米本土爆撃の日


 これは、以前紹介した絵本「戦闘機」の一コマにある、日本軍機による米本土爆撃の図である。大東亜戦争のあらゆる期間を通して、かような光景を、ついぞ帝国日本は作り得なかった事は、周知の事実である。
 しかし、当時の日本人が、米本土空襲は絵空事と思っていたかと云えば、そうではない。「日の出」昭和18年6月号(1943年)に、そのものズバリ<米本土爆撃の日>と云う記事が掲載されているのである。寄稿者は、長谷川正道陸軍少将である。

 以下にその全文を紹介する。青文字が記事、黒文字は主筆の見解すなわち例の与太である。仮名遣いは地名等を除き、現代かな使いに改変した。原文は縦書きであるため、数字は漢字を用いているのだが、横書きにすると読みづらいので、一部を除きアラビア数字に改変した。
 また、読みやすさを考慮して、句点、改行、文字の強調を施してあるので、学術論文に使おうと云う方は、そのままコピーすると恥をかきます(笑)。

 米本土は我が爆撃圏内

 米本土に鉄槌を加うることの困難は、ただ太平洋の幅という距離の問題だけである。しかしてこの距離の問題も、いまや偉大なる飛行機の進歩の前には、もはや問題でなくなった。
 わが国においてはすでにこの問題は技術的に解決し、盟邦独・伊もまた米本土空襲の準備を整えつつあり、日・独・伊相呼応して、米本土空襲の日は必ずしもそう遠くない」
 と陸軍軍務局長 佐藤賢了少将は、去る4月14日陸軍省で開催された、第二回陸軍技術研究会の席上で喝破し、更に
 「私のいう米本土への鉄槌とは、慢性的、免疫性的、不徹底な空襲を報復的に交換するのではなく、航空作戦に加うるに、あらゆる強力な他の手段をもってし、一度これを開始せば、一挙に敵国の戦意を破砕し…」
 と声明し、敵米国の心胆を寒からしめた。

 自国の航空戦力に満々たる自信をいだいて、自ら戦争挑発者となった米国は、いまや太平、大西両洋のに方面よりする挟撃爆撃の脅威に曝され、今更の如く狼狽しつつある。

 試みに地図をひろげて、わが国から米本土への距離を測ってみれば、東京−サンフランシスコ間7,250キロ、同じくシヤトル間6,810キロ、米国が太平洋の前哨基地として死守している、ミッドウエー島へは4,000キロ、大東亜戦争の緒戦において、わが猛攻に一たまりもなく潰滅した、ハワイの真珠湾へは約6,200キロで、これ等の距離からみると、なるほど太平洋の幅は非常に広い。
 しかし、いまやわが第一線基地は、すでに北はアリューシャン方面において、ダッチハーバーに近き鳴神島あるいは熱田島に進出し、西南太平洋方面においては既に大鳥島を席巻し、更に○○諸島を確保して、米本土への距離はいちじるしく短縮されている。


 わが占領下にある、大鳥島−サンフランシスコ間6,550キロ、鳴神島−サンフランシスコ間は僅かに4,240キロである。従ってこれらを基地として、米本土を空襲することは困難ではない。更に世界にもっとも優勢を誇る、動く航空基地「航空母艦」を利用すれば、太平洋の幅などはもはや問題ではない。

 わが国の長距離爆撃機が、現在如何なる性能を持っているかということは軍機に属するから、ここに記述する自由をもたないが、いまから5年前の昭和13年5月に、故藤田雄蔵少佐が航研機によって11,600キロの、周回航続距離の世界記録をつくり、更にその翌年の8月には、ニッポン号が札幌−ノーム間3,560キロを一挙に翔破し、両者共になお、着陸後十分の余裕を存していた事実を想起すべきである。航研機にしてもニッポン号にしても、何れも純国産機であって、既に4、5年前にかくの如き優秀なる性能を示していたことを想えば、その後、世界を驚嘆せしめつつある、わが航空技術のすばらしき躍進によって、わが日本が優秀なる長距離爆撃機を持っているかということは、容易に想像し得られるであろう。
 冒頭に談話を引用されている佐藤賢了は、昭和13(1938)年、国会にて国家総動員法の審議中、意見を述べる議員に「黙れ!」と一喝した事で、歴史に名をなした人として有名。

