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砲兵戦術講授録 原則之部

第二篇 砲兵戦闘の共通原則

砲兵戦闘原則に関し 講述すへき事項は広汎なると雖 之を概別するときは 各種戦闘に共通すへき戦闘一般の原則と 戦闘の種類及特質に依りて特色を有する特別の原則とに区分することを得へく 前者は純然たる基礎的事項にして後者は稍々応用的に類するも未た基礎的原則の範囲を超えさるものにして 真の応用練磨は之を砲兵応用戦術及戦術各班に於て実施すへき一般戦術の範囲に譲らんとす

第一章 砲兵の特性

各種砲兵の特性を熟知するは 砲兵用法の正鵠を期待し得へき必須の手段にして 砲兵戦術研究の第一階梯なりと云ふへし

國軍砲兵全般の編制装備は 世界大戦に直接参加せる列強に比し立遅れの状態にあるは周知の事実なり 然れとも列強砲兵に比し著しき隔絶あるに刺激せられ装備の改善に多大の努力を払ひつつあるも 国家財政の状況は所望の編制装備に達するに時日を要するは自然の理なり

砲兵の特性は 各種砲兵の編制装備に基きて論せらるるへく 各々一長一短を有し 同一砲種と雖も科学の異常なる発達に伴ひ今日の最良武器は明日の旧式と堕し 而かも戦時必要なる数量を一朝にして装備するか如きは国家の財政上寧ろ空想に属するか故に 吾人は連続不断の研究に依り現在装備の欠点を補ふ為に同種若は類似の砲兵と雖も 我國軍の砲兵と某外国軍の砲兵との間には其特性上相当の差異あるは各国軍の特質に基くものにして 砲兵の特性研究上留意を要するところなり

第一節 野戦砲兵

野砲兵(野砲、軽榴)騎砲兵(騎砲)山砲兵(山砲)野戦重砲兵(十五榴)及独立野戦重砲兵(十加)を包括す

第一款 野砲兵及騎砲兵
  1. 一、野砲

    野砲の特性は 軽捷、射撃速度の大、弾道の低伸、射距離の長大、方向移動の容易なるに存し 暴露せるか若は掩護不十分なる各種活目標を殺傷し 或は障害物を破壊するに適し 改造三八式野砲()の先鋭弾を以てする最大射程は一〇、○○○米以上に及ひ 新たに制定せられたる野砲は其最大射程著しく増大し喜ふへき現象なるも 兵器技術進歩の状態と予想作戦地の地形に鑑み其用法に就ては大に慎重なる考慮を要す

    今主として現制式野砲に就きて其運動性及射撃速度を示せは左の如し

    運動性
    三八式野砲に於ては 路幅二米五〇曲半径六米以上(路幅及曲半径の更に減少せる局地に於ては歩度を緩にし若は輓馬を脱駕して臂力に依り或は前後車を離脱して通過す) 傾斜六分の一以下(短小なる直線部に於ては四分の一)の道路の通過を許すも 九〇式野砲に在りては 傾斜八分の一に於て路面良好なるも四駢を要することあり 例へは長さ三百米平均七分の一傾斜一部五分の一長さ三十米にて一時間を要せしことあり 輓馬の疲労三八式野砲に比し大なるは否むへからす 各種野砲は水深一米流速一米迄の水流は車渉し得へく歩度は常歩(八六米)の外稍々長距離の連続速歩(一九〇米及二二〇米)に堪え且短時間の駈歩(三一〇米)を行ひ得 秋季比較的良好なる道路上に於て三八式改造野砲()を以て強行及急行軍を実施したる野戦砲兵学校の実験に依れは 戦時重量を以て一時間三十分の持続速歩を行ひ、二十四時間内に於て約三十里を行軍し昼間約十二時間夜間約四時間三十分の行軍に於て約二十五里を突破し、日中の行軍に於て最大十八里、平均十五里の連続行軍の成績を示しあり
    射撃速度
    一門一分間二十発を最大射撃速度とし 火砲の保存上 一門一分間に於ける速度は 二分間以下に於て十発 五分間以下に於て六発 十五分以下に於て四発とし 一中隊として一時間の発射弾数の標準としての射撃速度は四〇〇乃至四八〇発にして 射撃継続に際しては一門一分間の射撃速度は二発以下とするを要す

