第三章
日々是事無

ポケット戦艦




S:時間順で言うと、次はドイッチュラントかな
★:あれって戦艦なんですか?
S:違うというべきだろうね
  ただ、政治的には戦艦に近かったんだし、戦艦と見ても良いかもね
☆:ポケット戦艦ですかーっ
S:この艦は第一次大戦で負けちゃったドイツが押付けられたベルサイユ条約の制限に従っている
  当時のドイツが保有を許された戦力は第一次大戦前に建造された前弩級戦艦だったのに注意してくれ
  これもドッチュラント級なんだよね
S:こんな奴だ 左が新造時、1930年代の姿は右ね
★:世代的には三笠とかと同じですね
S:弩級、そして超弩級が登場する事で前弩級戦艦は最前線の華々しい任務には不適格になった
  これは第一次大戦の水上戦闘を見てみれば判るね
  コロネルのキャノパス、ジュットランドのドイツ艦隊、どちらも前弩級戦艦は何の役にも立たなかった
★:まあ、あの速度と火力では役立たずになるでしょう
S:でもね、リガ湾の作戦では違ったんだ
  ロシアの前弩級戦艦スラヴァはドイツ軍の間抜けぶりもあって大活躍をして見せた
  slava
ドイツ軍を翻弄したボロジノ級前弩級戦艦スラヴァ

☆:日露戦争時に建造された戦艦ですよねっ
S:合計5隻建造されたボロジノ級
  うち4隻が日本海海戦で失われ、末っ子の彼女はその時まだ建造中だったんだ
  12年後に姉妹たちの後を追ったんだが
  上の娘達が、額面上は自分よりも勢力の劣る艦隊にタコ殴りにされて負けたのと違い
  散々暴れまくった挙句、最新鋭弩級戦艦2隻と死闘を演じた末に力尽きた
  カイザー級
カイザー級弩級戦艦 クローンプリンツ