 「日の出」は、新潮社から出ていた大衆雑誌で、この号には<国民奉公雑誌>と銘打たれている。
 左がかった云い方をすれば、この記事は、一般国民に対する当局がついたウソの一つに過ぎないのであるが、どうやって戦争を終結させるのかを明確に出来なかったとされる、当局者が<善良な>一般国民に説いた戦争終結へのプロセスと解釈しても良いと思われるのである。
 つまり、南方進出によって資源を確保し、不敗態勢を確立した後は、米本土空襲によって敵国の戦意を挫き、戦争を終結させて亜細亜の平和を築く、と云うわけである。


 しかし「兵器生活」としては、そのような事はドーデモ良く、この年の5月には熱田島ことアッツ島に米軍上陸、日本守備隊玉砕があり、7月には鳴神島ことキスカ島を放棄すると云う時期に、このような景気の良い記事が出ている、歴史の皮肉を楽しむのである。ちなみに大鳥島はウェーク島の事である。当然ここも後に放棄したんだろう、と手持ちの資料を見ているのだが、占領した時期と、駆逐艦が沈んだ事は書かれていても、いつ放棄したのかが何も書かれていないのであった。駄目だ「一億人の昭和史」(笑)…。

 日本の長距離機云々のくだりも、なんとなく「うんうん」と読み流してしまうところだが、航研機は長距離飛行専用に製作された実験機で、爆弾を積んで敵地まで飛ぶ事を想定していない。ニッポン号は、たしかに九六式陸上攻撃機の同族であるが、当然非武装である。で、航続距離も当然低下する…と思っていたのだが、「世界の傑作機」を見てみると、怖ろしい事に発展型である22型の航続距離は、攻撃装備・過荷重状態で2,522ノーチカルマイル(海里)すなわち4,671キロ!とあるではないか。キスカ発サンフランシスコの片道爆撃はやれない話ではなかった事になる。


 当初の予定では、<わが日本が優秀なる長距離爆撃機を持っている>わけねえじゃなえか、と云う極めてわかりやすい話をするはずだったのだが、そうもいかなくなった(爆笑)。なにしろカタログデータ上では、確かに米本土片道爆撃が出来てしまうのである。

 これは、この記事に載っていた東京−米本土の概念図である。<沙市>がシアトル。<桑港>は云うまでもなくサンフランシスコ。<布哇>はハワイの事である。

 参考として、当時の雑誌に掲載された、地図を掲載しておこう。米本土爆撃の困難さと、わが日本長距離爆撃機の優秀性を実感して欲しい。

雑誌に掲載された爆撃ルートの例


 成層圏飛行に天与の態勢

 わが航空機の威力は、昨年と今年の二回にわたって、陸・海軍技術有功章によって表彰された、多くの発明家の考案から考えても、わが航空機の優秀性がわかる。
 長距離爆撃は、1万メートル以上の高空を利用することが理想的であり、現実の問題としても、亜成層圏の飛行が可能になって来た。そして今日では世界各国とも、成層圏飛行の研究に全力を挙げているが、それの完成も、最早、時間の問題とされている。

 わが国でも、この方面の研究において、列国に決して劣るものではない。いま仮に同じ性能をもつ成層圏爆撃機が、米国および日本を飛び立って、それぞれその相手国を空襲すると仮定すれば、地球の自転の関係から、成層圏では常に一定の西風が吹いているから、日本より飛び立った飛行機の方は、追風を受け、これに反して米機は逆風に難航をつづけるわけで、日本から米国を襲う方がはるかに有利であることは、地形的に見て天与の態勢である。

 わが国にとって、従来不利であったガソリン不足は、今やその懸念は一掃され、さらに過日の佐藤軍務局長の談話にもあるごとく、南方の過剰資源たる植物油、砂糖、米、ゴムまでことごとくを燃料化し、しかもオクタン価の高い航空燃料、あるいは優秀なる航空潤滑油に化せしむる研究が着々と進み、すでにその一部は実用化せられている。
 またわが空軍の使用する爆弾、魚雷等に用いられる爆薬が極めて強力なものであることは、すでに南方戦線において証明されている。これ等のことを思い合せるとき、わが空軍による米本土空襲は、単なる掛声のみでないことがわかるであろう。
 ここまで大言壮語して<風船爆弾>か、と思うのは決して主筆一人ではあるまい…。南方の過剰資源が、なんで本土で不足しとるねん、などと云う愛の無いツッコミは無用である。むしろ、米本土爆撃を終えたわが荒鷲の、帰り道の労苦を何も考えてないな、と云う面を攻撃するのが正しい道と云うものであろう。

