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砲兵戦術講授録 原則之部

第三篇 砲兵戦闘ノ特別原則

第二章 陣地攻撃に於ける砲兵

陣地攻撃に在りては 攻者の利益として敵情、地形を捜索し 攻撃の時期方向 及 方法を選ぶに要する時間の余裕を有し 自主的に予め綿密なる計画を定め 且 十分なる準備を整え 統一せる攻撃を行い得るを一般とするの状態に鑑み 砲兵も亦十分なる準備を整え 統一せる用法を企画して 完全に其能力を発揮するを要し 他面 現時に於ける防者の火器 及 築城威力の増進に稽へ 攻撃砲兵当然の要求として 戦闘準備の完璧を期するを要するは論なきところなりとす

然れども 完全なる準備をのみ期して 時日を徒費し 此間 防者をして其陣地を増強し 或は 其兵力の増援を受くることなからしむるの一般方針に基き 攻撃砲兵の準備も亦全般の状況に鑑み 使用し得べき時間の範囲内に於て準備を周到ならしむるの要則を忘れざること肝要なりとす

第一節 陣地攻撃に於ける砲兵運用の要則

第一款 攻撃指導と砲兵との関係

本款に於ては 陣地攻撃に於ける砲兵用法上 戦闘一般原則に直接関連せる重要問題を説かんとするものにして 高級指揮官として陣地攻撃に於ける計画立案上 砲兵用法と密接不分離の事項に就いてのみ述ふるものとす

  1. 一、 一挙突破 及 逐次突破の選択と 砲兵との関係

    敵の警戒陣地と主陣地帯とを一挙に突破することを得ば 最も可なりと雖も 之に伴う実施上の困難を感ずるもの尠少ならざるを以って 我国軍の典則には 状況之を許せば警戒陣地の攻略に引き続き主陣地帯を攻撃するを有利とするを明示せられあり

    警戒陣地と主陣地帯とを一挙突破せんが為の要件中 砲兵にのみ関する事項を考察するに 攻撃砲兵の大部分は 警戒陣地の攻撃に於ける配置を変更することなくして更に主陣地帯の攻撃に参加し得るを根本条件とし 之を細説せんが左の如くなるべし

    1. (一)
      攻撃砲兵主力の有効射程を以って 直ちに敵主陣地帯の歩砲兵を圧倒し得ること
    2. (二)
      攻撃砲兵主力の地上観測所は良好にして 敵主陣地帯に威力を及ぼし得るか 若は 所要の航空部隊を攻撃砲兵に配属協力せしめて 砲兵射程の延伸に資し得ること
  2. 二、 攻撃準備射撃

    攻撃準備射撃に就いて 其要否、実施の程度、指揮 及 射撃の継続時間等を説述せんとす

    1. (一) 要否

      攻撃準備射撃は 純理論より論ずれば 之を実施するの可なるは勿論なるも 実際問題としては 状況特に敵陣地の強度により 且 準備弾薬数之を許す場合に於て行うことあるものにして 敵陣地の強度は相当に堅固にして 我歩兵の攻撃前進間に於ける砲兵射撃のみを以って歩兵突撃の成功に資すべき破壊を企図し得ざると 尚 我が砲兵力 就中 準備弾薬数の補充関係 之を許すの二要件を必要なりとす

      従って 単に堅固なる陣地の攻撃なるの故を以って 攻撃準備射撃を常用せんとするが如きは 形式用法に堕せるものと謂うべく 又 徒に之を排せんとするは 戦理に透徹せざるの譏を免れ難し 宜しく一般の状況 特に敵陣地堅固の度 就中 障害物の有無 及 其状態 使用し得べき砲兵力 並びに 弾薬の準備程度に立脚して 其採否を決定せざるべからず

    2. (二) 程度

      攻撃準備射撃は 敵陣地に於ける障害物 及 側防機能等の破壊、敵砲兵の制圧 為し得れば破壊を実施するものなるも 此種の破壊 及 制圧を完全に行わんとせば 多数の弾薬と時間とを要するを以って 状況特に使用し得べき時間 及 弾薬数 並びに 制圧 若は 破壊を要する敵砲兵 障害物 及 側防機能の状態とを較量して射撃の重点を決定し 以って所要の破壊を実施するを要するものとす