    新式野砲に在りては其射撃速度及方向射界偉大にして射撃精度も亦優良なるも 全重量二〇〇〇瓩特に其放列車砲の重量大なるを以て 運動性に於ては相当遜色あるを免れず

  2. 二、軽榴

    師団砲兵として十糎半榴弾砲の必要なるは欧州戦後に於ける世界兵学界の容認せしところにして 之を野砲に比するに射撃精度、最大射距離に於ては多少の遜色を免れさるも弾道の湾曲性により野砲の企及し難き遮蔽せるか若は掩護十分なる目標を射撃得へき特色を有し為に 歩兵直接協同を任務とする師団砲兵に在りては 其最大射程一〇、○○○米以上其全備重量約二○○○瓩なるを以て 其運動性は新式野砲と大差なく 発射速度は一門及一中隊の短時間及長時間に於ける射撃速度は前掲野砲のものに比し約二分の一と見做し得

    左に軽榴弾砲の生れ来りたる由来を説明せんとす

    師団砲兵の戦時編制は会戦に於て普通の任務達成に必要なる最小限のものとなし 必要の場合に於ては常に他の砲兵(総予備砲兵、他軍又は軍内他師団砲兵)を以て増加せらるるは列強の採用する所にして 一面砲兵の経済的編制なり

    師団は常に歩砲協同戦闘の単位なるを以て 師団は其戦闘区域内に於て他兵団の戦闘力の参与を待たすして自ら解決するの能力を有し 特に歩砲協同に最も適当なる砲兵を有せさるへからす

    我か国の如き軍団編制に非る軍に於ては 軍団砲兵の負担すへき対砲兵戦任務の一部を師団砲兵か負担せさるへからす 之れ軍の砲兵は遠戦を負担するか故に直に列強の軍団砲兵の任務(対砲兵戦)の全部を担任する能はされはなり

    之か為師団砲兵は師団其本来の任務達成上左の砲兵を必要とす

    1. (イ)歩兵用砲兵

      随伴砲兵の問題は日露戦役当時より存在せり

      現時及将来に於ては敵の自動火器及有力なる砲兵火の下に於て野砲を以てする行動をゆるさす 殊に毒瓦斯に対しては馬は全く防護の方法なし 又現野砲の如き大なる射程は其の必要なく而かも此の如き平射は不適当なるを以て 随伴砲兵としての野砲は戦術上、技術上、経済的用法上共に不適当なり

      野砲に比すれは山砲を優れりとするも 駄馬を有する山砲兵は目標大、射程過大、弾薬補充困難なるを以て 他に方法なきときの流用に過きす

      現時希望するの歩兵用砲兵は 次の性能を具備するものなるを要す

      運動性
      真に歩兵の到る処に追随するを要す
      特に弾薬に於ては然り 之か為には是非装軌車を要す
      射撃上の性能
      口径五〜六糎、榴弾()及榴撒弾(一部)を有し 主として敵の機関銃 時としては近戦砲兵に対し 瞬間的に火制地帯を成形し得る為の発射速度と射面の移動性とを要す
      友軍超過射撃の容易なる為擲射とす 最も有効なる射程二千〜二千五百米最大射程四千米
      此等の性能は対戦車戦に適す

      歩兵用砲兵の必要兵力

      師団の歩兵を四個連隊とし 第一線三個連隊とし最小限歩兵各連隊に一中隊(四門)を配属するを要す 而して中隊は適宜小隊毎に分割し得るを要す

    2. (ロ)歩兵直接支援に任ずる砲兵

      歩兵直前の障害を排除する砲兵にして 野砲及軽榴弾砲は之に属す

    3. (ハ)破壊威力を有する砲兵

      砲兵か完全なる破壊を行ふは特殊の状況にして 一般に制圧を主とす 制圧も亦物質的効果に依る制圧よりも精神的効果に依る制圧を重んし 然るに師団戦闘区域内に於て 野戦築城によりて掩護せられある敵に対しては 其掩護を剥脱するにあらされは有利に精神的威力を発揚する能はす 此意義に於て表面効力を主とし侵徹効力をも有する弾丸を要す 此の目的と同時に小口径弾丸の炸裂音を捕ふて精神的威力増大の為に中口径の弾丸を必要とす 最近戦役の実験の結果十五榴は必要にして十分なる威力を有するものと認めたり