 米の燃料化技術を完成させていれば、今の減反問題と燃料問題が解消できたのに…。

 独機の紐育爆撃も必至

 昨今、米国では、独機来襲の風説が盛んで、市民はおびえ、新聞もいろいろと書き立てているが、これは、ドイツのハインケル177型あたりを目標にして恐れているようである。
 現に、英国本土ではB・B・C放送局が、昨年の12月2日に英本土の非常に高いところを飛んで来たと放送している。
 その説明によると、それはドイツの177型爆撃機であって、気密室が完備しているから、1万メートル以上の高度を飛行することができる。自国のハリケーンやスピットファイヤーよりもはるかに上昇力があるから、とても高射砲の弾丸などはとどかない。またその大きさも英国空軍のもっている大型のランカスター爆撃機以上であるから、6トンから8トンくらいの爆弾搭載量があるので、恐らくニューヨークまでの往復が可能であろう。
 やがて東部ソ連方面の戦争が一段落つくと、英本土に対して再び爆撃して来るかも知れんというようなことを、自国民の覚醒を促す意味で宣伝している。

 このハインケル177型は、5百キロの爆弾を積んで、11,264キロという遠距離試験の成績をもっているから、いまフランスの海岸ブレストからニューヨークまでの5,310キロ間を飛ぶとして、往復10,620キロに過ぎないので、ニューヨークの上空を数回旋回して爆弾を落下して、悠々と欧州へ帰還し得るわけで、そのほかに、ドイツには15,000キロの航続力を有するメッサーシュミット264型機があると聞いている。その詳細の性能はわからないけれども、これらのことが米国人の頭に強く響いていることは想像に難くない。

 イタリーにおいてもSM84型は1万メートルに近い航続力をもっているし、改良された同82型は周回コースで12,937キロの記録を4年前に獲得している。その直線飛行では5百キロ爆弾を携行して11,800キロ飛べる。もしも追風であると、それに時速40キロから50キロも増加するから、米本土の空襲も可能である。


 大西洋方面からの米本土空襲ということは、既に実質的に可能であると米国人も信じているし、もしドイツがグリーンランドに進出したならば、その距離が半減される(2,920キロ)から、それを極度に怖れたルーズヴェルトは、「ドイツはグリーンランドを占領する意思あり」などと欺瞞して、無法にも同島を占領したが、要するにこれらも独機の来襲を恐れた結果であろう。

 また戦前ドイツが、南米等に航空路を設けて大型機の輸送を開始しておったが、それには母艦射出機(カタパルト)を利用し、航続距離の延長を計っていた。つまり母艦を航続距離の中継場として、燃料の補給をやったことがある。その頃にはすでに4隻のカタパルト船を使用しておって、ハインケル式のカタパルトは重量22トンの飛行艇を時速百十キロで射出している。またドルニエ26型の重量30トンに近い飛行艇をも射出し得られるから、これを利用するならば、ワシントンでもパナマ運河でも空襲できるわけだ。
 もしわれわれが太平洋方面でも、これらのカタパルト船を使ったり、或は占領した島々を利用して米国西海岸を空襲するならば、ロッキー山を越えて、さらに奥地深くシカゴ辺までも爆弾の贈り物を進呈することができるであろう。
 ここでは盟邦ドイツとイタリアも、米本土爆撃の能力があると云う事を説いている。
 <ハインケル177型>は、ドイツの<失敗作爆撃機>として有名なハインケルHe177の事。。ドイツ人の凝り性を物語る、2基の発動機を結合し、一つのプロペラを廻すと云う機構で名高い。
 4発大型爆撃機なのに急降下爆撃能力が付与されている事と云う、4発大型飛行艇で敵艦への魚雷攻撃を行おうと目論んだ、どこかの国も顔負けの飛行機である。
 記事にある、5百キロ爆弾を搭載して1万キロの飛行記録を持つ、と云う話を、現代の航空機ファン向け書籍・雑誌で、私は読んだ事が無い(笑)。

 <メッサーシュミット264型>は、メッサーシュミットMe264の事である。
 1942年12月初飛行とあるので、当時の最新情報をもとにして、この記事は書かれている事になる。米本土への飛行を目的とした大型爆撃機。航続距離は1万5千キロ。試作のみ。
(この2機については「ミリタリーエアクラフト」2001年6月号の記事を参考にした)