      即ち 破壊射撃の完璧を期するは 弾薬数 及 戦機上之を許さざること多く 而も全く之を行うことなくして歩兵の攻撃前進を行わしめんが其成功の見込みなきを以って 敵障害物 及 側防機能の価値と 敵砲兵制圧の必要性とに鑑み 某程度の概略破壊 乃至 半数破壊の状態を以って満足し 或は 制圧 乃至 掣肘程度に止むるが如き場合をも生ずること屡々なるべし

    3. (三) 指揮

      攻撃準備射撃は 通常軍司令官之を統一計画し 軍直轄砲兵 及 所要の師団砲兵を使用して実施するものとす

      抑々対砲兵戦は軍の全正面に亙る敵砲兵の配置 及 砲兵威力に鑑み 軍直轄砲兵をして之を行わしむるを一般とするも 師団砲兵をして之に参加せしむるの必要を生ずべきこと勿論にして 障害物 及 側防機能の破壊は 師団砲兵之に任ずるを本則とすべきも 障害物の数 若は 側防機能の程度等に応じ 軍直轄砲兵 若は 他師団砲兵等を統一使用するを要すること多く 敵砲兵と敵障害物 側防機能との両者に対する火力を 全般的に統一按配するを要するもの亦多しとする

      以上の如く軍内各種砲兵を統一使用するの必要と 該射撃は軍の攻撃計画に密接不分離の関係を有するを以って 軍司令官之を統一企画するを要するや明にして 其細部の計画 及 直接の指揮の如きは 軍司令部に指揮機関を有する場合には軍の砲兵指揮官をして 又 軍砲兵司令官たるべき攻城砲兵司令官の存する場合は同官をして 之を実施せしめ 否らざる一般の場合に於ては 軍司令官の命に依り 軍直轄砲兵指揮官 若は 某師団砲兵指揮官中より任命するものとす

    4. (四) 継続時間

      射撃の継続時間は 主として期待すべき効果の程度に依り異なるも 勉めて之を短縮するを可とするものにして 其決定は 攻撃計画に最も緊密の関係を有するものとす

      攻撃準備射撃の継続時間は 之を技術的に検討せば 前篇所述の基礎に則り 破壊 若は 制圧せんとする目標の種類、強度、位置、数 並びに 所要の破壊程度等に従い 使用すべき砲種と破壊に要する弾薬数とを決定し 次いで使用すべき砲種、砲数 及 其発射速度に基き 効力射に要する所要総時間を求むることを得べく 之に事前に於て行うべき効力射準備射撃 若は 点検の為の射撃に要する時間を累加するときは 完全なる攻撃準備射撃の実施時間を得べきものとす

      凡そ攻撃準備射撃の継続時間は 単に算討に依るのみならず 克く全般の状況を洞察して考慮決定するを要すること勿論なるも 少なくも概算によりて某程度の効果を挙げるに必要なる所要時間を知るときは 全般の状況上 採用せる継続時間に於て期待し得べき破壊 若は 制圧の程度を予測することを得べく 之に依って施すべき爾他の処置に関し遺漏なきを得るものにして 単に算討の故を以って閑却軽視するを許さざるものとす

  3. 三、 払暁攻撃と砲兵の関係

    払暁攻撃と砲兵との関係に就いては 巷間往々にして現時の砲兵戦闘を忘却せる論旨を聞くことあるを以って 茲に聊か略述するところあらんとす

    想うに 由来 払暁攻撃を行う主目的の如何に関しては左記二説あるが如し

    1. (一)
      攻撃経過を短縮することを得 即ち 我が歩兵は夜暗を利用して敵砲火の損害を受くることなく 若は 著しく之を軽減して敵陣地に近接し 払暁と共に敵前至近の距離より一挙に攻撃を行うことを得
    2. (二)
      砲兵用法上至便なり 即ち 砲兵も亦 夜暗を利用して敵陣地に近く其放列陣地 及 観測所を推進し 払暁と共に短縮せる射程を以って射撃を開始し 以って有効なる射撃と弾薬の節約とを期待することを得