    4. (ニ)対砲兵戦用砲兵

      野砲、軽榴弾砲及十五榴を有すれは 師団戦闘区域に於ける此任務を達成し得るを以て 特種の火砲を要せす

    5. (ホ)高射砲兵

      口径を増大したる平射高射両用なるを要す 此種火砲は又対戦車用に適す

    以上の各種火砲は師団として装備しあるを可とす

    師団に十五榴を有せさるは任務達成上不自由なり 然れとも軽榴弾砲の口径を増加するは直接支援の為に不適当なるのみならす破壊威力も亦十分ならさるの不利あり 過去に於て十二榴を採用し失敗せしことあり

    之か為野戦砲兵隊は 野砲と同様の任務に服すへき軽榴弾砲を増加するを要す

    蓋し火器威力の増大に対し戦場に於ける遮蔽法の発達は平射弾道のみを以ては任務の達成に不十分なるを以て 擲射に依り所望の落角を求むるを要す此解決法二あり

    1. 野砲に各種装薬を用ひて落角を大にする法は射程上に於て制限を受くるを以て到る所落角を自由に求むる能はす

    2. 榴弾砲を以て随所に所望の落角を求む
      但榴弾砲に於ては野砲と同様の最大射程を望む能はす若野砲同様の射程とせは発射速度小となり弾薬補充困難となり且不経済となる

    3. 野砲に於ても大距離に於ては相当大なる落角を求むること困難ならす

    故に二種の火砲を併用し 長短相補はしむるを要するを以て 軽榴弾砲増加の必要は絶対なり

    野砲及軽榴弾砲の比率は 射程を重んせは野砲を多くし 擲射弾道を主となせは軽榴弾砲を多くするを要す

    此条件は 予想作戦地の地形、作戦指導の方針及戦闘方法とに依り決定すへきものなるも 全威力の見地上師団砲兵は三分の一又は二分の一の軽榴弾砲を有することとするを適当とす 此の関係は山砲師団に於ても同様なりとす

    而して師団砲兵の九中隊を減するは 発射速度小なるへき軽榴を以て代ふることとなり 歩砲協同上適当ならさるなり

    単位の偏合法として 野砲大隊と軽榴弾砲大隊とするものと 大隊を野砲及軽榴弾砲混成とするものとの二法あり

    大隊は戦術単位なる見地より論すれは 大隊に両種砲兵を混成し射程と落角とを相補ふ如く使用するを有利とす、斯くするも教育上補充上何等の支障なし

    弾薬補充上には若干の不便を生するも 将来戦に於ては弾薬補充機関を統一して必要なる方向に必要なる弾薬を機を失せす補給するの処置を要するを以て 此の不便は消滅し得るへし

    砲兵力大にして通常一方面の戦闘に任する砲兵群長の下に野砲及軽榴の大隊数個を配属し得るときは単一大隊とするも不可なきも 大隊のみにて一方面の戦闘に任する場合多しとせは軍隊区分に方り直に建制の分割を避くる為混成とするを可とす

  3. 三、騎砲

    其特性は野砲に類似せるも 其運動性は野砲に比し更に軽快にして 其行進速度は常歩一〇〇米駈歩三二〇米の外三八式野砲に等し

第二款 山砲兵

山砲は野砲に比し 射距離短小にして精度亦劣る(公算躱避野砲に比し約一倍半)も 弾道比較的湾曲し且各種の地形に於ける行動容易にして 而も地形の利用便なるを特性とす 即ち地形に依り繋駕(一馬若は二馬)若は駄載(六馬分載)を行ひ或は半駄載(砲身若は砲身砲架を駄載)の採択容易にして 苟くも騎行を許す地形に於ては其通過容易なるのみならす 要すれは更に一部若は全部を分解して臂力運搬をも行ふことを得へく 其運動は頗る軽易なり