  ケーニヒ級
ケーニヒ級弩級戦艦 ケーニヒ

★:スペックなんて見なくても
  この絵を見ただけで圧倒的な戦力差が判りますね・・・
☆:ロシア軍が凄いのか、ドイツ軍が間抜けなのか、どっちでしょー?
S:両方だ
  戦場で補足しさえすれば、後はより強力な駒を当てれば片付けられる
  日本海海戦では日本軍は入念な哨戒線でロシア戦艦を発見した
  発見しさえすれば、あとは簡単なんだ
  リガ湾で起きたのは、何時何処から突撃してくるかわからないという怖さだね
  さて、ドイツ軍からしてみると、スラヴァが襲撃してきたら?
☆:逃げるか迎撃する・・・?
S:うん、逃げた場合はスラヴァは沿岸のドイツ陸軍を砲撃する
★:逃げられませんね
S:立ち向かった軽巡洋艦は返り討ちにされた
☆:さっすが旧式とはいえ戦艦ですーっ
S:つまり、スラヴァが来そうな場所全てに戦艦級を配置しておかないと襲撃を防げない
★:機動力のある巡洋戦艦を投入して広い範囲を制海させるのは?
S:機雷源に足を止められる
  1915年8月の侵攻作戦でドイツ軍はそれをしようとして
  触雷で損害を出しまくり、一時的に艦隊が後退した隙にスラヴァが突進してきた
★:地の利はロシア軍にあったのですね
S:そゆことだ、だから来そうな場所、来られたら困る場所全てに戦艦を置くしかない
☆:うっわー、機動力を封じられて数の勝負になっちゃったんですねっ
S:最終的にドイツ軍は
  周辺環境の不利を覆せるだけの戦力投入と運用を行う事でスラヴァを補足した
★:そうなったら、後は戦力の大きい最新の弩級戦艦で旧式戦艦を処分するだけですね
S:それでも彼女が果たした物は凄く大きい
  条件を限定した場合、こうした前弩級戦艦でも一定の効果を発揮するって事だ
  北欧の各国が保有した海防戦艦なんかはこういった用法に合致した艦艇だし
  ドイツが保有を許された旧式戦艦も同様に一定の能力を示す事は可能だ
☆:つまり、沿岸防衛目的の艦艇ですねーっ
S:そう、そしてその発展として考えられる任務はなんだろう?
★:ドイツの場合、バルト海の制海権確保ですね
S:そうなるね、旧式戦艦の戦闘能力は、まあ不満もあるが、あれはあれで強力だ
  だけど制海権の確保と保持で考えると、欲しいのは艦隊戦闘を行える艦艇になる
★:前弩級戦艦は速度の点で失格ですね
S:ドイツが許された建造サイズは基準排水量1万トンだ
  これで何かを作るとなると選択肢は極めて限られる
  条件は艦隊作戦が可能なぐらいの速度と充分な攻防性能だ
☆:一般的な条約型巡洋艦では?
S:速度が速いね、そこまでの速度を本当に必要とするかな?
  その速度と引き換えに火力や防御力が無いのも問題だ
  それにバルト海の制海権確保で問題になるのは、周辺各国の保有戦力だ
  特に問題になるのは海防戦艦の類だね、これに条約型巡洋艦で勝てるかな?
★:あっちはかなり大きな大砲と、それなりの装甲を持っていますね
S:一番素直な対応方法は
  海防戦艦よりも強力な攻防性能と海防戦艦よりも速い「超海防戦艦」を建造する事だ
  海防戦艦が意図的に軽視している外洋航行性能も充実させると
  バルト海では中々使い勝手の良い有力艦になる
☆:ドイッチュラント級装甲艦とは、バルト海限定の海防戦艦だったと?
S:一番素直な考えではこうなるね
  勿論通商破壊なんかは二の次だともいえるな
  だからドイッチュラント級に求められるのはまずはバルト海の制海権確保だ
  勿論、戦力が充実すれば制海範囲を拡張するだろうし
  その時に通商破壊のような選択肢はあるし
  それに一定の有効性を発揮する事も想像できる
  でもそれは第一義ではないだろう
☆:でも、こんな小さい船で制海権も何も無いですよーっ
S:周辺各国の戦力はもっと笑えるぐらいに貧弱だったんだよ
  注意すべきはソ連ぐらいだけど、彼らも数隻の弩級戦艦を持つに過ぎない
  ソ連弩級戦艦 大戦開始時
ソ連戦艦ガングート級

S:こいつらはそれなりに有力だけど
  黒海とバルト海に分散しているから
  ドイツとしては戦力を集中する事で対抗は出来る
  地中海や大西洋、そして太平洋に展開しているモンスター達とはまったく別次元の
  言うならば箱庭の中のパワーゲームだったんだ
★:低次元の争いですね
S:あの領域で海軍力が行える事というのは限られてくるからね
  広い外洋で大規模な艦隊同士が殴りあうだけが海軍じゃないしね
  あらゆる任務が大型戦闘艦艇に課せられるのを忘れないようにしてね
  軍縮で問題になったのは大型艦艇の払底だった
  主力は睨み合いに使われるから自由に使える持ち駒が全然足りない
  ドイツの取った選択肢は
  主力でもあり持ち駒でもある、比較的自由度の高い運用を可能とする艦艇の建造だったんだ
  性格的には戦艦と巡洋艦の間ぐらいを取ったと言っても良い
★:艦隊決戦にも雑用にも重宝な汎用万能艦艇ですね
S:20世紀初頭の装甲巡洋艦が同様の位置付けにあったとも言える
  そういった観点で言うなら近代的な装甲巡洋艦の再来だったとも言える
  勿論、この場合は発展としての巡洋戦艦よりも、もっと巡洋艦的な意味合いが高いんだが
☆:でも、フランスはこれに対抗艦艇を出しましたーっ
S:そうだね、ある意味では過剰反応だったんだが
  理由が欲しかったんだろうな
★:理由ですか?
S:フランスは陸軍に多くの予算を投入していたね
  これには勿論理由があるんだが、結果として海軍に回る予算は余り多くない
  ドイツの新型艦の脅威を大きく謳う事で「我が方にも対抗艦が必要である」と唱えれば予算が取れる
  フランス軍の水上打撃部隊は旧式戦艦を中核にした物だから
  海軍としては新世代の新型が欲しい、それに見合った構想とかもある
  だけど「戦艦なら有るじゃないか」と言われると「あれはボロいから」とは中々言い出せない
  下手に旧式戦艦じゃ駄目なのかを説明すると厄介な事になる
☆:敵の新型に対抗するってのは理由としては最高だったんですねーっ
S:そう思うよ
  ドイツとしては仮想敵国に一定の反応を引き起こさせたというところでは成功だったといえるし
  もしかすると、そういった意図は余り無くて
  単にボロっちい自国兵力をなんとかしたいだけだったとしたら
  フランスにしてやられたって事になる
  どっちが正しかったのかはわからないけどね