    以上の第一説に関しては議論の余地なきも 第二説に関しては一考を要するもの大なりとす 即ち 砲兵の陣地を推進するに方りては 新陣地の偵察、砲兵隊の移動 及 射撃に関する諸準備等を要し 其時間決して短少ならざるのみならず 射撃に関する準備の完全を期するは 則ち 砲兵威力発揮の為 唯一の要素たるを省みるときは 陣地推進の結果 状況上旧陣地に於けるよりも不完全なる射撃準備を以って戦闘に従事せざる可からざるが如き場合を生ぜんが 陣地を推進するよりは却って旧陣地に於て周到なる準備の下に戦闘を遂行するを以って勝れりとすること寡からざるべく 単に形式上の陣地推進は前所述の如き利益を収め難きものあるを感得せざるべからず

    従って 払暁攻撃の主眼は 第一説を本旨とすべく 状況之を許せば 更に成るべく第二説にも副う如く配慮するを自然とし 其成立の為には 左記条件を必要とす

    1. (一)
      払暁攻撃を予期せば 少なくも 前日昼間に於て 第一線歩兵部隊の掩護の下に 砲兵所要の偵察陣地選定は勿論 射撃準備の大部分を終了し置き 次いで日没後 歩兵の前進に伴い 予定陣地に向かい放列陣地を推進し 翌払暁迄に 新陣地に於て 旧陣地に於けるものに比肩すべき射撃準備を完了し得るを要す
    2. (二)
      状況に依り 新陣地に推進後は 単に目視し得る目標に対してのみ射撃するを以って満足し得べき場合 若は 随伴砲兵の如き任務に服せしむべき一部の砲兵に就いてのみ之を論じるときは 第二説を肯定し得 之を要するに 射撃準備の如何に大なる考慮を払うことなく漫然として払暁攻撃に於ける砲兵の推進を論じ 或は 砲兵を有利に使用せんが為に 単に放列陣地の推進を目途として払暁攻撃を行うものなりと早断し 戦闘準備の精粗を較量せざるが如きは過去に於ける因襲的思想の継続にして 今や現時に於ける砲兵用法上根本的に其誤謬を蔵するものたるを痛論せざるを得ず
  4. 四、 戦闘準備 特に射撃準備の周到

    戦闘準備 特に射撃準備の周到なるを要するは 前篇 及 本篇の各論に縷述せる所なるも 左に陣地攻撃に於ける砲兵戦闘準備の必要なる所以を明にし 以って高級指揮官として砲兵の為の所要時間の余裕を与えるの準拠たらんとす

    1. (一)
      防者は十分なる戦闘準備を整え 周到なる火力配置を行い 一意攻者の近接を待てり 従って 攻撃砲兵は 特に戦闘の初期に於ける軽挙を戒め 速やかに周到なる準備を完了して防御砲兵の優越点に対し均衡を持し 以って其固有の兵力 及 志気上の優越を 完全に発揮することを期せざる可からず
    2. (二)
      現時に於ける兵器 及 築城の進歩に鑑みる時は 至当なる準備の下に攻者を待てる防者は 縦い夜間と雖も 其陣地前に有効なる火力を発揚し得るを常態とし 之に対し 単に砲数 及 弾薬数と 攻撃精神とをのみ 唯一の資料とし 攻者火力の発揚能否の本源を深く介意することなく攻撃を敢行せんとすは 聊か軽率無謀の挙にして 早晩防者の術中に陥るものなりと謂うべく 之が為には 攻撃砲兵は十分なる火力準備を整え 少なくも 適時適所に防者の歩砲兵を圧して 攻撃歩兵の前進を支援し得るを要件とし 火力準備の成果如何は懸かりて攻撃の成否を左右するものと断じ得べし
第二款 指揮及協同
  1. 一、 軍直属砲兵等の軍隊区分

    軍司令官は 戦闘の開始に先ち軍直属砲兵、方面軍より配属せられたる砲兵 及 必要に応じ第二線兵団に属する砲兵等の大部を 第一線師団 特に重点を指向する方面に於ける師団に配属し 機を失せず所望の火力を発揮し 特に歩砲協同の実を挙ぐるに遺憾なからしめ 爾余を直轄して軍直轄砲兵として其本然の任務に従事せしむるものとす