特性上述の如くなるを以て 山砲兵は地形地物を利用し或は交通壕内を通過し若は夜間隠密なる推進の容易なる等の利便に依り 第一線歩兵は近く行動せしめ 又他の砲兵の使用を許ささるか 若は其使用不可能なる 山地沼沢湿潤地乃至は市街戦、渡河戦、上陸戦等に使用するに適す

其運動性は 常歩(八六米)を普通とするも 要すれは短距離の速歩(一四五米)を行ひ 従て一時間の速度は常歩五粁常歩速歩を混用せは六粁にして 一馬繋駕に於ても路幅一米五〇、傾斜六分の一(短小なる直線部は四分の一)の運動を許し 二馬繋駕半駄載に於ては更に其能力を増大し 又曲半径は六米、水深四〇糎まての徒渉を許し 駄載運搬に在りては苟くも駄馬の通過し得るところを容易に通過し得しめ(路幅一米傾斜二分の一乃至四分の一) 更に臂力運搬の利便あるを以て 歩兵の行動に追随し得へく 一日の常歩行軍行程は二〇乃至二五粁なるも 急行軍に於ては四十乃至五十粁に及ひ 其分解搬送に於ては一個の重量一〇〇瓩内外にして 二名を以て之を担ひ千米乃至二千米の通過を許し 一名を以てするも約三百米の通過容易なりとす

射撃速度は野砲に同し

第三款 野戦重砲兵

四年式十五糎榴弾砲を以て装備し 其運動性及射撃性能は共に野砲に比し小なるも 弾道湾曲(装薬数号を有す)且高低射界の選択自在にして弾丸の威力強大なるを特色とし 従て此砲兵は野、山砲の死角内に在る目標又は少々堅固なる術工物を射撃し 若は野山砲と併用して特に精神的効果を拡大するに適す 現用四年式十五榴は最大射程約八、○○○米にして 之か射程増加の為には僅少なる加修により少くも一〇、○○○米程度には容易に達せしめ得るへし

十五榴は 砲身車及砲架車の両区分を以て運動し 重量は両車輌共約二○○○瓩にして 其運動性は三八式野砲に比し大なる遜色なしと雖 而かも重量の増加(野砲に比し約一割増)よりも寧ろ前後車の重量比は約三分の一(標準比は三分の二乃至五分の三)にして 為に回転及不整地起伏地の通過等に際して運動の制限を来すもの多く 又放列砲車の移動は野砲に比し困難にして 其速度は常歩(八六米)を普通とし 要すれは速歩(二一〇米及一八〇米)を利用するも 駈歩(三一〇米)を用ふるは特殊の場合に限る

実用上一門一分間に於ける射撃速度は 二分間以下に於ては三発、五分間以下に於ては二発、十五分間以下に於ては一発に制限し 一中隊の一時間連続射撃の為の弾数の標準は 之を一二〇乃至一六○発とし 更に長時間の連続射撃を行ふ為には一門一分間の平均射撃速度は○・五発以下となる

第四款 独立野戦重砲兵

十四年式十糎半加濃を以て装備し 其特性は射距離の長大(最大射程約一三、○○○米)、弾道の低伸、長距離運動の迅速、方向移動の容易なるに存し 従て本砲兵は 他の砲兵の企及し能はさる遠距離の対砲兵戦其他の遠戦を行はしむるに好適す

本砲兵材料は其全備重量約三千五○○瓩にして 之に五瓲牽引自動車を附するときは既に其全重量は八瓲余に及ひ 為に橋梁等の通過に際しては至大の注意を要するも 其他の局地に於ては 牽引自動車部隊に対しては傾斜地(防滑具を装せさる時五分の一以下)の外野砲に比し絶大なる差異を認めす 寧ろ泥濘地及不整地の通過に於て容易なるも 自動貨車部隊(時速最大十八粁普通十二粁)は路盤の堅硬なるを絶対の条件とし 為に天候及地形等に依り大なる支障を受くることあるのみならす 乗用車(時速普通二十乃至三十粁)の如きは低速度を以て長時間に亙り牽引車(時速最大九粁普通六乃至七粁)と行動を共にすること至難にして 状況之を許せは別路を経て前進せしめ 若は前衛と本隊との距離 或は本隊と大行李間の距離等を利用して逐次躍進せしめ 然らすんは高速度車輌は機関の運転を停止し砲車等の後方に附加牽引せしめて行進せしむること必要なり