S:さて、この艦の性能を見ていこう
  速度は戦艦としてみたらかなり速い、26ノットという速度は当時の殆ど全ての戦艦より速い
★:28ノットって聞きましたけど?
S:軽荷状態で過負荷全力で回した場合はね
  大抵の艦は10%ぐらいの余力を隠している、つまり2ノットぐらいは上乗せできるんだ
  さて、主砲は最新型の28cm砲を3連装2基、これは重量軽減を狙ったんだな
☆:連装にするよりも有利なんですね
S:上部構造物に軽合金を多用して、船体は溶接で組みたてた、これらも重量軽減を狙った物だ
  つまりベルサイユ条約の制限である1万トンに押さえるための努力だな
  機関はディーゼルだけど、これも重量問題だろうな
★:ディーゼルエンジンだと軽いんですか?
S:重さもあるんだけど、スペースが小さく出来るんだ
☆:そういえば、今まで見た高速軍艦が長大な船体を持っていたのは機関部のスペースが理由でしたー
S:大型戦闘艦艇の場合、機関部はつまり主要防御帯に組みこまれるものだから
  そのスペースが大きいと言う事は防御すべき場所が大きくなる事でもあるし
  当然だけど船体の大型化は重量の増加でもある
  小さいエンジンとはそういった意味では魅力が大きい
★:他の国ではディーゼルエンジンの艦は無いようですけど?
S:まず、大馬力をだすのが難しい、信頼性の確保とかも大変だったんだ
  切り札でもある大型戦闘艦がエンジン不調で動けませんってのは大変に困った事になるでしょ
  大型戦闘艦には、ある程度実績とか信頼性の確保されたユニットを使うのが常識だね
☆:ドイッチュラントがディーゼルを採用したのは、つまりは自信が有ったからですか?
S:重量節約が第一義、つまり一種の性能重視が有ったんだな
  それと、本気で過酷な戦場で使われることを想定していない部分が感じられる
  勿論、彼らは彼らなりに真剣に検討しているだろうけど・・・
☆:けど?
S:まあ、あの国は第一次大戦時でも戦艦にディーゼルを搭載する事を検討していたし
  潜水艦なんかで大量に運用した実績も持っている
  だから、切り札である大型戦闘艦艇にも適用できると判断していたんだろう
★:軍艦の機関に対する信頼性って大変なんですか?
S:動かない軍艦は意味が無い、どんなときにでも動く、それが軍艦なんだよ
  特に大型艦はその存在が国家の命運に直結しかねない
  それがつまらない故障で動かなくなったら?
☆:あははーっ、存在意義そのものがなくなりますねーっ
S:ドイッチュラント級はそういった意味では実験的な部分の多い艦だとも言える
  軽合金や溶接もそうだけど、先端技術に走りすぎた艦だ
  だけど、それは政治的には大きなポイントになる
☆:大型戦闘艦で採用できるほど高度な技術を持っているという宣伝になりますねっ
S:それが虚構でも構わないとも言えるしね
  多少信頼性等に問題が有っても
  それを採用する事で得られるモノ
  性能的な利点、政治的な優位を考えると悪くない
  勿論、彼らは、その先端技術を実用できると確信してるんだしね