    抑々陣地攻撃に方りては 当初より自主的に一定の方針に基き 師団に配属すべき砲兵力を決定し得るを通常とし 且 軍戦闘の主体は第一線師団にして 其円滑なる歩砲協同は戦闘成功の根元たるに鑑み 軍直属砲兵等は其成るべく多くの兵力を第一線師団 特に重点を指向する方面の師団に配属するを以って軍砲兵部署の根本方針となすべきものにして 此際 軍直轄砲兵として保持すべきは 直接に師団の戦闘に関係なき目標を射撃し 或は 師団の作戦地域外の目標に対して師団の戦闘に協力し 若は 二個以上の師団正面に亙りて適時の協力を期せしむる等の必要に依るものにして 軍全般の砲兵力上 一部の砲兵数たるを通常とす

    統一の美名に捉われて 軍直属砲兵をも師団砲兵以外に特立して 全力 又は 主力を統一するが如き誤解あるべからず

    今 運動戦に於て現出すべき一般的の戦闘序列内に於ける各種砲兵の特性上 陣地攻撃に於ける軍隊区分の一般的傾向を述べれば左の如きも 現実の状況 及 地形等により 素より千差万別の場合を生起すべく 単に一の準拠に過ぎざるものと知るべし

    • 独立山砲兵連隊
      第一線師団に配属せらるるを通常とす
    • 第二線師団の野砲兵連隊
      第一線師団に配属せらるるを通常とし 状況に依り軍直轄とす
    • 野戦重砲兵旅団
      第一線師団に配属せらるるを通常とし 状況に依り 其一部 若は 大部を軍直轄とすることあり
    • 独立野戦重砲兵連隊
      軍直轄とするを通常とす
  2. 二、 師団砲兵の軍隊区分

    師団固有の砲兵 及 軍より配属せられたる砲兵は 合して師団砲兵とし 成るべく之を統一使用するを本則とするも 所要の砲兵は之を第一線部隊に分属するものとし 師団砲兵を第一線歩兵部隊に配属することに関しては 既に前篇に於て一般的に論述せしも 茲に陣地攻撃に於ける場合の特徴に関して説くところあらんとす

    抑々陣地攻撃に於ては 努めて砲兵の統一使用を策し 以って経済的用法の真価を発揮すること緊要にして 且 其可能性大なりとす 然れども 之と同時に 友軍歩兵の漸次敵陣地に近接するや 予期せざりし地点よりする敵の歩兵用重火器 及 側防砲兵等の為 友軍歩兵は攻撃至難の状に接するを常態とし 此際 歩兵より遙に後方に於て統一指揮せられある砲兵隊を以って 歩兵を直接支援せんとするは 縦い直協砲兵を以ってするも 歩兵第一線部隊は 尚且 隔靴掻痒の感を禁じ難きものあるべく 是 即ち 歩兵指揮官の隷下に在るべき歩兵配属砲兵を要する所以にして 敵陣地の強度大なるに従い益々其必要を感ずるものとす

    以上の如く 師団砲兵は 成るべく長く 且 多くの兵力を統一使用するの必要と 他面 第一線歩兵部隊にも配属使用するの必要とに鑑み 師団長は 配属すべき兵力 特に其配属の時期 並びに 之に関する準備に関し 至大の考慮を払うを要し 其着眼たるべき要項左の如し

    1. (一)

      陣地攻撃に於ける一般の場合に在りては 当初の師団命令に於て何れの時期に於て如何なる兵力を某翼隊に配属すべきやを明示し 之に依って 予め関係ある歩砲兵の間に於ける相互の計画 並びに 準備 及 協定の実施に遺漏なからしめ 以って所要に臨み円滑なる実施を期するを要し 配属の実施は歩兵の攻撃進捗せる予定の場合に臨み之を命令するものとし 該時期迄は師団砲兵指揮官の統一指揮の下に有利なる使用をなさしむ

    2. (二)

      払暁攻撃に於けるが如く 当初より攻撃準備の位置を敵陣地に接近して占領し得る場合 或は 全般の砲兵力強大なるが如き場合に在りては 師団命令に於て 当初より一部の砲兵を第一線歩兵部隊に配属する如くするを可とすることあり