 そしてイタリア!この年にはムッソリーニが失脚してしまうイタリアである。思うに、この時期だけ、イタリアを一等国として見ていたのではないのだろうか…。
<SM84型>の詳細は不明である。
 サボイア・マルケッティSM79(有名な三発爆撃機)の後継機として同名の機体が存在しているが、ものの本によると、SM79改良型として開発されたものが、のちに試作中止になった機体の番号<SM84>を継承した、とあり、この記事で言及されている機体がどれを指しているのか、今となっては解らないのである。

 SM82型:サボイア・マルケッテSM82の事
 イタリアの輸送機/爆撃機。1939年に長距離飛行用に改造したものが、12,935.55キロの周回飛行記録を作り、航研機の記録を破った事で知られる。長命な飛行機で、1960年まで使用されたと云う。
 実用機としての航続距離は3,000キロである(笑)。
 (この2機については、航空ファンイラストレイテッド「第二次大戦イタリア・フランス・ソ連軍用機」の記述に基づく)


 ハインケル大型機用カタパルトについては、「飛行日本」昭和19(1944)年5月号に、主な型式のスペックが掲載されているのだが、最も大型のK11で機体重量は18トンとなっており、またドルニエDo26の全備重量は「航空朝日」昭和18年8月号では20トンとあるから、この記事の<30トン>は少々サバを読んだ数字とみて良い。

 「飛行日本」昭和19(1944)年5月号に掲載された、ハインケルカタパルトの図である。一番下のK11に載っているのはドルニエDo24。長距離爆撃機を射出するのは、やっぱり無茶だと思う…。

 摩天楼崩るる日の混乱

 さて、かくのごとき枢軸国の優秀なる長距離爆撃機によって、ニューヨーク、ワシントン、サンフランシスコ、ロスアンゼルス等の敵大都市が爆撃されたら、その被害はいかに甚大であろうか。
 樹木の一本もない道路を僅かに残して、ぎっしりと建て込んだこれら摩天楼建築の都市は防空上もっとも脆弱である

 筆者は一昨年アメリカに遊んで、ニューヨークやワシントンの大厦高楼が、蝋燭を立てたように何百となく林立している姿を見て、大いに感じた。高きものは丸ビルの十倍から二十倍にも及んでおり、エンパイヤ・ステート・ビルの如きは百十階もあって、エレベーターを三べんも乗り換えなければ、頂上に行けないほどである。

 これらの高層建築は、構造を軽くするために鉄筋も比較的小で、空洞の煉瓦を使用しているから、破壊爆弾に対しては極めて弱く、屋上に落下した爆弾はたちまち幾層もの床を突き抜いてしまう。強力な爆薬を装備した爆弾が道路に落下すれば、巨大な建物にはさまれた、深い谷底のような街路は爆風の逃げ場所がないから、路上のあらゆる物を徹底的に吹き飛ばし破壊してしまい、死傷者は続出する。
 空中で炸裂するいわゆる空中爆雷を、高層建築群の間に投下し、あるいは低空飛行をして爆弾を、これら高層建築の胴っ腹に斜に叩きつければ、細長い建物は中腹からへし折られて、数万の高層生活者は大厦の崩壊とともに、中空高く刎ね飛ばされ、圧死することは必定である。

 無数の窓硝子や、煉瓦の破片はめちゃめちゃに破壊されて、高い空から路上に雨の如く落下すれば、路面は地獄の針の山のようになって、通行不可能になる。日常生活を極度に電力にたよっている市民は、電力の停止によってたちまち生活機能を奪われ、エレベーターの停止で数十階の大ビルディングは全くものの役に立たなくなる。
 まず破壊爆弾で建物を徹底的に破壊した後に、無数の焼夷弾の雨を降らせれば、この時はすでに可燃物が露出しているから、さしもに不燃を誇った鉄筋コンクリート都市も一瞬にして猛火の坩堝となり、焦土と化するであろう。その被害たるや先年のサンフランシスコの大震災に数倍することであろう。

 一体、ニューヨークにいる7百万の人間は、東京の二分の一以内の狭い地域に、縦に折り重なって生活をしている。毎日横に歩く人間よりも、縦に歩いている人間の方が多いくらいに幾千幾万のエレベーターによる昇降者が稠密しているから、空襲時における混雑は想像にあまりがある。
 ニューヨークは一つの島であり、それを連ねる橋が爆撃されたならば、一層の混乱がそこに巻き起るし、有名なサンフランシスコのベー橋、或いはゴールデン・ゲート橋の如き、長さ十キロから13キロにもわたる長い橋が、まん中からポキッと折られた時の混雑さは、考えてみても痛快至極である