S:さて、では戦闘能力を考えてみよう
★:主砲は長砲身の28cmですね
S:これは第一次大戦時のそれよりもかなり高初速の強力な物だ
☆:ドイツは28cmが好きですねーっ
S:約11インチだっけ、好きだよね、アレ
  これには幾つか理由が思いつく
  11インチ砲は英国とかの12インチ(305mm)よりも軽く出来る
  沢山の火薬を使って高初速で発射すれば特に近距離での貫徹力ではそう劣らない
  弾丸が小さく軽くなるから、射撃速度が稼ぎ易く、砲の旋回速度とかも良好だし
  同じ弾丸定数ならその分弾薬庫も小さく出来るから防御しやすいし重量も軽くなる
★:利点はつまるところ、軽いって事ですね
S:マイナスも同じだ、軽いって事だ
  一撃の威力で劣る、特に遠距離での貫徹能力で劣る
  ドイツが小口径に走った理由の一つは気象条件もあると言われる
  北海とかは霧が多いから、遠距離戦闘になりにくい
☆:出会い頭の近距離戦闘が考えられるんですねーっ
S:そうなると、リアクションの速い小型の主砲は有利だな
  近距離なら高初速軽量砲弾で大口径と戦うのにも有効だ
  だから、ドイツ艦は伝統的に大砲が小さいんだ
  巨砲製造に必要な巨大鋼塊の製造能力で英国よりも劣っていた事も原因なんだけど
  巨砲を要求されなかったから製造設備が小さかったとも言える
  まあ、製造能力は第一次大戦前半までには解消しているけど

S:そして、軽武装で浮かせた重量を装甲とかに回して防御を稼いでいる
  いくら強力な武装をしても
  出会い頭の乱戦になるとそれを有効活用する前に大損傷を受ける事がある
  そうなった時に身を守るのは武装ではなく装甲だとドイツ軍では考えていたのかもしれない