      又 払暁攻撃に於て敵陣地を観察する観測所に欠くるが如き地形に於て 半夜襲的に攻撃するが如き状況に於ては 寧ろ砲兵主力を当初より第一線に配属し 歩砲協同の完璧を期するを可とするものとす 特に敵陣地の強度大ならず我が砲兵は山砲兵なるが如きときに於ては 配属を可とするや勿論なり

  3. 三、 歩砲の協同
    1. (一) 軍隊区分

      陣地攻撃に於ける師団砲兵隊の軍隊区分は 師団砲兵指揮官の任ずるところにして 歩砲兵協同の完璧を期する為 直協砲兵群を区分するは理想にして 直協砲兵群には勉めて師団固有の砲兵を以って之に充つるを必要とするも 師団に相当兵力の野戦重砲兵を配属せられありて 且 地形 及 敵陣地の関係等 之を要すれば 十五榴を編合するを可とす

      然れども 砲兵力小なる軍にありては 火力の経済的用法上 建制を以って時期を割する歩砲協同を為すを通常とすべし

    2. (二) 歩砲の提携

      陣地攻撃に於ける歩砲の協同に関し 特に緊要なるは 突撃準備 及 突撃に関する動作にして 本件に関し留意すべき処置 左の如し

      1. (イ)
        突撃準備 特に障害物の破壊の為 歩砲兵の協同関係を律することは 師団命令を以って之を明示すること
      2. (ロ)
        歩砲兵の指揮官は 前項の命令に基き 既述の一般原則に従い戦闘の開始前に於て 側防機能の破壊、制圧 及 障害物の破壊等に関し 当時知得せる範囲内に於て十分なる協定を遂くること
      3. (ハ)
        第一線部隊は 敵に近接するに従い 益々詳細に敵陣地 特に障害物 及 側防機能等の状態を偵知すると共に 歩砲兵の協定を補綴して其協同を愈々緊密ならしむるを要し 敵の側防機能の詳細なる配置 及 状態等は 我が歩兵の敵歩兵の火網内に入りたる後 始めて之を確認し得ること多きを以って 歩兵は機を失せず之を砲兵に通報し 又 砲兵は臨機歩兵の要求に応じ 適時所望の地点に対し火力を発揚すべきこと
  4. 四、 砲兵情報班の指揮 及 協同

    砲兵情報班は 陣地攻撃に在りては当初より之を軍に於て統一使用するを本則とし 其指揮系統は軍司令官の直轄となすを一般とす

    抑々軍の全砲兵を統一指揮すべき軍砲兵司令官を存せざる軍に於ては 軍の全砲兵(各師団砲兵 及 軍直轄砲兵を含む)の為必要なる砲兵情報班は 攻城砲兵司令官の存するが如き場合を除きては 之を軍司令官に於て直轄使用し 其成果を普く軍の全砲兵に共通利用せしむるを肝要なりとし 之を軍直轄砲兵指揮官 或は 某師団砲兵指揮官をして指揮せしめんとするは不可なり

    尚 又 砲兵情報班長として 測地、地上標定、音源標定 乃至 気象 及 写真に関する諸事項に対し 一人にて通暁しあらざるの故を以って 砲兵情報班長を恰も師団の衛生隊長と同一視し 単に部隊の行軍 及 給養を律するの機関と考定し 情報班内の各部隊は各其長の意見により分属的に使用するを本旨とするが如きことあらんか 情報班たるの能力は著しく低下すべく 固より斯かる状況を想像するは根本に於て謬れるものにして 教育 及 訓練の進歩に伴い 技能を有する砲兵情報班長は多々益々之を辨すべく 吾人は有効なる統一用法を本則とし運用するを要す

    砲兵情報班の運用を策するに方り 他部隊 若は 他の機関との関係上 着意すべき事項にして陣地攻撃に関係ある件を総合すれば 左の如し

    1. (一) 砲兵情報班本部と上級司令部との通信

      砲兵情報班に有する通信機材は 情報班内の各部を連絡するもののみなるを以って 該本部と其所属する上級司令部との連絡通信に関しては 高級指揮官に於て別に配慮せざる可からず