 筆者はベルリンにおって、ドイツ飛行機の優秀性を目撃して驚嘆したが、その後フランス、イギリスに行って見て、あまりにも防空施設の完備しているのに目を瞠ったが、これはいずれもバリー市民やロンドン市民が、ドイツ空軍の爆撃を極度に怖れた結果であるが、それにもかかわらずロンドンの如き8百回にあまる大空襲を食い、廃墟にも等しき惨状を呈しているのである。
 しかるに米国人は、かかる経験がないのみならず、傲慢な彼等は米大陸に、他民族の嘴を容れることを許さないという、モンロー主義の観念に自惚れ根性を発揮して、何事も世界一をもって任ずる自大性が、米本土には外国空軍の来襲は、絶対に不可能だと信じ込ませ、ただ自己の自由を追い贅沢と虚栄の生活に憧れ、その日その日の享楽生活をなしつつある国民である。
 あのニューヨークやワシントンの、夕景のラッシュアワーの雑踏は、身動きも出来ないくらいの混雑を呈しているが、それに爆弾が一発見舞ったら、死屍山積し、その狼狽は想像にあまるのである。

 今日、東西両洋からの空襲に脅えて、農民の草刈籠をドイツの落下傘部隊の降下と勘違いして、警官まで出動して大騒ぎを演じたり、例のH・G・ウェルズの、火星人の地球来襲の荒唐無稽な放送劇を聞いてさえ、あわてて怪我人を出すほどの無智無統制な狂騒性を発揮する国民でもあるから、空襲下における混乱ぶりは言語に絶するものがある。やがて米国市民はロンドンのそれにも等しき爆撃の惨状を、わが身の上に思いをいたすであろう。
 今回のネタのキモである。2001年9月のニューヨーク世界貿易センタービルの崩壊は、民間大型航空機による体当たりと云う、誰もが予想だに出来なかった方法とともに、世間の記憶に残るものであるが、それに先立つ事58年前、すでにわが大日本帝国は、その惨状をここまで克明に記述するだけの想像力を確保していたのである。その後の展開を見るにつけ、やらなくて良かった、と胸をなで下ろすのは主筆だけではあるまい。痛快至極じゃあ済まない事も、世間にはあるのである。

 大爆撃で干上がる生産力

 米本土の西海岸には、有名な飛行機工場が蝟集している。また石油の井戸櫓が群立しており、大きな船渠が建ち並んでいる。要するに、米国の西海岸は大切な軍需産業地帯である。飛行機製作所について、その有名なもの2、3を挙げてみると、
 シヤトル市 ボーイング。ロサンゼルス市 ダグラス、ロツクヒード、ノースロツプ、ノースアメリカン、バルデイー。サンチヤゴ市 ビーチ、コンソリデーデツド。
 これらの工場が、いましきりと大型爆撃機の生産に馬力をかけ、日本空襲を夢見ている。その刹那に、逆にこちらからこれを爆撃したならば、実に痛快きわまる一大快挙であろう。
 筆者は一昨年親しくこれらの地を訪い、自動車でその工場の外郭をぐるぐる視て廻ったが、既に欧州には戦端が開かれており、アメリカまた日本に対して屑鉄の輸出を抑止し、あるいは日本向け飛行機ガソリンの輸出を阻止していた際であったから、「いまに見ろ、日米開戦の暁にはこれらの工場は木ッ端微塵に粉砕してくれるぞ」と睨みつけて通ったことを、いまも思い浮かべるのである。

 殊にロスアンゼルスその他にある、あの石油櫓の林立、その油が各国に輸出されているのであるが、これらをも破壊して、燃料の枯渇を来たせしめ、したがって飛行機の航行に差支えさせれば一挙両得の快挙である。

 また造船所は、ロスアンゼルスのすぐ南にあるサンチヤゴ軍港、その他の造船所へもついでに爆弾をお見舞い申せば、昨今日本のために傷めつけられた、大破、中破の数多き修理船が、真珠湾軍港におけると同様に、ドック内で腹を出して引っくりかえることであろう。

 字が小さくなって申し訳ないが、「科学朝日」昭和18(1943)年1月号に掲載された、<アメリカ航空機工場並ニ発動機工場所在地>の地図である。長谷川少将が、どのあたりで工場を睨んだのか、想像してみて欲しい。