S:さて、ドイッチュラント級はそういった観点で見ると、実に興味深い
★:装甲が弱体ですね
S:この装甲だと8インチ砲弾に耐えるのもきついな
  ただ、基本原則は、火力で勝る事だから、こういったスタイルは概ね正しい
  今までのドイツ艦とは大きく異なるんだが
  条約の制限がこうしたドイツとしては歪な方向
  そして、世間一般では常識的な方向を、強要したとも言えるだろう
  あとは、この性能がどの程度の有効性を持っているかだ
☆:どんな艦を相手にするかですよねっ
S:そうだね、相手としては・・・・
  北欧の海防戦艦、ソ連やフランスの弩級戦艦
  そしてフランスなんかの巡洋艦ぐらいかな
★:どれも特性が随分と異なりますね
S:北欧の海防戦艦、例えばスウェーデンの奴で
  舷側装甲が203mm、283mm砲が4門、速度が23ktぐらい
★:ドイッチュラント級は装甲以外では有利ですね
S:装甲もドイツ艦の28cmなら15,000mで貫徹が狙える
  つまり、2万m以上で戦わないと装甲の優位は北欧海防戦艦には無い
  速度で劣る以上、それを選択する権利は海防戦艦には無い
  つまり中近距離でどっちが先に沈むかという殴り合いだな
  砲数で勝るドイツ艦は射撃精度でも有利だし、船体が大きくて耐久性でも有利だ
★:問題は弩級戦艦相手ですね
S:火力で圧倒的に劣るし、装甲も比較にならない
  連中の装甲を抜くのは、特に舷側装甲はまず常識的な戦闘では無理に近い
☆:1万mぐらいに接近すれば歯が立ちそうですよーっ
S:そして10門とか12門の30サンチ砲弾にズタズタに切り裂かれるわけだね
  お互いの火力が装甲を上回る状況になったら、どっちが先に力尽きるかというチキンゲームになる
  この場合、火力と耐久力で圧倒的に弩級戦艦が勝るので勝ち目は無い
★:となると速度と射程を生かしてアウトレンジに徹するしかないですね
S:そうだね、25〜30kmの距離だったら、まず旧式戦艦は射撃が届かない>主砲の仰角の関係で
  28cm砲の甲板装甲への打撃量も100mm以上になり、この世代の戦艦の甲板を叩くのに充分だ
  これで追い返せれば周辺海域の安全を確保する事は可能だ
☆:勝てないんですか?
S:破壊力の少ない28cmで2万トンもある戦艦を潰すにはどれだけの命中が必要かな?
  20発は当てないと難しいだろう?
  命中率を5%として、400発、つまり66斉射だ、30分以上かかるね
☆:あははーっ、確かに撃破する前に相手が逃げますねーっ
S:そゆことだ
  敵戦艦がそのまま突入を選択した場合は困るけどね
★:ポケット戦艦は逃げながら射撃するか、突撃を受けてたつか、難しい選択を迫られますね
S:戦闘序盤の遠距離射撃で大きな被害を与える事に成功した場合以外は逃げるだろう
★:つまり、どっちがどう選択しても、あまり派手な戦闘にはならないですね
S:そうやって、兵力をちらつかせる事で睨みを利かせるのが軍事力の本来の用法だ
  両者が気合たっぷりでぶつかればポケット戦艦に勝ち目は無い
  有る意味、敵もそんなにやる気は無いだろうという甘い目論見が根底にあるとも言える
  まあ、小海軍相手ならそんなものかもしれないね
☆:不幸だったのは、どんな時でも気合爆発、敢闘精神旺盛な英海軍と戦ってしまった事ですねーっ
S:まあ、兵力に余裕がある英軍は積極的な戦闘行動が可能だからね
  対戦艦戦をもうちょっと考えてみよう
  悪天候や夜戦で、近距離でいきなりの戦闘になったら
  速度を生かして一気に距離を取れば、助かる可能性も有るし、もしくは開き直って泥仕合かな
  泥仕合で負けても、敵にも大きな被害を与えるだろうから
  1万トン艦で2万トンの戦艦を当分つかえなく出来るなら、取引としても許せるだろう
☆:じゃあ、敵としては損な取引ですから、やっぱり積極戦闘は無さそうですねーっ
S:うん、偶発的な近距離戦闘以外では、充分だ

☆:となると、問題は巡洋艦ですねーっ
S:そうだね、大抵の重巡洋艦は30ノット以上の速度を出す
  つまり、ドイッチュラントが射程の優位を生かすのは困難だ
★:所詮1万トンですからね
S:でも、この艦の存在は並みの重巡洋艦をはるかに上回る物が有った
  それだったら、巡洋艦を建造するよりも総合的には美味しいと言える

S:そして弱みもそこにあった
  戦艦的な重要性を持つので、敵としては巡洋艦で始末できたら美味しい
★:でも、それは戦艦とポケ戦の関係が適用出来ませんか?
S:戦術的にはね
  でも政治的にはどうかな?
☆:そっかー、巡洋艦で追い払えたら政治的にポイントが大きいですよねーっ
  それに巡洋艦の数はポケット戦艦よりも多いですしーっ
S:それにポケット戦艦で巡洋艦と戦ったら負ける可能性が有る
★:負けるんですか?
S:まずはこれを見て欲しい
  重巡洋艦の20cm砲とドイッチュラントの28cm砲の威力をグラフにしてみた

  

S:左の数値が対舷側、右が対甲板だ
  ポケット戦艦の舷側装甲は60ないし80mmだから
  20km以上でも重巡洋艦に打ち抜かれるのが判ると思う
☆:ポケット戦艦の火力なら25,000mでも殆どの重巡洋艦を撃ちぬけますよーっ
S:じゃあ、コレ、落角から算出した舷側への直撃発生確率だ
  20とか25kmで舷側に当たるかな?