    2. (二) 砲兵情報班長と所属司令部情報主任との連繋

      砲兵情報班は 砲兵用たるは勿論なるも 同時に又 一般情報勤務上有利なる資料を提供し得るものとす 従って 所属の司令部情報主任者は 特に砲兵情報班長との連繋を密にし 以って軍全般の為に有利なる情報を 砲兵情報班よりも蒐集するに遺漏なきを期せざるべからず

    3. (三) 砲兵情報班と軍飛行隊との連繋 及 協定

      情報の蒐集上必要なるものあるのみならず 航空写真と砲兵測地とは密接不分離の関係を有するを以って 事前に於て予め適時両者の連繋を促し 以って作業の重複 或は 遺漏なきを計るは高級指揮官の幕僚たるべきものの忘却すべからざる事項なりとす

    4. (四) 音源標定隊の通信施設と 軍 若は 師団通信部隊の援助
    5. (五) 砲兵測地の為 所要の清掃と工兵部隊の援助
    6. (六) 軍 及 師団砲兵と砲兵情報班の相互配置の関係

      砲兵情報班の地上標定所の全部 及 音源標定所の一部は 砲兵用観測所と同一地域 若は 地点に配置せらるを一般とし 又 音源標定所位置の選定は 砲兵の放列陣地位置に関し 絶大なる交感を有するを以って 高級指揮官 及 幕僚は 軍 及 師団砲兵 特に後者の配置と砲兵情報班の展開位置とに関し 十分に其相互関係を考慮するところなかるべからず

第二節 攻撃砲兵の陣地 及 火力運用

第一款 攻撃に於ける砲兵陣地
  1. 一、 砲兵陣地一般の特性

    砲兵陣地の性能に就いては 既に説述し 概ね之を窺知し得べしと雖も 陣地攻撃に於ける砲兵の陣地は 状況之を許す限り 敵陣地に近接して配置し 火砲の特性に適応し 且 弾薬補充 及 陣地変換の難易等を顧慮するを要すること大にして 観測所 及 進入路の関係を省察すること 亦 肝要なり

    1. (一) 敵陣地に近接して砲兵陣地を配置するの必要
      1. (イ)
        友軍歩兵と密接に連繋協同し 歩兵の要求に依り機を失せず所望の地域に砲兵威力を及ぼし 友軍歩兵に危害を与えることなくして歩兵の進路を開拓せんが為 極めて必要なる事項なりとす
      2. (ロ)
        近時 防御陣地の縦深は著しく増大しあるを以って 敵陣地の全縦深に亙りて効果を発揚し 特に敵陣地の後部に対し 或は 対砲兵戦の必要に対する要求を考え 且 陣地変換の不利を較量するときは 当初より敵陣地に近接して陣地を占領するの要 大なり
      3. (ハ)
        敵陣地に於ける術工物 及 敵砲兵の破壊 並びに 制圧を行わんが為には 成るべく我砲兵の射程を短縮する如く陣地を占領せしめ 之に依って良好なる射撃精度を求め 使用弾薬を節約し 且 射撃時間の短縮を計るを肝要なりとす

      以上の如く 砲兵陣地を敵陣地に近接せしむるは 状況之を許す限り勉むべき事項なるも 同時に又 砲兵陣地を過度に敵陣地に近接するときは 方向射界を減少して火力の機動性を失い 且 友軍超過射撃を至難ならしめ 或は 之を不可能ならしめるを以って 其の程度に関しては 相当の考慮を払うを肝要とす

