魚雷は大人になってから・中篇



章前、あるいは10.5章『あの頃のように』


S:えー、もう一人アシスタントを入れました
☆:IRCのチャットで奪い取ったんですねっ、悪党ですっ
S:虐めがいのある可愛い娘です
  ほれ、自己紹介
★:はじめまして、天野美汐です
  若輩者ですが、粉骨砕身努力いたしますので、読者の皆様にはご指導ご鞭撻の・・・
S:はい、ストップ
★:でも、挨拶は大事です
S:長いし、つまらない
  とりあえず、美汐っちには、冷静な突っ込みとデータ管理をお願いね
★:はい、暴走を食い止める自信はありませんが、努力します

S:では『魚雷は大人になってから・中篇』行って見よっか
☆:(小声で)増えたんですね
★:(小声で)まとめるだけの能力が無かったんですよ



第十一章『風を待った日』

S:第一次大戦(1914-1919)で戦艦級の艦艇でも雷撃で沈むようになった
  この意味は大きい
★:日露戦争(1904-1905)でもあったと思いますけど
S:そうだね、味方戦艦が叩きのめした損傷戦艦を襲撃したんだったね
  ちなみに、その前の日清戦争(1894-1895)では
  損傷艦が港に辿り着いたところで襲撃している
☆:段々と、戦場で襲撃するようになったということですねーっ

S:戦艦級が、雷撃艦艇を『敵』として認識するようになったんだな
  例えば、それまでの戦艦は、魚雷防御用のネットを持っていた
  これは、停泊時に舷側から水中に垂らして、魚雷襲撃を防ぐための物だ
☆:航行時には使えないですね
S:反対に言うなら、この程度でも平気だとされていたんだ
  他にも、撃退用の武装を主砲塔の上とかに乗っけてたな
  主砲を撃つ時には使えないぞ、砲員が爆風で吹き飛ばされかねないから
☆:えっと、つまり、戦闘状態では無意味な装備・・・ですねっ?
S:つまり、普通の状態では、雷撃なんぞ無いとナメてたんだ
  軽艦艇に、戦艦が、外洋で、食われる、どれほどの衝撃だったか

S:ドレッドノートと、それまでの戦艦の設計思想の違いを見てみよう
☆:副砲や中間砲が無くなって、全て主砲になってますーっ
S:つまり、副砲や中間砲ってのは、主砲とやることは同じだったんだ
  だから、公算射法の登場で、要らなくなったんだ
★:でも、日本が注文した金剛とかは副砲を積んでます
  他国でも副砲は復活してます
S:これは、今までの副砲と同じだと考えるのには、若干問題があるぞ
☆:廃止したけど、やっぱり欲しかったって言うのではー?
S:この副砲復活は駆逐艦撃退用だ
  今までは、適当な空きスペースに大砲を載せてたのを
  本腰入れて応戦するようになったと見てよい
  勿論、状況次第では他の艦も撃つよ、ただ、今までは主砲と同じ目標に対して
  一緒になって撃っていたんだけど、そういった使い方は基本的にしなくなった
  これらの副砲は、荒波の中でも、武器として使える
  主砲を撃っていても使える
  そして、その目標は突っ込んでくる雷撃艦艇だ
★:つまり、水上戦闘の最中に駆逐艦が突っ込んでくると
S:軽巡洋艦もね
  いや、この時期、恐るべきは軽巡洋艦だったのかもしれない
  何しろ、連中は、荒波の中でも突っ込んでくるからな
☆:巡洋艦による襲撃・・・
  なんか、どっかの国が好きそうな(笑)
S:軽巡洋艦や駆逐艦が外洋で戦隊を組んで襲撃してくるようになると
  それから防衛するためにも、軽巡洋艦や駆逐艦が重要になってくる

☆:ふと思ったんですけどーっ
  水雷艇には駆逐艦という対抗艦艇が登場したのに
  軽巡洋艦や駆逐艦に対抗するような艦艇ってのは無かったんですか?
S:水雷艇は一種の単能艦艇だったでしょ
  雷撃力は持っているけど、火力は殆ど無い
  そこで
  火力を備えて、水雷艇と対等以上の機動力を持った艦艇として駆逐艦が登場した
  さて、駆逐艦は、火力と機動力と雷撃力を持っている
  だったら、大抵の駆逐艦と対等に戦えるのでは?
★:軽巡洋艦も軽巡洋艦で相打ちに持ち込めますね
S:もっとも、対水上火力を重視した、駆逐艦や軽巡洋艦も存在するよ
  ただ、対水上火力しか持たない艦艇は、相手が軽艦艇でない限り、殆ど無力だ
  そこまで性能や機能を限定するのは望ましい物ではないな



第十二章『ゆらめくひかり』

S:さて、以前に巡洋艦とは外洋行動が出来る汎用艦艇だと述べたよね
★:それだけだと漠然としすぎているような
  それに、分類としては範囲が広すぎます
S:第二次大戦型艦艇ばかりを見ると判りづらいんだが
  19世紀半ばぐらいの戦闘艦艇を見ると理解し易い
☆:戦艦は、その原型である装甲艦の時代ですね
S:分厚い装甲と、それに応じた巨大な大砲を備えた「浮き砲台」に近い
  充分な外洋行動能力を持っていたとは言いがたいな
★:これが発展して外洋行動能力を持つようになって「戦艦」に発展するんですね
S:つまり、戦艦は「火力と防御力」が前提の艦艇なんだ
  じゃあ、駆逐艦は?
★:対象である水雷艇を撃退できれば十分ですね
S:これも戦艦と同じだ「火力と機動力」が前提の艦艇
  両方とも、船舶としての性能よりも「戦闘能力」が重視された物だ
  巡洋艦とは、まず船舶として高性能であって、それに戦闘力を付与した物なんだ

S:じゃあ、巡洋艦の定義はこのぐらいにして
  こういった、艦艇の持つ意味はなんだろう?
☆:船舶として使えるので、何処にでも派遣できる?
S:そうだね、海軍の任務の基本は軍艦を派遣することだ
  「何か騒ぎがありそう」って場所に必要な戦力を展開すること
  あらゆる事態に対応できる汎用外航戦闘艦、それが巡洋艦なんだ
★:となると、自らの領域に応じた性能と数量が必要ですね

S:さて、もう一つが戦闘能力に対する考え方だな
  戦艦が一番上に居る以上
  巡洋艦に求められる戦闘能力は限定された物になる
  基本的に、それほど極端な物は要求されない
★:その割には、重武装巡洋艦は古今東西、数多く存在します
S:うん、行動能力の高い巡洋艦に重武装をすると便利だよね
  ただ、戦艦に出会ったらどうかな?
☆:それは、負けますよーっ
S:負けないようにするには?
★:対等以上の攻防性能を与える?
S:これは巡洋艦に戦艦の武装を施した巡洋戦艦が登場し
  更に発展して高速戦艦になった経緯だな
  結局、戦艦に出会ったら、戦艦でないと勝てないんだ
  だから重装巡洋艦の有効性は程度次第なんだ
☆:ふぇ?
S:あまりにも、重装化して、高価になると
  戦艦と変らない重要性を持つようになる
  そうなると、装備数量も減るし
  敵は対抗処置として戦艦を投入してくる可能性も出てくる
  戦艦を出すほどではないけど、鬱陶しいてのがねらい目だ
★:かなり難しい舵取りを要求されますね