 怠るな日本本土の防衛陣

 だがここで考えなばならぬことは、われの米本土爆撃が可能であると同様に、敵もまた、わが本土空襲は可能で、常にその機会を虎視眈々と狙っているのである。しかも彼等は、敗戦による国内与論の憤懣をおさえ、来年の大統領四選をねらうルーズベルトの人気挽回策からも、国民を狂喜させる場当たりの芝居を打たねばならぬ破目に陥っている。が、現在彼等の為し得るところは潜水艦と飛行機による攻撃以外には作戦の術策がない。

 彼等の遠距離爆撃機は自慢の一つであり、他国を凌駕するものと自惚れている。たとえばダグラスB19超重爆撃機はその航続距離は12,200キロもあるといわれ、遠距離爆撃に対しては相当の経験をもっているし、ミツドウエーなり、アリユーシヤン方面からする時は、優にわが本土を空襲して往復飛行をなし得るのであるから、われわれはその場合安閑としているわけには行かない。

 今日では、高度1万から1万2、3千の高空を飛来する敵機を、地上から観測することは不可能で、聴音器も高射砲も充分に用をなさない。それに代り、ラジオ・ロケーターが出現し、また高射砲も1万メートル以上の高度でも、確実に敵機を撃墜し得るものに改良された。すると敵は、爆撃機ですら630キロにもおよぶ高速度の新型を作る。従ってわが戦闘機は、時速700キロ以上を絶対必要とするに至り、更に胴体を装甲せるため機関銃は無効となり、その結果20ミリ或いは30ミリ程度の機関砲を採用して、敵機のタンクを貫通させるが、タンクは穿孔しても忽ち閉塞して燃料の漏洩を防止する。
 エンジンを射ち抜かれ火達磨になって落ちていた飛行機が、今は特殊なポンプに用いてその火を消し止めるように工夫する。また射ち抜かれたタンクを数個に区分しておき、駄目になったものを棄てる。四発の飛行機ならば、四つのうち三つまで発動機を破壊されても飛行し得る性能に改良する。
 要するに、われが猛威を示せば、敵もこれを避けるため、工夫をこらすのである。そこに技術と技術の戦闘がある。


 一方、飛行機の消耗に備えて、生産力の戦いがある。もし産業人が自分の責任の重大さを感じ、さらに奮起して、今仮に二倍の生産力を発揮したならば、即ち敵の生産力が半減したと同じ結果になるのである。

 わが当局者は「敵機の来襲は必至である」ということを国民に常に警告している。このことは国民も常に覚悟して、防空の用意をおこたってはならない。殊に帝都を護る市民は、時至れば敢然と、その猛火の中に飛び込んで、防火につとめるだけの意気込みがなければならぬ。その決意だにあれば、帝都はもちろん、各都市の防衛も十分に成し遂げ得られる。と同時に、軍官民一致、献身的国家への奉仕によって敵の企図を完全に挫折せしむることを希望する。
 かくすれば、やがて洋々たる東洋の平和境が現出し、皇威は四海に輝くことであろう。(おわり)
 <潜水艦と飛行機による攻撃>まさにその通りで、かつそれによって、大日本帝国の命運が定まってしまったところが当時の悲劇、現代の喜劇としか云いようがない。
 ここまで景気の良い話を展開しておいて、一気に現実に戻す強引さは、すでに神業の領域に入っていると云ってよいだろう。

 飛行機の増産云々のくだりも怪しい。はたして日本の飛行機生産が二倍になった時、本当に米国の生産力は半減するのだろうか?
 仮に日本2、米国が3の生産力を持つとする。日本の生産が倍になっても、日本4、米国3であり、決して米国1.5では無い(笑)。飛行機の生産が倍になっても、搭乗員と飛行機その他を戦地に運ぶ輸送力が倍にならなければ、戦力は倍になることは無い。商品在庫が二倍になっても、売上が横這いであれば、会社の利益を圧迫するだけである。売上が倍になっても代金の回収がともなわなければ、黒字倒産である。
 一般国民向けの叱咤激励であるから、これでも良いのだが、万が一、国家レベルでこう云う思考をしていると、帝国の先行きは非常に暗い…。


 民間レベルの防空については、それで一つのネタになる大きさであるから、ここでは触れない。

 <東洋の平和境>が、米国の核戦力によって現出し、皇威は四海に輝かなかった事だけが、歴史的事実と云うやつなのである。