牽引自動車を標準とする一時間の行軍速度は四乃至八粁にして 一日(実働時間六乃至八時間)の行軍行程は四十乃至五十粁を標準とするも 状況更に急速なる前進を要する一日(実働時間十五時間)の強行軍に於ては約百粁 両三日の連続行軍に於ては一日(実働時間十時間)平均六十乃至七十粁の行程を要求し得へし

車渉は水深三十糎以下なるを要し 射撃速度の標準は概ね野砲の二分の一と見倣して可なり

五瓲牽引自動車の速度は不十分なるは運用上不利不便を感得せられあるところにして 之か為更に高速度の牽引自動車を装備せられんとするの傾向にして 該車輌を以てせは最大時速十四粁を得へし

第二節 攻城重砲兵

攻城重砲兵は鋼製十五臼、四五式二十四榴、四五式十五加及三八式十加を有する各部隊を包括し 其他作戦上の要求に応しては更に特殊の装備をも行ふことあるへく 此等攻城重砲兵の特性は其強大なる威力に存し其任務は遠き過去に於ては攻城即ち要塞攻撃をのみ事とせしも 爾後野戦に於ける堅固なる陣地攻撃にも之を使用することとなり 今や攻城重砲兵なる名称は単に野戦に於ける砲兵威力の期待の頗る軽易なりし旧時代よりの歴史的継続呼称として存在するものにして 之を現時及将来戦に必要なる砲兵力及砲兵威力より考察するときは此種砲兵の野戦に於ける任務も亦頗る重且大にして 寧ろ威力重砲兵と改称せは其実態に近似するものとす

此種砲兵の考察上顕著なる特異の件は 其重量及容積共に膨大なる材料の運搬に切望なる自動車を 牽引自動車及兵站自動車隊より一時的に配属を受け 部隊自ら実施するか或は上記部隊若は軽便鉄道部隊等をして実施せしめらるること之なり 而して斯くの如きは経済的の調和も亦素より交咸しあるへしと雖 其主因は全く過去に於ける因習の伝統に職由するものと断せらる

即ち此種砲兵の過去に於ける使命は単に要塞攻撃をのみ目的として専念し 従て陣地占領の為使用し得へき時日は極めて多く 又一度陣地を占領するや長時日に亙りて同一陣地に固着運用して其任務を達成したるの事実に発足せるものにして 爾後兵器は革り戦法は更新し 野戦に於ける砲兵威力の期待絶大となり 急襲及機動の要至大となれるに対し 此種砲兵の装備改善は促進するの要あるものとす

第一款 四五式二十四榴部隊

四五式二十四榴の特性は方向射界広く其移動も亦容易にして且弾道湾曲し特に弾丸威力の強大なるにあり 即ち装匡式火砲の特性として方向射界広く且方向移動の頗る軽易なるは勿論 数種の変装薬を使用し且高低両射界を有し 其一号装薬に於ける最大射程は一〇、○○○米以上に達し其弾量は野山砲弾に比し約三十倍、十五榴弾に比し約六倍の重量を示し 其弾丸威力の絶大なるは何人も容易に想察し得るところにして 此砲兵の適性は堅固なる術工物の破壊並此に隠れる敵を殺傷するに存す

然れとも 斯の如き威力重砲も 其装匡式火砲たる現制材料は備砲作業の為時間を要し 急襲機動の戦法と相容れさるなり故に一門の備砲作業を完成する為の時間を節約し之か展開を迅速ならしめんか為 双輪式火砲の考案、現制材料の改善等の如き問題を包蔵しあり