S:巡洋艦の一つの方向性が、重装巡洋艦だったんだけど
  も一つが、二等とか三等と呼称される、中型以下の巡洋艦だね
  等級類別は時代や国籍で異なるけど
  まあ、一般的に、重装巡洋艦ではない巡洋艦全般をさすと思ってくれ
★:こちらが、どちらかと言うと「巡洋艦」ですね
S:これら、中型以下の巡洋艦は
  汎用戦闘艦艇として極めて便利な存在だ
☆:でも、これも、当然ですが、戦艦には対抗できません
S:殴り合いするのは戦艦だとしても
  その為のお膳立ては必要だよね
★:偵察艦艇ですね
S:そう、高い行動能力を持った偵察巡洋艦は
  艦隊戦闘に大きな影響を与える
  それに、船団護衛や、通商破壊なんかも重要な任務だ
★:数量が必要ですね
S:となると、あんまし高価なものは造れないね
  その結果が二等以下の中小巡洋艦なんだ

S:さて、こういった中小巡洋艦は
  19世紀末には一般に防護巡洋艦と呼ばれる物が主体だった
★:傾斜した甲板装甲に防御を依存した構造ですね
☆:たいした防御力にはならないのに、なんで防護巡洋艦って呼ばれるんですか?
S:それまでの巡洋艦級の艦艇は防御が無かったんだよ
  だから、防御を持つようになったのは大きな進歩だったんだ

S:だけど、この形式は速射砲の登場で限界を露呈する
  沈没しにくいけど、戦闘能力の維持には繋がらなかったんだな
☆:装甲範囲が少なかったんですね
S:ところが、これ以上に装甲範囲を広げるには重量が必要だね
★:船体の大型化に繋がりますね
S:そして、そうなると、コストも大きくなる、高級化だ
  雑用巡洋艦としてより、もうちょっと色々させたほうがお得だと感じるでしょ
  防御力もあるんだし、大きな船体は武装もしやすい、強力な艦になるぞ
★:・・・装甲巡洋艦になります
S:そして、装甲巡洋艦を戦艦の代用で使う奴が出てくる
  行き着くところは?
★:巡洋戦艦に発展して、最終的に高速戦艦です
S:それはそれでOKとして、汎用巡洋艦の問題は解決しないね
☆:となると、なるべく大型化を限定して、工夫するしかないですーっ
S:その答えが「軽巡洋艦」だったんだ



第十三章『兆し』

S:軽巡洋艦は、技術の向上で、軽量大馬力の機関が登場したことで成立した
  高速化をしながら、それでも多少の重量が浮いて、舷側に薄い装甲を貼ったんだ
☆:これで、小口径速射砲に対抗できますね
S:範囲は狭いし、薄いから、ある程度強力な砲弾には耐えられないけど
  当時数量が増大しつつあった駆逐艦とかには圧勝できる
  そして、軽巡洋艦は「巡洋艦」としての機能を揃えている
  つまり、あらゆる海域で、あらゆる気象条件下、艦隊作戦に寄与できる
  結果、第一次大戦直前に軽巡洋艦を完成させた英独は、これを大量建造するんだ

★:軽巡洋艦登場以前の英国の巡洋艦建造を見てみます

建造数

S:一等から三等は、大きさ、つまり火力と航続性能の違いで分類されたもので
  構造的にはどれも防護巡洋艦だ、一番数が多いのは二等なのが判ると思う
  丁度手ごろな大きさと性能だったんだな
★:20世紀に入ると、防護巡洋艦が大幅に減って、装甲巡洋艦に置き換わりますね
S:装甲巡洋艦の戦闘能力に疑問は無いんだけど
  大きさや機能から見ると、一等巡洋艦以上の位置付けに入る
  どのような理由をつけようとも、装甲巡洋艦が過大なのは明らかだ
  更に、強力化の結果、1908年に巡洋戦艦が登場する
☆:巡洋戦艦は戦艦じゃ無いのですか?
S:流れからすると、装甲巡洋艦に戦艦の主砲を載せて
  新型の軽量大出力機関を使って、物凄い速度を発揮できるようにした
  ハイパー装甲巡洋艦だったんだ

★:そして、巡戦は、そんなに大量には建造できません
S:英国でも、こんな数だからね、これを汎用巡洋艦として使うのは贅沢だ

S:さて、既存の巡洋艦の旧式化は2つの方向から来ていた
  一つは、先に上げた防御だったんだけど、もう一つは?
★:攻撃力・・・・ですか?
S:まあ、ある意味攻撃力では有るんだが、正解は速度だ
  1905年に登場したドレッドノートとその眷属達
★:弩級戦艦ですね
S:そう、連中は、既存の戦艦より高速で、大火力だった
  そして、その速度は20〜21ノットにもなったんだ
☆:19世紀末の防護巡洋艦の平均よりも高速ですーっ
S:比較的新しい巡洋艦の中で、高速性能に振った連中でなら逃げられるけど
  大抵の巡洋艦では逃げることすら出来ないね
  更に追い討ちとして、装甲巡洋艦の発展として巡洋戦艦が登場する
  こっちはもっと高速だ、25〜27ノットぐらいを発揮する
★:たぶん、ほぼ全ての巡洋艦より高速です
S:つまり、欲しいのは?
  改善された防御力と、大型戦闘艦よりも速い速度だったのさ
  そして、軽巡洋艦(原型も含む)の完成で、英国は軽巡洋艦の大量建造を開始する

建造数

☆:一気に、巡洋艦建造は軽巡洋艦一色に塗り替えられましたねーっ
S:これは戦争の影響もあるんだけどね

S:旧世代の巡洋艦は、数量が少なくて遭遇確率の低い巡洋戦艦だけではなく
  何処にでも出てくる汎用巡洋艦にも勝てない事になるワケだ
  結果、第一次大戦後、各国は軽巡洋艦の建造競争を開始する
  どっちにしても、既存の巡洋艦は旧式だし、高齢化してたからね

S:そして、第一次大戦中に、英独の軽巡同士が何度も殴りあいを演じた
  そう、軽巡洋艦は登場直後から、性能競争に突入していたんだ
★:つまり、大型重武装化ですね
S:延々と、巡洋艦について述べたのは
  これが、この後、つまり1919年からの20年間の鍵だからだ
  海の女王の座は軽巡洋艦と、その眷属達が争うことになる
  そして、巡洋艦の戦闘能力の向上は、戦艦化であり
  それは巡洋艦に望まれる「数」と相反する性格であるということも覚えておいてね



第十四章『あるいは、それは現実』

S:軽巡洋艦の性能競争は、当初は英独間で行なわれて
  第一次大戦の終結によって、一旦は沈静化したんだが
☆:日米の軽巡建造競争が始りましたーっ
★:日本は、小柄な天龍型軽巡洋艦を2隻造った後、拡大強化版の5,500t級を3群14隻
  米国はオマハ級を10隻、一気に建造しましたね
S:どちらも、比較的短期間に揃えたね
★:5,500t級は1920〜25年の間に
  オマハ級は1923〜25年ですね
S:米国のオマハ級は、日英の最新世代と比べて
  攻防性能に勝り、さらにカタパルトと水上機を搭載していた
☆:先進的な巡洋艦だったんですね
S:また、軽巡同士の戦闘が第一次大戦で頻発したことから
  既存の旧式巡洋艦だけでなく、敵軽巡を圧倒できる「超」軽巡が出てくる
  英国のホーキンスや、日本の古鷹だな

S:日米の新鋭巡洋艦と、同時期の英国軽巡を比較してみよう
  美汐ちゃん、要目を出してね
★:はい・・・
  まずは英国の戦時計画艦艇群です
  C級は時期とグループによって武装等の要目が異なるので
  一般的と思われる数値です