  

☆:どっちも大して舷側に当たりませんーっ
★:甲板貫徹を狙ったらどうでしょう?
S:ポケット戦艦の甲板装甲は40〜45mmだ
★:2万mを越えると20cmに抜かれる可能性が在りますね

  
  

S:一般的な重巡洋艦の防御とポケット戦艦の防御をそれぞれの下限としてグラフを切ってみた
  どっちらの大砲も同じぐらいの距離で敵艦をぶち抜くのが判るね
★:つまり攻防性能は対等と言う事になりますね
S:だとしたら速度の速い重巡洋艦の方が有利だな
  砲の数も多いから命中弾数でも勝ると思う
  最大射程では劣るけど、無茶苦茶な距離で撃って当たるとも思えない
  つまりポケット戦艦は重巡洋艦で始末できる存在でしか無い
☆:でも各国は恐れたんですよね?
S:火力に応じた防御力を持っていると『自分達の常識』で判断したんだろうね
  そんな事は出来ないっていう『建造技術の常識』は
  『ドイツだから出来るかもしれない』という『思い込みと想像』で打ち消されてしまった
  そういった意味では先端技術を惜しみなく投入したドイッチュラント級は
  その技術が『ありもしない高性能』を想像させることに成功させたと言っても良い
☆:うっわー、張子の虎ーっ
S:まあ、軍事力は『そう思わせる事』が大事なんだし、これはコレで中々大した事だぞ
☆:でも、結局、1万トンは1万トンって事なんですね?
S:そうだね
  結局、本気で突っ込んでくる連中を相手にする事を考えていない
  本気で使うつもりの無い張子だったのだね
  そして、ドイツにとってはそれでも良かったんだろう

★:でも、ドイツはこのクラスを大量建造するつもりだったのですよね?
S:それには注意が必要だ
  まず、当初はベルサイユ条約体制で、既存の旧式戦艦の代替として建造された分
  これは6隻の既存超旧式戦艦の置き換えだ
  最初に言ったように、バルト海作戦を前提とした使い勝手の良い戦力という面が強い
  フランスが新型戦艦の建造を開始した事で、この方針は崩れていくんだが
★:崩れるんですか?
S:高速で地の利を得ていた場合、沿岸の防衛からバルト海の制海権まで安心して確保できるよね
  ところが、フランスの新型戦艦は高速だから、出会ったら負けるし逃げる事も出来ない
  対抗するには?
☆:勝てるだけの性能を与えるか
  もしくは逃げられる速度ですか?
S:ポケット戦艦にはどっちも無いよね
  だからドイツは一層強力な新型戦艦の建造にスイッチするしかなかった
☆:でも、Z計画では、また何隻も造るつもりだったんですよね?
S:他に強力な戦艦を沢山造るつもりだったでしょ
  強力な戦艦は、ポケ戦の任務も受け持つ事が可能だ
  だけど、それは牛刀で鳥を裂くような物で、一種の第二線兵力として使うには勿体無い
  普通の国は二線級に、旧式戦艦を当てたり、もしくは巡洋艦を投入している
★:ドイツには、そういった二級戦力の蓄積が無かったんですね
S:保有戦艦が第一次大戦中に実質的に戦力外として岸壁に係留して宿泊施設になっていた代物だからね
  整備して動かしても、戦力は足りないし、運用に手間はかかるし、良い事なしだ
  だからポケット戦艦で置き換えしようとしたんだが
  30年代初期のドイツでは、この弱対戦艦は、本来の弱体な二級戦力としての側面と
  国家の名代としての最強艦という側面の二つがあったんだ
  だから、他国の新型艦に一定の対応をするための、つまり一級艦としての性格も一応は必要とされていた
★:一級艦としての役割を、より強力な艦に担わせるとしても
  ドイツの置かれた条件から、二級戦力としての
  言わば現実的な戦力としてのポケ戦の必要性は消えていなかったと?
S:そうだね、言い換えるなら、一種の巡洋艦と見ても良いだろう
  本編で言ったように、重巡は特殊な条件を持った日米にとってだけ意味のある艦だったよね
  ドイツにとって必要な強力な巡洋艦は、もしかするとこんなシロモノだったのかもしれない
☆:一次大戦前の装甲巡洋艦ですねーっ


たいとる
第2章
第4章