第一章
しつこい能書き
BB-49 South Dakota





S:ま、あれだ、戦艦の変遷とか基本システムは、『魚雷は大人になってから・番外編』でやったんで
  そっちを見てもらうとして、今回は通称ネイヴァル・ホリディ以降の戦艦を考察してみようと思う
☆:ネイヴァルホリデイ?
S:日本語では『海軍休日』って言うね
  ワシントン条約から第二次大戦直前ぐらいまでの約18年間を指す
★:軍縮の結果、表面的には軍拡競争が落ち着いた事から来る言葉ですね
S:この時期の軽艦艇の建造開発競争は凄まじかったんだが
  まあ、一般の人間には戦艦以外は良く判らないからね
☆:この時期以降の戦艦ですか・・・
S:うん、そんなに数が無いので、有る程度は具体的に考察していけると思うよ
★:そんなに無いと言っても・・・
S:まずは面倒なので未成艦は基本的に無視する
  ダニエルズ・プランの米国戦艦や八八艦隊の連中だね
  それと第二次大戦突入によって「ちゃい」になった連中も却下だ
☆:H級もソビエツキー・ソユーズも「ちゃい」ですねっ
★:となると扱うのは・・・
  日本が、長門、大和
  米国は、メリーランド、ノースカロライナ、サウスダコタ、アイオワ、アラスカ
  英国が、フッド、ネルソン、キング・ジョージ5世、ヴァンガード
  他が、ドイッチュラント、シャルンホルスト、ビスマルク
  ヴィットリオ・ヴェネト、ダンケルク、リシュリュー
  以外と多いですね・・・

S:そうだね、この連中を大きく分割すると
  第二次大戦前後の計画艦艇とそれ以前になるね
★:長門、メリーランド、フッドが明確に旧世代ですね
S:この旧世代艦からまずは考えていこう
☆:一緒くたにして考えてよいのですか?
S:かなり不味いと思うね
  まず、設計技術から見てメリーランドは明白に旧式だ
  敢えて言うなら、第一次大戦型戦艦を強力にしただけの代物だ
  これに対して、長門とフッドはポストジュトランド第一世代になる
☆:ポストジュトランドってのは、ジュットランド海戦での結果を反映したって事ですねっ
S:そうだね、大落角砲弾への防御と
  高速で推移する戦闘の情況に対応する事を考えた戦艦だ
  長門の場合は高速戦艦部隊で状況に対応する事を考え
  フッドの場合は味方戦艦が追いつくまで「持つ」だけの性能を持っている
  両者は戦艦と巡戦という役割分担が違う事から追加性能が違っているけど
  最終的な答えは同じなんだな
★:超高速超弩級戦艦への道ですね
S:そう、長門は元々頑丈な戦艦を高速化した方向
  フッドは元々高速な巡洋戦艦を頑丈にしたって方向だ
☆:最終回答は同じだったんですねっ
S:そう、こうした、有る意味ストレートな反応は正解では有ったけど
  この方向性をそのまま進めるには政治的な問題が大きかった
  つまりはお金だね
★:それが条約制定への引き金になり、後続艦艇が無くなるんですね
S:計画では18インチ砲を搭載したモンスターや
  とんでもなく高速な巡洋戦艦が幾つも想定されていたね
  だけど、軍縮は、それらを「ちゃい」にしちゃった
  だからポスト・ジュットランドは第一世代で消滅する
  第二以降の世代は生まれなかったんだ
☆:第一と第二ってどう違うんですか?
S:長門やフッドは設計が終わった後にジュットランド戦が起きているんだ
  つまり設計変更を行って建造途中で改造したんだ
  だから、完全な対応が為されているわけではない
  防御問題と、戦闘推移に対応する能力も充分だとは言い切れないんだな
  注意して欲しいのは、防御は甲板装甲の強化だけでは無いんだ
☆:はぇ、他にも強化するんですか?
S:ジュットランドで示された物の一つに「防御力」の重要性が有った
  これは「遠距離防御の問題」とは別の次元の話だよ
  ここで言う「防御力」は言い換えるなら、攻防の相対的性能の事だ
  攻撃力の強化に防御が追いついてきていないのが明白になったんだ
  破壊力の絶対値が大きくなって、数発の被弾が致命傷になる可能性も出てきた
  防御力の穴っていうか、耐久力でしのぐって考えが無意味になりつつあったんだ
  つまり防御力の充実が、より一層に要求される、それも戦闘能力の維持という観点でだ
★:沈まないで耐えるという考えではなくてですか?
S:そう、戦力を維持するという観点での防御力が要望されるようになったんだ
☆:えっと、問題なのは耐久力ではなくて、戦闘能力の保持ですか?
S:ジュットランド戦で問題になったのは
  戦闘能力を喪失した戦艦が続出した事だな
  弾薬庫に被弾して轟沈したのを除くと、以外と戦艦ってのは沈まない
  勿論、これは砲撃というシステムが撃沈にはあまり向いていないってのもあったんだがね
  沈まないのに火力が残っていないってのは、すっごく困る
  火力を喪失した艦艇は脱落するのが普通だ、もし沈没まで100発の被弾に耐える艦が居ても
  そいつが5発の被弾で火力を失うようなら、そいつが戦術的に耐えられる被弾量は5発って事だ
  10発で沈むけど、沈むその瞬間まで火力を残す艦の方が戦術的には、倍の耐久力があるって事になる
★:考えればある意味当然ですけど、なんでそうなったんですか?
S:一つは主砲の貫徹力の強化だね
  これで砲塔やバーベットを貫徹されて火力を喪失するようになる
  また素材や設計の進歩で艦艇の耐久力が大きく向上した、簡単には沈まなくなった
  更に傾斜した甲板装甲を裏に張るとかして防御を多重化するのが一般的だったから
  砲弾の船体に対する破壊効果が充分に発揮されにくくなった、よって船体は中々沈まなくなる
  だけど砲塔という物体は被弾率が高くて、更に構造的に多重化とかが難しい
  武装と船体の置かれた状況が大きく離れ始めたんだ
  つまり、武装関連機材の生存性を確保する事も重要になってきたんだ
  主砲塔の貫徹は爆沈に繋がる可能性も有るから物凄い強化が必要になってくる
  そういった観点で見ると、フッドも長門もまだそれほど踏み込んだ防御ではなかったかもしれないね
★:そこまで踏み込んだものが第二世代だと?
S:構造的に当初から甲板防御の強化を行っている事
  そして、火力の維持にも留意したのが第二世代と言ってよいね
☆:佐祐理は、第一世代は甲板装甲の強化をして
  第二世代は最初からそれを盛り込んだのだと思ってましたーっ
S:そうだね、表面的な部分ではそれだけで構わないと思うよ
  ただ、それだけがポスト・ジュットランドじゃないんだ、そゆことなのさ



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