C級 D級 E級 ホーキンス級
就役 1914〜1919 1918〜1922 1926 1919〜1925
常備排水量 4,200t 4,850t 7,550t 9,750t
全長 約135m 144.0m 173.7m 184.4m
全幅 約13m 14.1m 16.6m 19.8m
機関出力 40,000 40,000 80,000 60,000〜80,000
最大速度 29kt 29kt 33kt 30〜31kt
主砲 152mm*4 152mm*6 152mm*7 191mm*9(6)
副武装 76mm*2 76mm*2 102mm*3 76mm*4
魚雷 53cm*4(2) 53cm*12(6) 53cm*12(6) 53cm*6(3)
舷側装甲 76mm 76mm 76mm 76mm
建造数 28隻 8隻 2隻 5隻

★:こちらが、日米の建造艦艇群ですね

天龍 5,500t 古鷹 オマハ
就役 1919 1920〜1925 1926 1923〜1925
常備排水量 3,200t 5,170t 7,950t 7,050t(常備)
全長 142.6m 162.1m 185.2m 169.4m
全幅 12.3m 14.2m 15.8m 16.9m
機関出力 51,000 90,000 102,000 90,000
最大速度 33kt 36kt 34.5kt 34kt
主砲 140mm*4 140mm*7(6) 200mm*6 152mm*12(8)
副武装 76mm*1 76mm*2 76mm*4 76mm*2
魚雷 53cm*6(2) 53cm*8(4)
or 61cm*8
61cm*12(6) 53cm*10(5)
舷側装甲 64mm 64mm 76mm 76mm
建造数 2隻 14隻 2隻 10隻
( )内は片舷指向数

S:古鷹の性能は、初期の小柄な軽巡を抹殺するには充分、それと重雷装
  艦隊前衛を排除して力任せに殴りこむことも
  敵艦隊を捜索して、敵の妨害艦艇を始末することも
  その反対も、全てが可能だ
  まさしく、軽巡洋艦に求められた性能の殆どを備えていたんだ

★:そして、各国の巡洋艦の基準値が旧式巡洋艦から軽巡洋艦に置き換わったことで
  各巡洋艦は、軽巡洋艦に対抗できる艦艇を要望するんですね



第十五章『星を見上げて』

S:さて、前置きはここまでだ
  ワシントン軍縮条約の影響を、見てみよう
★:新型戦艦の建造禁止ですね
☆:それと保有枠を決められたので、色々と問題が出ました

S:最大の問題は、戦艦が大量に消滅したことなんだよ
  美汐ちゃん、戦艦保有量を条約締結前と締結後で比べてみてよ
★:はい
  英国の戦艦、巡戦は第一次大戦終了時に・・・73隻保有してました
  これが条約締結で20隻になってます
S:まあ、英国の場合は二国標準だったから異常に数量が多いんだが
  何処の国も、条約で言うところの主力艦に相当する艦艇を
  30とか40隻持っていたんだよ
☆:でも、力関係に応じた数量での保有なら別に・・・
S:艦隊決戦だけを考えるならね
  旧式戦艦は、あんまし決戦では役に立たない
  だけど、敵の戦艦以外と戦うなら強力だし
  ある意味、捨て駒に出来るから、やばそうな場所に突っ込ませるとか
  上陸作戦に使うとか、船団の護衛だとか、使い道は色々あるぞ
★:戦艦が居るというだけで意味があると?
S:船団護衛で考えてみ
  戦艦がついていたら、もうそれだけで、大抵の通商破壊艦艇は逃げるぞ
  そして、船団は沢山あるんだ、戦艦も沢山あった方が嬉しいね

S:残された戦艦は、基本的に新型ばっかりだ
  そして、仮想敵国と拮抗した数量である、自由には使えないよね
★:でも、その、旧式戦艦の仕事は装甲巡洋艦なんかも担っていた役割なのでは?
S:装甲巡洋艦は巡洋戦艦になり、そして高速戦艦になって消滅しちゃったでしょ
  それに、こいつらも「主力艦」で条約制限の対象だったんだよ

S:片方では、軽巡洋艦の完成と、それの重装化が進んでいた
  条約は、補助艦艇の数量に制限が無かった
★:条約上限の巡洋艦を、準主力
  もしくはそういった強力な汎用艦艇として使おうという思想ですね
☆:条約型巡洋艦ですねーっ
S:条約の上限は、基準排水量一万トン、主砲口径8インチだった
  これに合わせて建造されたのが条約型巡洋艦だったんだが
  さて、この艦って意味があったのか?
  何に使うんだ、こんなもん
★:準主力です
S:戦艦に出会ったらどーするんだ
  巡洋戦艦相手だったら逃げることも難しいぞ
☆:でも、主力艦艇以外には勝てますよーっ
S:そう、軽巡洋艦以下を始末するのには充分だ
  でもさ、それだったら軽巡洋艦を多数装備しても良いのでは?
  排水量5,000tの軽巡2隻は、条約型巡洋艦1隻よりも使い道が広くないか?
★:戦闘力で劣ります
S:相手が条約型巡洋艦だったらね
  でも二隻でかかればいい勝負出来るんじゃないか?
★:微妙ですね
S:そう、微妙だったんだ
  使用目的がはっきりとしているならともかく
  色んな意味で中途半端な巡洋艦だったと言えるね



第十六章『夜の風』

S:さて、この不可思議な巡洋艦を熱心に建造した国があったね
☆:日本ですーっ
  でも、なんで、そんなに熱心だったのですか?
S:ようやく、ここで、魚雷のお話らしくなるな

S:第一次大戦末期の日本の艦隊戦力は
  8隻の超弩級戦艦・巡洋戦艦以外は、はっきり言うと旧式戦艦ばかりだった
★:準主力だった一等巡洋艦も合わせて約25隻が旧式艦ですね
S:1905年の弩級戦艦の登場と
  続く巡洋戦艦の登場が、既存の戦艦・装甲巡洋艦を時代遅れにしちゃったんだ
  日本の場合、日露戦争直前から、戦争中に大量に購入&建造したもんだから
  結果的に旧式艦ばっかりになってるんだな
★:幸か不幸か、損失艦が少なく、捕獲艦まで入ったのですから・・・
S:これに、旧式化著しい二等以下の巡洋艦が約20隻
  これは4隻が辛うじて第一次大戦世代で、他はオンボロ
  約80隻の駆逐艦のうち、約50隻が日露戦争世代の旧式艦
  額面と実効戦力で大きな乖離があったんだ
  これを、一気にリニューアルしようとしたのが、八八艦隊計画だ

☆:八八艦隊計画と言うと、未成に終わった戦艦群が有名ですね
S:この計画は、戦艦や巡洋戦艦の建造だけじゃなかったんだよ
  ほぼ全ての艦艇を、全面的に刷新するつもりだったんだ

★:既存の旧式戦艦、装甲巡洋艦を、新造の戦艦と巡洋戦艦に
  そして、軽巡は旧式二等以下の巡洋艦の置き換えで
  駆逐艦は、新型を大量に揃えると判断してよいのですね
S:今までグチャグチャだった、新旧の大型戦闘艦艇群を
  全面的に、超弩級高速戦艦に統一することで
  凶悪な打撃力を発揮するつもりだったんだな
  そして、新型軽巡洋艦と駆逐艦は、その新型戦艦群を支援する
  じつにシンプル、かつ合理的な構想だ
  まず、あの時代にあったら、常識的な思想であり、発想だったと思う
★:予算の問題を無視するなら、です