本材料は 五瓲及十瓲牽引自動車を以て重材料を運搬し 其他の材料は良好なる道路上に於ては自動貨車を用ひ不良なる道路に於ては牽引自動車(被牽引車附)を使用して運搬し 其速度は地形及明暗の度に依り差あるも 毎時牽引自動車に於ては三・五乃至五・五粁自動貨車に於ては一〇乃至一四粁に及ひ通過し得へき道路は最小幅四米(二十四榴の架匡車の最大幅三米四〇を基準とす)最大傾斜六分の一(短距離に於ては四分の一)最小曲半径七米を標準とせは可にして 更に新制式たらんとせる牽引自動車を以てせは 重材料と雖も時速十二粁を得るものとす

現制材料及運搬機関を以てするも 昭和四年一月の実験に依れは 二○○粁の行程(其一部は箱根越の如き山地を有し其他局地に於ける路幅及曲半径の小さるもの傾斜の急峻なるもの並に不良なる橋梁を有せり)に亙り連続五日間の行軍を行ひたる後戦闘に参加して尚余力を存し 而も該行動間自動貨車は軽材料同時輸送に要する車輌数の半数をのみ使用して逐日循環運航せしめたり

射撃速度は一門一分間一発を最大限とし 長時間に亙る四門中隊の連続射撃に於ては毎時平均八〇発(一門は三分間に一発の比)とす

第二款 四五式十五加部隊

四五式十五加は 射距離の長大、弾道の低伸、射撃速度の大なるを特色とし 従って本砲兵は遠距離の対砲兵戦其他の遠戦を行ふに適す

装匡式火砲にして方向射界の広く且方向移動の容易なるは全く前掲の二十四榴と同一にして 其最大射程は約一五、○○○米に達し 其弾量は同一口径の十五榴に比し約十瓩の増加を示し 其運動性及展開に要する時間運搬にに要する材料は概ね二十四榴に等しく 通過し得へき道路は二十四榴に比し最小路幅一米を減し最小曲半径一米を増加せるものとして可なり

火砲の射撃速度は 一門一分間二発を最大限とし 長時間に亙る四門中隊の連続射撃に於ては毎時平均一〇〇発乃至一二〇発(一門は二分間に一発以下の比)とす

四五式十五加の特性以上の如くなるを以て之か改造の結果、展開著しく短時間に行はるるに至り 別に又欧米諸国に見るか如き双輪式の十五加の出現は一大威力の向上を呈せり

第三款 其他
  1. 一、鋼製十五臼

    鋼製十五臼の射程は短小にして 其威力も重砲として遜色なきを得さるところなるも 地形の影響を受くること比較的少なくして随所に之を軽易に使用し得るの特性と 其弾道湾曲性の利用とに於て特色を有し 為に他の威力重砲の活躍を許さす若は其利用を制限せらるるか如き特種の作戦地に於て 之を活用すへき見込大なり

  2. 二、三八式十加

    本火砲の特性上比較的軽易に之を使用し得るも 其威力上一時的用途に可なるに過さるものとす

第三節 高射砲兵

野戦高射砲隊及陣地高射砲隊を有し前者は更に二種に区分せらる

第一款 野戦高射砲隊
  1. 一、運動性を有する野戦高射砲隊

    七糎半高射砲を以て基準火砲とし 四瓲自動貨車を以て之を牽引し 其運動性を活用して戦場制空に任するを以て任務とす

    四瓲自動貨車を以てする時速は 緩速度五粁、常速度一四粁、急速度一八粁にして 縦隊を超越挺進するときは約八粁を以て標準とすへき 連続行軍に於ける一日の行程は約七〇粁を目途とすへく 発射速度大にして神速機敏なる射撃を行ふに適し其有効射界の水平半径は概ね四千米なり

    本火砲の用法上必要なる諸元は左の如し

    放列布置及撤去
    十分乃至十五分
    目標受理より観測終了迄
    十五秒ないし二十五秒

    右十一年式七糎半高射砲は其威力に於て尚不備あるを以て 特に初速の増大するの着意に於て有効射界の水平半径は高度四千米に対して約六千米のものを必要とす 又四瓲自動貨車は道路不良なるか畑地の通過等に際しては多大の支障を呈するを以て 高射砲用六輪自動車を代用せられんとするの状態にして 該車は単車に於ては約四分の一の坂路をも昇り得るの実験値を有す

