソースについては勝手ながら割愛させて頂いた。航空機銃というテーマは「航空機」「銃砲火器」という二大テーマの狭間で、意外とまとまった情報がないんだよな。飛行機マニアにとっては枝葉末節のことだし、銃砲マニアにとっては異端の一分野に過ぎない。

恵軍用機のスペック表には「20mm × 2 + 7.7mm 機銃 x 2」なんて省略して書かれちゃって、機種も装弾数もわからない事が多いですー。

彩仏の 7.5mm, 米ソの 7.62mm, 日英伊の 7.7mm, 日独の 7.92mm なんて全部一緒くたに「RCMG(Rifle Caliber Machine Gun」と書かれちゃったりもしますね。

さまぁ、それで済む場合も多いのだ。機銃の能力はある程度口径で決まり、同時代同口径の機銃なら極端な性能差はないのだからな。たまに零戦のエリコンとファントムのバルカン砲を比較するような人が居たりもするが…。

恵同じ 20mm でもぜんぜん別物ですよぉ〜。時代が違うんですから…。

さまぁ、そういう誤解を解く一つの手がかりになればと思って本稿を上梓したようなものだ。

彩自画自賛ですねー。

さだが、ここに書いたことを鵜呑みにして丸々引用したりはしないで欲しい。これは現時点で私が把握している情報から導き出した一つの歴史解釈に過ぎない。新資料によって解釈が変わることもあるし、同じ事実でも人によって異なった解釈があり得るのだからな。

恵なんか釘刺してますね…。

彩うっかり「最優秀」とか「最強」なんて言葉を使うと、言葉だけが一人歩きしちゃうんですよね…。

さ戦争はカードゲームじゃないんだから、単一の「能力値」で勝敗が分かれたりしないんだよ。兵器には目的があり、目的に応じて性能評価が決まるものだ。メカニズムとしての完成度と兵器としての有効性は別に評価すべきだし、それが戦局に与えた影響もまた別に論ずるべきだと思う。

恵説教くさくなってきましたー。

彩そろそろネタ切れになってきたんでしょ。話題が尽きると理屈っぽくなるんですよ、ささきさんって。

さうむむ…見透かしやがって。それでは、そろそろこの辺でお開きにするか。

彩それでは読者の皆様、お疲れ様でした。またいつか会う日まで。

恵ごきげんようですー。


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