S:駆逐艦は峯風型の大型駆逐艦と、樅型の中型駆逐艦の二本立て
  軽巡洋艦の方は、他国の状況やら何やらで拡大されたり統合されたり
  色々紆余曲折はあったんだけど
  前に述べたように、5,500t級と古鷹の二本立てで整備を予定していた
☆:ところがワシントン軍縮条約で、この計画は頓挫してしまうんですねーっ

S:日本は、敵戦艦を叩くのを戦艦で行なうつもりだった
  その肝心の、新型戦艦が無くなっちゃった
  しかも、戦艦全体の保有量も仮想敵国であるアメリカより全然少ない
☆:勝ち目ゼロですーっ
S:建造競争では勝てないから、戦争開始と同時に決戦になだれ込んで
  一戦で全てを決しようと考えていた日本にしてみれば
  そもそもの、初期兵力で負けてるのではハナシにならん
  そこで、無理無茶無謀を考え出す、それが漸減作戦だ

☆:えっと・・・
  確か、主力の決戦に先立って、大規模な水雷夜襲を敢行して
  敵主力の数量を減少させるんでしたね?
S:各種艦艇は、本来の機能である汎用性を犠牲にして
  対戦艦打撃能力を引き上げることになる
  その主力であり、花形だったのが
  リニューアル開始したばかりの駆逐艦群だったんだ
☆:水雷戦隊ですねっ

S:日本の水雷戦隊の基本は
  一隻の軽巡洋艦が旗艦として指揮をする
  隷下に複数の駆逐隊があり、駆逐隊は3乃至4隻で構成されている
  水雷戦隊全体では12〜20隻程度の駆逐艦が居ることになる
★:他国では旗艦も駆逐艦だったりしますけど
S:軽巡洋艦は、搭載飛行機で情報収集や戦闘支援を行う事が出来て
  更に、駆逐艦よりも大きな火力を持っているから、敵の妨害を排除するのにも便利だ
  駆逐艦だけで構成された部隊よりも総合戦力で数段勝るんだよ
  他の国では、そこまで熱心じゃ無かったんだろう
★:日本が熱心だった理由は、戦艦数で劣りながら、決戦主義だったからですね

S:さて、味方戦艦が少なくなったことで
  水雷戦隊の重要性は増した
  だけど、水雷戦隊の戦力では、敵の直衛を突破するのが難しい
★:軽巡洋艦や駆逐艦の進歩は、護衛艦艇の充実にも繋がってますね
☆:雷撃すれば・・・
S:そしたら、敵主力に放つ魚雷がなくなっちゃうよ
  魚雷は、一撃分しか無いんだ、砲撃で始末したい、だけど砲力では相打ちだ
  いや、抱えてる魚雷を自由に使える分だけ前衛側は有利だな

S:そこで、日本は条約型巡洋艦を突破支援に当てることにした
  一個水雷戦隊に、一個巡洋艦戦隊をセットにして使うことにしたんだ
☆:巡洋艦戦隊は火力で、敵前衛を排除するんですねーっ
S:実際には夜戦だから、何がどうなるか判らない
  敵前衛に出会わなかったり、無事に突破できるかもしれない
  そうなると、巡洋艦戦隊は何をすれば良いんだ?
☆:敵主力への砲撃?
S:巡洋艦の火力で戦艦を何とかするのは無茶だよ
★:雷撃ですね
S:そゆことだね、誰が、どれだけ、突破できるかは判らない
  誰でも良いんだ、前衛を突破できた奴は戦艦に向かって突撃して雷撃する



第十七章『One small day』

S:さて、日本は、用途を明確に定めることに成功した
  敵艦隊前衛を排除して、敵主力への突破口を開く、そのための艦だ
  では、他に国はどうだったのか
★:つまり、条約型巡洋艦に何を求めたのか、ですね
S:ワシントン条約で戦艦が大幅削減されたことの影響
  それに対する答えの模索だったんだな

S:時間の流れを整理することから始めよう

★:1910年以降、急速に軽巡洋艦の仕様が固まります
S:何をもって軽巡とするかは色々意見があるだろうけど
  まあ、完全な完成はC級以降、つまり1914年だね
  第一次大戦の影響もあって、1920年代半ばまでに
  日米英では既存の巡洋艦戦力は殆ど軽巡洋艦に置き換えられ
  それに対抗するような、超軽巡洋艦も登場する
☆:軍縮条約の締結は1922年です
S:戦艦の削減、戦艦や巡洋艦の上限の決定
  そして、まだ、巡洋艦はギリギリ、この上限にかからないぐらいだった
  戦艦は計画中だとか建造中の一部は条約制限から出ていたことに注目してね
★:つまり、巡洋艦の場合、この性能上限は過大だったのですね

S:さて、条約の策定によって
  各国は、この上限に従った巡洋艦を無定見に建造開始する
  何のために作るのか、何のために使うのか、十分な検討が為されていたのだろうか
★:巡洋艦戦力の使い道ですか・・・

S:既に、必要量の巡洋艦を持っていた国の場合
  巡洋艦を新造する必要性は薄い
  他国が条約型を作るなら、対抗処置として、それなりに持っていれば十分だな
★:戦艦の代わりにはならないんですか?
  例えば、装甲巡洋艦や旧式戦艦を各地に派遣したように
S:その観点で見ると
  米国なんかの重巡洋艦はその方向性もあるかもね

☆:イタリアやフランスのはどうなんでしょう?
  当初は軽防御で、次に重装甲に走りましたーっ
S:彼らは軽巡洋艦を当初は持っていなかった事に注目してくれ
  軽巡洋艦に世代交代が始ったときに、それに乗り換えるのが遅れたから
  条約策定時に、まともな巡洋艦を持っていなかったんだ
★:つまり、最初に建造した条約型巡洋艦は軽巡洋艦としての機能が優先されたと?
S:サイズと武装は条約上限だけど、それは、条約で決まっていたからだ
  でっかい方が強いんだし、これなら他国の軽巡洋艦にも勝てる
  古鷹が狙ったのと同じ方向性だな、あくまでも強力な軽巡洋艦なんだ

☆:英国の条約型巡洋艦も同様の方向性ですーっ
S:そうだね
  英国の場合、欧州各国の戦艦数は無茶苦茶減ってるから
  欧州限定で考えれば、数ヶ国に同時対抗する事だって可能だ
  つまり、彼らは戦艦数に不足は感じていなかったんだな
  制海権を獲得するのに必要なのが戦艦だとするならば
  制海権を利用するのに必要なのが巡洋艦だ
  ならば、戦艦=制海権は確保してるんだから、必要なのは?
☆:巡洋艦の数ですーっ
S:無理に殴り合いに適した重装甲巡洋艦を作るより
  巡洋艦としての機能、航続性能とか数量を考慮した方が良い
  しかも山のように軽巡洋艦作ったもんだから、実際には余ってるとも言える
  こうした初期の軽巡洋艦では足りないところを>速度、航続性能、火力
  補完した物であれば良い、つまりは超軽巡洋艦だ

★:でも、例えば、重装巡洋艦が出現した場合に困るのでは?
S:戦艦を投入すればよい、巡洋戦艦でも良いな
  何しろ戦艦数に多少の余裕が有るんだ
  対応できないほどの数量の重装巡洋艦が居たら困るけどね
☆:つまり、英国の重巡洋艦は戦艦をアテにしてたから
  あの程度の戦闘能力で充分だったんですねーっ