  2. 二、運動性を有せさる野戦高射砲隊

    其火砲は運動性ある高射砲隊のものに同しきも 装備上運搬機関たる自動車を常備することなく臨機所要に応し之を配属するを本則とし 飛行場若は戦場の後方に於ける防空に任せしむるを本旨とす

  3. 三、野戦照空隊

    通信班及第一分隊(照空燈)第二分隊(照空燈)第三分隊(聴音機)並行李車よりなる

    照空燈は反射鏡の中径九〇糎にして 其行進の時速は緩速度八粁、常速度十八粁、急速度二十四粁を以て標準とし 其有効照射距離は大気の状態、目標の種類特に其光沢等により著しく差あるも 良好なる状態に於て実用距離約六粁とす

    聴測分隊は正規の分搬機関を具有せす 其聴音機は敵飛行機の近接を迅速に予報する為の哨機となし 又敵飛行機の高度、速度及航路を測定する為観測機関と連繋して之を使用し 且照空燈の光車を目標に導く為に利用するものにして 其有効距離は風向、風速並熟練の程度に依り差あるも有効距離約六粁にして角誤差は普通一度乃至一度半と目することを得

第二款 陣地高射砲隊

要地防衛隊に属するものにして 陣地高射砲隊四乃至五隊を統一指揮せしむる為陣地高射砲隊司令部を要す

陣地高射砲隊に於ては 七糎半高射砲の外十糎高射砲を有し 該火砲は前者に比し発射速度小なるも射界大なるを以て 高度及水平距離共に大なる目標に対し射撃を行はしむるに適す

第四節 迫撃砲兵

迫撃砲は敵前至近の距離に威力ある火兵を比較的軽易に搬送し以て一般砲兵材料と併用して其火力を発揚せしむるに適し 敵に近迫を要する為陣地占領及戦闘の遂行上相当の制限を受くることあるへしと雖、弾道著しく湾曲しあるを以て 使用上の便宜多く極めて豊富ならさる砲兵数の欠を補ふ為緊要にして其運用適切なるときは至大の効果を収むることを得へく 之か編制は敢えて平時より必要とせさるところにして 平時の準備たに存せは戦時所要に応し一般砲兵要員を以て其使用を全ふせしむることを得るものとす

第五節 砲兵情報班

砲兵情報班は所属軍の全砲兵の為必要なる情報、測地及気象に関する業務を実施するを以て主要なる任務とし且一般の情報勤務に対し正確なる資料を提供するものにして砲兵情報班に於て標定する各種目標及測地諸元並気象通報等は軍全砲兵の戦闘特に射撃の為重要なる基礎を与ふるものにして其良否は直に全軍砲兵射撃の成果を左右せるものとす

第一款 情報班本部

本部は地上標定隊及音源標定隊に於て得たる情報を蒐集し要すれは之を査覈し且之を所属司令部に報告し又砲兵所要の気象諸元を決定して之を各部隊に通報するものとす

第二款 地上標定隊

地上より認識し得る各種目標特に敵砲兵を探求標定し之に依りて戦場に於ける情報資料を獲得するを以て主要なる任務とし時として戦場一般の監視に任し稀に某砲兵部隊の射撃観測に任することあり

地上標定隊の標定すへき目標は火光若は爆煙等に依りて標定し得る敵砲兵を主とし為に得れは敵の観測所、通信所及陣地要点等を標定するものとし将来の傾向として戦場に現出すへき敵砲兵か無閃光且無煙の装薬を使用する場合に於ては地上標定隊は敵の発火砲兵に対しては火光標定に代ふるに写真標定を以てし且敵の砲兵観測所及陣地要点等の地点標定を行ふものとす