第十八章『the fox and the grapes』

★:イタリアは重装巡洋艦を建造しましたね
S:自国の戦艦が旧式弱体化していたからだな
  敵が戦艦を投入してこない限り、数量・性能で劣る以上、積極的な投入は出来ない
  だけど、戦力で勝る必要はある
  戦艦というワイルドカードの投入が制限される状況だと
  こうした重装巡洋艦とは便利で役に立つ代物だ
  例としては、そうだな日露戦争の旅順封鎖戦だ
☆:えっと、日本軍の戦艦部隊は旅順港前面に拘置され
  ロシアの通商破壊艦艇を追いかけて始末して回ったのは装甲巡洋艦部隊です
S:もし、旅順に戦艦を置かなかったら、もしくは、その戦力が弱小だったら
  ロシア軍の主力が外洋に散らばってしまって、厄介なことになる
  つまり、日本軍は戦艦を拘置せざるを得なかったんだ
  こういった、戦艦同士の睨み合いの結果
  自由に使える戦力が減少するって状況は意外と多い
☆:そして、相手が戦艦を出してこない限り、重装巡洋艦は無敵ですーっ
S:まあ、所詮条約上限だから
  結局は同規模の艦艇とだと相打ちになると思うけどね
☆:勝てないんですか?
S:イタリアのザラ級巡洋艦と、トレント級巡洋艦で比べてみよう
★:主な要目を出します
  
トレント級 ザラ級 ボルツァーノ
就役 1928〜1929 1931〜1932 1933
基準排水量 10,511t 11,870t 11,065t
全長 196.9m 182.8m 196.9m
全幅 20.6m 20.6m 20.6m
機関出力 150,000 95,000 150,000
最大速度 35kt 32kt 35kt
主砲 203mm*8 203mm*8 203mm*8
副武装 100mm*16(8) 100mm*16(8) 100mm*16(8)
魚雷 53cm*8(4) 53cm*8(4)
舷側装甲 70mm 150mm 70mm
建造数 2隻 4隻 1隻
( )内は片舷指向数

S:最後のボルツァーノは、トレント後期艦とでも言うべき艦だな
  双方の火力は同じだ、正確にはザラ級以降は新型主砲なので、多少違うけど
  トレントに新型主砲を載せたボルツァーノが建造されてることから
  ここでは、両者の火力は基本的に同じとしよう

★:となると、双方の違いは
  ザラは装甲が厚く、トレントは高速で魚雷を持ってる、です
☆:馬力の違いは、機関重量の違いで、それが双方の武装と装甲の違いですねっ
S:魚雷の場合、重量やスペースもさることながら
  それに合致した機動を要求されることにも注意してくれ
  砲撃戦ではあんまし激しい動きをすると射撃精度が下がる
  でも突っ込むときには、それが必要だ、相反する部分があると思ってくれ
☆:つまり、ザラ級は砲撃重視の動きをする結果、魚雷を装備しない事になったと?
S:全てをそれで説明できるとは思わないけどね

S:さて、双方が戦うとして
  トレントが取れる選択肢は以下の3つだ
  A:高速で逃げる
  B:接近して雷撃
  C:素直に砲戦する
★:逃げる場合、追い払うという意味ではザラの勝ちだと思います
S:逃げたトレントは何処かで活動して、困ったことになるとも言える
  事態はあんまし解決したとはいえないよね、引き分けだ
  接近して雷撃か、砲戦に応じるか、どっちかだな
☆:トレントが接近する前に始末出来ませんかーっ?
S:戦艦の火力ならね
  もしくは、トレントじゃなくて、もっと小さい艦艇なら可能だろう
  だけど1万トンもの巡洋艦を8インチ砲でなんとか出来ると思う?
☆:時間があれば可能ですーっ
S:そうだ、高速なトレント級が本気で突っ込んできたら、対応時間は少なくなる
  更に、トレントだって黙って撃たれる訳じゃない、砲撃してくるんだぞ
  ザラが優れた防御力を持っていても、無傷では済まない
  接近したらザラの防御上の優位も消える
★:ザラが砲戦で優位を主張できる距離はたぶん15,000mぐらいまででしょう
  それより近いと8インチなら抜けると思います
S:そこから1万m踏み込んだら雷撃されるんだ
  この1万mを突破するのに何秒かかるかだな
  フッドはビスマルクに相対速度40ノットで突っ込んだけどトレントはもっと速い
☆:場合によっては50ノットぐらいでしょうか?
S:まあ、自分の火力を減らしてまで突っ込むかどうかは判らない
  火力最大で突っ込むなら相対速度30ノットがイイトコだろう
  15m/sぐらいだから約10分
★:射撃速度が毎分3発として30斉射
  およそ250発が飛来します、この距離ですと3%〜10%の命中率ですから
  7〜25発を被弾します、雷撃できる保証は無いですよ
  撃退できる保証も無いのですが・・・
S:そして、その被弾はザラも同じだ
  接近したらザラの防御力では8インチ砲弾は防げない
  トレントが叩きのめされるなら、ザラも叩きのめされるんだ
★:ならば、15,000mより遠方で打撃を与える必要がありますね
  その状態なら、トレントは被害を受けますが、ザラの損傷は軽微で済みます
S:だけど8インチで15,000以遠ってのはきつい条件だ
★:確かに、その距離で1万トンを叩きのめすのは大変です
S:つまり、ザラの持つ防御上の優位なんてのは、極めて限られてるんだ
  効果の少ない遠距離戦闘で多少の打撃を与えたところで
  トレントが速度発揮可能状態なら逃げちゃうし
  被害が極少で、そのまま勢いに任せて突撃してくるかもしれない

S:基本的に戦術の選択肢はトレントが握ってるんだ
  速度で勝る事と、武装が多岐に渡ってることがそれを生み出している
  まあ、魚雷が接近しないと撃てないってのが問題点だけどね
☆:あははーっ、アレですねっ
S:うん、アレだ、でもそれは、また後でね

S:さて
  ザラ級の場合、自分より弱い艦艇を始末するのには向いている
  その優れた防御力は、軽巡洋艦以下を砲撃で叩くには充分だ
  反撃だって、6インチ砲弾なら、殆ど無効に出来る
  だけど、1万トンの制限では、8インチ砲に対する充分な防御力は与えられないし
  (ザラは当初は200mm装甲を与えるつもりだったが条約制限に入らないので断念した)
  8インチ砲では条約型巡洋艦を短時間で始末できるだけの火力とは言いがたい
  だから、重装巡洋艦と高速軽防御、どちらが正しいかは一概には判断できない

  ただ、魚雷を捨てないと重防御が出来ないなら、重防御は無意味だ

☆:魚雷が無い事は問題なのですか?
S:重装甲の巡洋艦が、何故重装甲なのか考えてみよう
  それは相手の砲撃に耐える為だよね
  砲撃戦とは、どちらかが死ぬまで続く殴り合いだ
  攻撃力とは、相手の戦闘能力を奪う時間の短縮であり
  防御力とは、自らの戦闘時間の延長に繋がるんだ

  で、稼いだ時間を何に使うんだ?

☆:砲撃時間に使いますーっ
S:それで何を撃つ?
★:相手の艦艇です
S:軽装甲、高速の巡洋艦でも、軽艦艇以下が相手なら同じ事が出来るね
  高速な分だけ攻撃機会が増加するから、総合攻撃能力では大きい
  そして、相手が戦艦だったら、重装巡洋艦程度の防御力なんぞゼロに等しい
  速度と魚雷が無い事から、単なる屠殺対象だ
★:大抵の戦艦よりは高速です
S:巡洋戦艦や高速戦艦相手に逃げきれる保証は無い
☆:軽艦艇相手なら、重装巡洋艦の方が安心できます
S:なら8インチ砲は要らないね
  軽艦艇を短時間で始末するなら、6インチ砲で良い
  同じ規模なら6インチ砲は8インチ砲の1.5倍ぐらい搭載できる
  射撃速度も1.5〜2倍だから、単位時間あたりの投射数は2〜3倍になる
★:6インチ砲の弾頭サイズは8インチ砲の半分ぐらいです
S:目標を始末するのに必要な打撃量は
  弾丸の数量に比例して、弾頭サイズの二乗根に比例する
  この場合だと、弾頭重量が半分でも破壊力は7割を確保出来る
  つまり、1.5〜2倍の戦闘能力を持つことになる
  まあ、砲数と命中数が比例するわけでもないので、そこまで差は広がらないんだけど
  8インチ砲巡洋艦で重装甲ってのは意味が薄いわけだ

★:一撃の火力がモノを言うシチュエイションは多いのでは?
☆:最初の一発で目標が大損傷すれば、ほかのことが出来ますーっ
S:火力が大きいってのは意味があるよ
  だけど防御力が大きいというのは、そこまでの意味は無いんだ
  防御力の優位とは、持続力を維持するための物だからね
  そして、持続的な打撃能力で言うなら、8インチ砲は6インチ砲に劣る

☆:じゃあ、戦艦なんて要らないですよー
S:戦艦だと、この一撃が凄まじい、大抵の艦艇は、イッパツで大損害だ
  耐えられるのは戦艦だけだ
★:同じ事が巡洋艦には言えないのですか?
S:8インチ砲では、そこまで圧倒的な打撃力は無いよ
  攻防性能の総合で、例えば・・・同数の6インチ砲よりは優位だろう
  つまり、目標が軽巡洋艦なら8インチは意味が出てくる
  射撃速度で劣っても、1.5倍の打撃力があるから
  軽艦艇を叩く能力は軽巡洋艦と同じぐらい
  そして、軽巡洋艦の防御を打ち破れる威力があるから、殴り合えば軽巡洋艦に勝てる
  だけど、重装巡洋艦は、重装の代償として、速度と魚雷を失ってる
  超軽巡洋艦を叩くのには充分な火力と防御力だけど、圧勝ではない
  これは超軽巡と軽巡の関係と似たようなものだが
  超軽巡洋艦が軽巡洋艦と同じ事が出来たのに、この重装巡洋艦はそれが無い
★:だから、無意味だと

S:歩兵の能力を論じるような物だ
  訓練、武装、戦術、確かにそういった違いは能力に影響する
  だけど戦車が出てきたらオシマイでしょ?
★:歩兵側が対戦車火器を持てば・・・
S:それが魚雷なんだ

S:戦艦が出てこないという条件でしか、重装巡洋艦は意味が無い
☆:イタリアは戦艦数で劣るので、戦艦を出せないことがある
  だから、重装巡洋艦を戦艦の代わりに使うことにしたんですねーっ
S:そう、相手が戦艦を出してくるようなら、こちらも切り札の戦艦を出す
  それが彼らの前提条件だったんだ



第十九章『冬の花火』

★:アメリカは戦艦数で勝るのに何故、重装巡洋艦に向かったのですか?
S:日本軍の戦艦数が少ないから戦艦に遭遇する確率は少ないでしょ
  そして、艦隊決戦てのが根底にある
  自分たちの戦艦は、艦隊決戦で確実に勝利するためには、簡単には使えない
  何しろ、両方の大洋に配備するんだ
  政治的な決着が行なえれば戦艦戦力で勝るけど
  それまでは戦艦は自由に使えないどころか数量で劣るんだ
★:政治的な決着ですか?
S:例えば欧州と戦争する場合、日本と組めば、太平洋の戦艦を使えるね、反対も然り
  両面作戦は出来ない、この場合は数量で負ける
  もしくは、予算を確保して、戦艦を大量建造してから戦争に突入するってのもある
☆:どっちにしても、戦艦戦力で圧倒的優位を確保するのには時間がかかりますーっ
S:戦艦を艦隊決戦に使う予定である以上
  数量で勝っても、そう簡単には使えないだろうしね
★:艦隊決戦とは回避可能なはずです
S:そうだね、普通は勝ち目が薄いと回避するものだ
  だけど、勝った場合の利益も大きい
  そして、どっかの誰かさんはそれに応じるつもりだし
  誰かさんと太平洋を挟んでにらみ合ってる人も、同じだったんだ
☆:日米・・・
S:どっちがどっちなのかは、実は意味が無い
  ただ、戦艦の圧倒的な戦闘能力は、幻想の対象として最適だった
★:妄想です
☆:狂気ですねーっ

S:妄想と狂気が日本海軍を捕らえていたとするなら
  米軍も同じ病にかかっていたと言える

  彼らはお互いを信じて
  お互いだけを見つめて
  他の誰にもついて行けない世界に
  手に手を取って歩みだしたんだ

S:そう、この二人のようにね?
★:なんで私たちの方を見て、そう言うのでしょうか?
☆:佐祐理は、別にそういった趣味は無いですーっ
S:いや、妄想と狂気が、この二人に
★:なんでしょう?
S:いや、まあ・・・
★:なんでしょう?
S:・・・ごめん

S:さて、戦艦をアテに出来ない米軍としては
  巡洋艦を
  A:決戦のための偵察兵力
  B:決戦のときに邪魔してくる敵の軽艦艇潰し
  C:外地への派遣兵力としての準戦艦
  なんかに期待していたんだな
★:艦隊決戦で、敵艦に突撃するのは?
S:その目的に合致した軽巡洋艦もある程度は作ったよ
  ただ、数量を見る限り、それは主要目標ではないみたいだね
☆:日本のような無茶は考えなかったんですか?
S:戦艦の数量で勝ることが期待できるでしょ
  だから、その優位を保持することが巡洋艦以下の役割だったんだ
  つまり米国の条約型巡洋艦は
  突っ込んでくる日本の巡洋艦以下を食い止める防波堤だったんだな
☆:だから砲撃型の艦なのですねーっ
S:もし、雷撃してくるようなら、それも歓迎だ、主力に向かう魚雷が減る
  簡単には脱落しないように頑丈にして、敵の突撃ルートに向かい合う
  それが、米国の巡洋艦が狙った方向性なのさ
  速度並、火力並、魚雷なし、防御優秀
  敵を倒すのではなく、敵に倒されないのが目的の、艦隊決戦用重装護衛艦
  それが米国の条約型巡洋艦の方向性だったんだな
☆:イタリアの準戦艦とは、ちょっと違うんですね
S:どちらも戦艦に何かを期待しているのは事実だよ
  敵戦艦が出てくるのは歓迎だけど、殴り合いに応じるつもりは無い
  せいぜい引っ張りまわして疲れさせてやると考えてる
☆:はぇ〜、勝ち目無いのに出てくるのは歓迎なんですか?
S:他の場所に敵戦艦が出てこないってことだろ?
★:自国戦艦の使いやすさが増大します
  敵戦艦に当てるもよし、居ないところに出して暴れさせるもよし
S:こうした敵戦力の誘い出しってのは
  第一次大戦のドイツが考えていたことだ
  彼らは、少数の敵戦艦を引きずり出して、それを叩くことで
  戦艦数で劣るのをカバーするつもりだったらしい
★:虫が良すぎます
S:英国はそれを逆手にとって
  出てこようとしないドイツ主力艦隊を叩くつもりだった
  こういった誘い出し合いに双方の巡洋戦艦が使われて
  お互いに殴りあうわ、戦艦とも交戦するわで、酷いことになったんだ
☆:はぇ〜
  巡洋戦艦よりも劣る重装巡洋艦じゃ、もっと酷いことになりますーっ
S:そう思うよ
  戦艦というワイルドカードの有効活用が全てに優先されるんだ