地上標定隊各標定所の間隔は約二粁を標準とし其標定所位置は砲兵測地隊等の決定せる基準点を基礎として自ら之を決定することを得るも状況之を許せは砲兵測地隊をして之を決定せしむるを以て使用機材の精度上勝れりとす又情況に依りて地上標定隊を師団に分属したる場合には先つ各小隊毎に自ら簡易なる方法によりて標定所を決定して目標の一般捜索及概略位置の決定を行ひ爾後時間の余裕を得るに従ひ測地機関と連繋して逐次に標定所位置の精度を増進し次て各小隊の統一を計るものとす

地上標定隊展開の為に要する時間は偵察の為約半日、展開の為(各標定所及測角基準点の決定並各部の通信連絡設備を完成し三小隊の統一使用を基準とせる場合)約一日展開後の標定準備の為、為し得れは半日を以て標準とし其撤収に要する時間は約一日を目途とす

地上標定隊の標定距離は地形に依り差あるも十乃至十五粁にして其精度は情況に依り差あるも昼間に於ては誤差五〇乃至一〇〇米を通常とし良好なる状態に於ては一〇米程度に及へるものを存し夜間に於ては少なくとも一〇〇米内外に及ふを通常とす

第三款 砲兵測地隊

砲兵測地隊は軍の主要若は所要方面に於て砲兵の為に必要なる測地作業を行ひて直接必要なる基礎を与へ又地上標定隊及音源標定隊の為必要なる位置の決定を行ふを以て任とす

基礎測地を行ふには基線を設け逐次三角網を設定拡張して所要の基準点を設定するものにして基礎測地の実施地域と基準点の数とは地形及基線の位置並全般配置関係により差あるも正面縦長四乃至六粁の地域に於ては八乃至十二の基準点を必要とすること通常なりとす

基礎測地の速度は一測角班を以て一日間に二点の測角を行ふを標準として今砲兵測地隊を以て統一的に基礎測地を行ふとせは其一部を基線測量並基線両端末の測角に使用し主力を以て点の測角を行はしむるときは全隊を以て約一日間に十二点の基準点を設定し得へし又偵察及標識並作業準備の為に一日、計算の為に一日を要するも前者の一部は作業開始後に之を行ひ後者は測地作業の進捗に伴ひ逐次に之を行ひ得へきを以て全部を合して約二日間を以て前掲の如き基準点を包含せる基礎測地を完成し得るものとす

第四款 音源標定隊

音源標定隊は敵砲兵の発射音及弾丸の飛行音に依りて遮蔽せる敵砲兵の位置を決定し且其砲種口径を判定するを以て任務とす

音源標定隊は主哨、聴音哨及監視哨を配置するものにして各聴音哨の配置は其間隔を約二粁とし其位置は成るへく敵に近きを可とするも友軍砲兵特に師団砲兵の発射音及弾頭波の為敵音の聴受を妨害せられさる為には師団砲兵の放列陣地占領地域の後方にして且其附近は開濶して音波の伝播を妨くることなく又他の雑音の混入せさること並測地の利便等を顧慮して定むへきものとす

音源標定隊の展開に要する時日は偵察の為半日乃至一日、各哨の開設及電線架設の為一日乃至二日にして合計少くも二日を以て標準とすへく其時間の大部分は電線架設に要する時間にして又各哨位置の決定は最も精密なるを要するを以て之か決定には砲兵測地隊の援助を肝要とし若し状況上前掲の如き約二日の時日を使用し得さる場合に在りては聴音哨の開設を四個のみに制限するときは約一日半を以て展開を完了し得へく状況によりては更に一部のみを簡易に使用して特種の目的に応せしむることあり其撤収に要する時間は展開時間に比し約二分の一を以て足るものとす

標定可能の距離は気象、地形、受音哨位置の高低特に敵火砲の初速の大小に依り差あるも従来三八式及四五式火砲に対し実験の成果を総合審査せる平均値は左の如し

野砲(十二榴)
七粁
十加(十五榴)
十粁
十五加(二十四榴)
十五粁

標定の精度は当時の天候及標定距離等に依りて差異あるも天候比較的良好なる場合に於ける統計に依れは標定距離一〇、○○○米以内に於ては誤差五〇米以下にして一〇、○○○米乃至一五、○○○米に於ては誤差一〇〇米以下とす