第二十章『迷妄』

S:さて、巡洋艦は魚雷を捨てるか、それとも維持するのか
  難しい岐路に立たされていたのは判ったね
☆:その鍵は戦艦だったんですねーっ
S:戦艦に期待するから、魚雷は要らない
  戦艦に期待できないから、魚雷をもつ
  そして、なんでも出来た方が都合が良いから持ってる
★:最後のは、あまりにも無定見です
S:でもね、何かに特化すると外したときに怖いんだ
  一通りなんでもってのは、それなりに悪くないぞ

S:さて、軍縮時代後期を見てみよう
  ワシントン軍縮条約は、巡洋艦の性能制限だけだった
  結果、性能上限の条約型巡洋艦の建造競争が起きた
  使い道は国によって異なるけど、とにかく皆で造りまくった
  結果として、新しい軍縮条約が締結される
☆:1930年のロンドン条約ですねーっ
S:この条約では、巡洋艦の保有量全体の制限
  さらに8インチ砲巡洋艦の保有量制限が入ったんだ

S:8インチ巡洋艦の保有量を使い切った日本は困ってしまった
  今は、8インチ巡洋艦の数量で勝ってる
  だけど、もう造れない
  そして米国は割当量が多いから、いずれ追いつかれ、そして追い抜かれる
☆:困りますーっ
S:てなわけで
  6インチ巡洋艦の割当量で、1万トンの6インチ巡洋艦を造る事にしたんだ
★:正確には、条約上限は6.1インチですし
  その計画艦は8,500tで予定されてました
S:うん
  この巡洋艦は、既存の条約型巡洋艦と同じ目的で建造されていた
  つまり、前衛艦艇を叩き潰して、主力に向かって突撃する
  日本軍の方針は基本的に変化が無かったんだな
★:米国は対抗してブルックリン級を建造しましたね
S:同数以上の同等艦を用意しないと対抗できないからね
  彼らは両大洋に兵力を分散せざるを得ないから、余計に数量が欲しい
☆:英国は、もっと、なんというか、常識的な軽巡洋艦を建造しましたよ?
S:彼らの軽巡洋艦の多くが第一次大戦時の建造艦だったことに注目して欲しい
  日米の軽巡洋艦よりも5〜10年古いんだ
  でも、戦闘能力で言うと、そんなに不足は感じていなかった
  軽巡洋艦と言うのは、必要最低限の機能を全て内包した艦艇だ
  より多くを期待することは、保有数に影響する
  必要最低限の性能を持った艦艇を可能な限り多数ってのも一つの方向性なんだ
  そして、そういった観点で見ると、水上戦闘能力なんて、あれで充分だったのさ
  もっと多くを期待するなら戦艦を持ち出せばよい
☆:足りないのは通信、航続距離、航空装備とかですね
★:ところが日米は、その軽巡洋艦割当量まで、条約型として利用してます
S:各国の巡洋艦が全て条約型になってしまうと
  ハンディな軽巡洋艦も、条約型に頻繁に遭遇することになる
  そして、条約型巡洋艦は、ハンディな軽巡洋艦より確実に強い
  つまり軽巡洋艦は負けてしまう、負けるって事は存在できないってことだ
  巡洋艦は、そこに在る事が重要だ、だから数量を造るんだけど
  負けてしまったらそれが達成できない
★:遂に、軽巡洋艦の時代が終わるんですね

☆:佐祐理は頭が悪い子なので、混乱してますーっ
  重巡洋艦とか、軽巡洋艦とか、どこでどう分けるんでしょう?

S:区分けは色々あると思うけど

  一般的なのは、ロンドン条約のA項とB項
  A:8インチ砲巡洋艦を重巡洋艦
  B:6.1インチ砲以下の場合が軽巡洋艦

  ところが、これは、艦艇の性格で言うなら、意味が無い
  日米の軽巡洋艦は8インチ巡洋艦と同じ方向を見ている

  だから、こう区分けしたい

  条約上限の巡洋艦を条約型巡洋艦、もしくは重巡洋艦
  そして、条約制限を殆ど考慮していない巡洋艦を軽巡洋艦と見る事にする

☆:第一次大戦後から軍縮条約前に建造された巡洋艦は軽巡洋艦ですねーっ
★:古鷹はどうでしょう、超軽巡洋艦と言ってますが?
S:まあ、軽巡洋艦だとも言えるけど
  最終的に、条約型巡洋艦と同じ目的に使われたから、重巡洋艦として構わない

S:重巡洋艦は、軽巡洋艦の発展型なのか
  それとも、異なる目的の艦艇なのか
  米国は明らかに異なる目的の艦艇としたね
  魚雷の撤去というカタチで明確にしてる
  日本の場合、大型化というカタチで、数量面で、ある意味捨ててるね
★:日本の場合、第一次大戦後に建造した軽巡洋艦がまだ残っています
  数量は問題なかったのでは?
S:英国よりマシとはいえ、代替艦はそろそろ必要だったはずだよ
  でも、それを建造しないで、重巡洋艦に使ってしまったね

S:注意して欲しいのは
  本当に国家方針で条約型巡洋艦を必要としていたのは日本だけなんだ
  他の国は、日本がそうするから、対抗処置として建造したんだな
  日本に付き合うつもりの米国はともかく
  とばっちりを食らった英国としては良い迷惑だ

★:日米の重巡洋艦は、水上戦闘特化型です
S:このぐらいの時代から、もう一つの方向性が出てきたのにも注目して欲しい
☆:防空艦ですねーっ
S:航空攻撃の可能性が急速に増加していたんだ
  これに対応する能力を各艦艇が要求されるようになった
  更に言うなら、万能艦艇であるべき軽巡洋艦には
  自己防衛能力以上のものが要求される
★:防空火力の提供が要望されるようになったと判断してよいのですか?
S:そうだね
  主砲と高角砲を別途に搭載すると、どちらも数量が足りなくなる
  戦艦並に大きければ、沢山の高角砲を搭載できるけど、それはまた別の話だ
  対策としては、主砲を高角砲にするしかない
  でもって、高角砲っていうか、両用砲は、火力がそんなに大きくない
  手数や搭載量は大きいけど、打撃力や射程距離じゃ見劣りする
  だけど、軽巡洋艦としてなら問題ないレベルはなんとか確保出来る
  不足気味の打撃能力は魚雷を装備することでも補える
★:防空巡洋艦は軽巡洋艦だったと
S:別の言い方をするならば、機能限定は危険だって事さ
  もしかすると航空脅威なんてのは嘘かもしれない
  軍艦の建造ってのは、計画開始から実戦配備まで10年ぐらいかかることが良くある
☆:ふぇ〜、10年先のことを予測するのは困難ですーっ
S:だから、保険も沢山かけておくんだ
  この場合は短い射程でも構わなくて、今までもやってた事を受け持たせる
★:それは・・・水雷襲撃?
S:その阻止も重要だよ
  まさに軽巡洋艦に相応しい任務じゃないか
  優れた汎用性で、何でも出来る、機能を拡張しても限定しちゃいけないんだ
  限定した艦艇は巡洋艦じゃない、それは戦艦や駆逐艦だ
  中途半端に大きな艦艇は、そのまま武装したって中途半端なんだ
  だったら、それを開き直るしか生き残る道は無いんだ

☆:じゃあ、軽巡洋艦の時代は終わらなかったんですか?
S:そうだ、奇形化する条約型巡洋艦、それはそれで良い
  目的と使用方法が正しい限り、そういった特化艦艇は強力だ
  だけど、特化艦は前提条件が崩れたらその場で無意味な存在になる
  機能限定を極力回避した艦艇、つまり軽巡洋艦は、まだ不滅だったんだ
  水上打撃力を魚雷に任せることで、砲力を他に回す事が出来たのがポイントだね
★:魚雷賛歌ですね
☆:魚雷賛歌ですーっ



第二十一章『歩み』

S:てなわけで、ようやく長い前振りが終わりました
  魚雷攻撃です
☆:延々と巡洋艦やってましたからねーっ
S:だからさ、砲力の有る艦艇に魚雷を積んだ意味を見て欲しかったのだよ
★:対戦艦、もしくは、砲戦能力の補完としての魚雷ですね

S:魚雷の射程距離は、乾式魚雷の登場以降、急速に伸びた
  結果として、中口径級の大砲の戦闘距離に対応した射程を
  一応備えることが出来るようになったんだ
☆:乾式ってのは、どんな構造なんでしょうか?
S:じゃあ、簡単に、発展した魚雷の構造を見てみよう
  基本は既に、前半でやったから、発展したところを中心に見ていくよ

S:当初の魚雷は、タンクに溜め込んだ空気を噴出させて
  それを動力にしてスクリューを回して推進していた
  つまり、航続能力はタンクの容積に大きく依存していたんだ
★:冷式ですね
☆:それが、次に加熱装置を設けるようになるんですね
S:タンクから出た空気は調整装置で適度に減圧されて出てくる
☆:せっかく高圧で入れてあるのに・・・
S:そのまま出したらスグに無くなっちゃうでしょ(笑)
  だけど減圧したら、当然だけど力が無い、長持ちはするけどね
  これに石油(アルコールの場合もある)を噴射して点火する
  この熱気をレシプロ(場合によってはタービン)機関に送り込んで動力にする
★:乾式と呼ばれる形式ですね
S:つまり空気を暖めて、体積を増やすんだ、簡単な事だな
  そして、減圧して使うことで長持ちするから射程も延びる
☆:高圧の空気に燃料を噴射して点火して、その熱気を動力・・・
  ガスタービンとか、ジェットエンジンですね
★:高熱で壊れますね
S:そんなに盛大に燃やしたら、その前にタンクの空気が尽きるよ
  まあ、冷却は周囲の海水にも依存するんだし、耐えられる程度の燃焼に止めればよい
★:そして湿式に発展するんですね
S:うん、減圧して燃焼までは基本的に同じなんだけど
  この燃焼気に水を吹きかけるんだ
  これで、多少は冷却出来るし
  水蒸気の膨張は、このレベルの熱なら空気の膨張より大きいんじゃないかな
  ハイパワー化だ、別の言い方をすると、更に空気をケチる事が可能になったんだ

☆:どのぐらい、性能が変るんですか?
S:倍ぐらいかな
  つまり、同じ魚雷で、同じ速度で航続距離が倍
  乾式は冷式の倍で、更に、湿式は乾式の倍
★:では湿式は冷式の4倍ですね
S:基本的に同じ魚雷で比較した場合だぞ
  冷式魚雷に加熱装置を加えただけの代物で、倍の性能だ
  最初から、乾式として設計されれば、もっと性能は良くなる可能性は有る
  乾式と湿式も同じ、水噴射を加えたぐらいの応急流用に近いと思ってくれ
☆:これらの変換はどのぐらいに起こったのですか?
S:魚雷の登場から30年以上は基本的に冷式だ
  日露戦争前後、つまり20世紀初頭に乾式が登場する
  湿式は、それから数年ぐらいだね、意外と早く、湿式に置き換わった
  既存の乾式も湿式に改造されちゃったんで、乾式の時代は、意外と短い
  湿式の登場は1910年よりも前には各国で採用されてるけど
  行き渡るには、ちょっとかかったようだね
★:だから既存形式の改造も行なわれたと・・・

S:性能向上を見ると
  魚雷の大型化、つまり空気搭載量の増加が加わる
  勿論、圧搾空気を入れる容器(気室)の構造も強化されて
  同じ容積でも、高圧化させることで空気搭載量を増加させてる
  結果、第一次大戦のレベルで、30-35ノットで5,000mぐらいにまで性能が強化される

★:魚雷の大型化、大口径化は破壊力増大のためだと思ってましたが
S:それも有るけど、射程距離の延伸も要求されていたんだな

S:より高圧で空気を詰め込むことで(装気圧)
  空気搭載量を増大させるとか
  燃料や発動機を工夫する、場合によっては噴霧する水を海水にしちゃって
  清水タンクを省いて容積を他に回すとか、色々やってるね
  ちなみに、発動機の冷却なんかは海水に依存してる
  これも重量・構造・容積の節約だね
★:使い捨ての武器ですからね
S:演習弾頭ってのがあるから、正確には完全使い捨てじゃないよ
☆:はぇ〜、訓練でも同じモノを使うんですかーっ?
★:訓練だって使いすてなのでは?
S:弾頭に砂や水を詰めてあるんだけど、空気タンクも入ってる
  タイマーを仕込んでおいて、この空気で中の水を排出すると?
☆:えっと、浮かび上がる?
S:そうすれば回収できるでしょ?
★:燃料等を詰めなおしして整備すれば再利用できるんですね
S:だから、どっかのボンビー海軍さんでも、雷撃訓練は結構頻度が高い
  砲撃訓練だと砲弾は使い捨てだし、大砲は痛むし、中々辛いんだが
  魚雷は回収できるから、訓練コストが安く上がるんだ

S:ついでに言うと、この演習弾頭には記録装置も入ってる
☆:魚雷の航走状態を記録するんですね?
S:そのとーりっ
  その成果は、次の開発や、問題点の発見なんかに役立てるわけだ

S:魚雷の基本構造は、この湿式でほぼ完成された
  装気圧も、材質の関係で、150〜200ぐらいが限界だったらしいから
  1920年代ぐらいで、凡そ性能の向上は頭打ちになる
  勿論、以降も色々と工夫をして、性能向上努力は続いたよ
  だけど、冷式から湿式への進歩のような飛躍的向上は無かった
  だから、その魚雷を使った戦術も基本的には変り様が無い
  後編は、その魚雷戦術と
★:あの魚雷ですね
S:そう、あの魚雷の登場を見てみよう
  ロング・ランスをね





S:さて、取りあえず、中篇はここまで
☆:はぇ〜、全然魚雷じゃないですーっ
★:巡洋艦ばかりですよ
S:うん、俺もそう思う
  だけど、これを入れておかないとね

★:単に能力が不足していると言わないところが性格の悪さを物語ってます
S:美汐ちゃん、君ね、15歳のくせに、オバサンっぽいぞ
★:失礼ですね、物腰が上品だと言ってください
S:上品じゃねえってば(笑)
  佐祐理さんの方が上品だぞ、ちょっと狂ってるけどさ
★:とか言ってますよ、倉田先輩



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