    2. (二) 火砲の特性に適応せしむるの必要

      既述の如く 火砲の射程、運動性の大小、弾道上の特性 及 主として射撃せしむべき目標の種類 並びに 位置等に応じ 陣地の配置を行うを要す

    3. (三) 弾薬補充の容易なること

      放列陣地後方の地形 及 補充路遮蔽の状態に関するものにして 放列陣地に対する弾薬補充の不良なる時は 爾他の条件良好なりとするも戦闘の遂行得て望み難かるべし

    4. (四) 所要に応じ陣地変換の実施容易なること
    5. (五) 観測所の選定

      観測所の緊要なるは今や贅説を要せざるところにして 特に多数砲兵を使用するに方りては 観測所地域の配当に方り地形上相当の困難を感すること尠からず 従って 前衛等が敵の警戒陣地等に於ける小部隊を駆逐して敵情を捜索する場合に在りても 速やかに砲兵の観測所として有利なる地点を占領するの着意を忘れざるを要し 又 展開を命ぜられたる第一線部隊が攻撃準備位置に就くに方り 攻撃準備位置の前方に於て 砲兵観測所に必要なる地点を存するときは 一部を以って之が占領を有利とし 斯くの如き事項に対し 歩砲両者の緊密なる連繋 及 協同を要するは勿論 高級指揮官としても此等に関係ある事項を部署 及 命令するに方り 常に深く留意すべき要件なりとす

    6. (六) 進入路の価値

      攻撃に在りては 状況 特に地形に依り差あるも 一般に防御砲兵は周到緻密なる準備射撃を整え 一意攻者の近接を待ちつつあるを以って 攻撃砲兵の陣地進入路にして防者に暴露するものあらんか 攻撃砲兵は防御砲兵の為 其進入の途中に於て早くも殲滅的打撃を加えられべく 従って 爾後に於ける攻撃砲兵の威力は得て発揚し難きに至るものとす 故に 攻撃砲兵は 其陣地進入路を選定するに方り 遮蔽に関しては至大の考慮を払うを要し 要すれば 所要の施設を加え 或は 適当の処置を施し 若は 進入の時機を配慮する等の考慮を忘れべからず 之が為 状況 特に之を要すれば 敵陣地の要点たる一部を先ず奪取するを要することあり

  2. 二、 攻撃に於ける直接協同砲兵の陣地

    直協砲兵の陣地は 協同すべき友軍歩兵に近く 其後方に選定し 以って歩砲の連絡を便ならしめ 歩兵をして砲兵射撃の結果を直ちに利用し得せしむるを肝要なりとす 従って 直協砲兵の陣地は 関係ある協同すべき歩兵の第一線に対し 成るべく三乃至四粁以上の距離を間せざる如く配置すること肝要にして 其主旨は左の如し

    1. (一)
      直協砲兵は歩兵との連絡確実なるを要し 之が為 戦闘熾烈となり電話連絡の断絶を来すも 尚且 視目により連絡を確保し得るを肝要なりとす
    2. (二)
      砲兵射程の増加は 観測上精度の逓減となり 誤差の増大を来すべきを以って 友軍歩兵をして砲兵射撃を利用し直ちに機を失せず突撃を敢行せしめんが為には 友軍歩兵は敵に対し 一五〇米 乃至 二〇〇米以内に接近しあるを要し 之が為 直協砲兵たるべき火砲の精度関係上 希望すべき限界たるべし
第二款 砲兵火力の運用
  1. 一、 攻撃砲兵の火力

    陣地攻撃に於ける師団砲兵に対し師団長は 「主要なる各時期に於て歩兵部隊に直接協同せしむべき火力、其他所望の火力 及 其目的」 を明示するを要し 自主的に其方針を決定し得べき攻撃の特性として 適確に之を命令し得 且 歩砲の協同を律する為 極めて重要なる事項なるも 従来 国軍兵学界の状況を看るに 或は 簡に失して要を得ざるもの 或は 無意味 且 不可能なる過多の火力を雑然として命令せるが如き 此の方面に於ける不備欠陥少からざるが如く 今 左に関し 若干の解説を加えんとす

    1. (一) 主要なる各時期

      陣地攻撃に於ける戦闘経過に応ずる各時期にして 其区分の採択は専ら当時の状況に依るも 戦闘の性質上、白紙的には左の如き各時期に区分し得べく 而して 何れの場合に在りても 突撃時期に於ける歩砲の協同を最も密接ならしむる如く配慮するの要あり

      但し 敵陣地の攻撃に於ける我砲兵の行動は 師団の開進位置に就く時期 及 敵警戒陣地の攻略時期に於て開始せられありと雖も 左に述べるものは 攻撃に関する諸準備を整えたる後 師団の攻撃命令を下す状況に於いて 一般に必要なる時期区分に就いて述べるものとす

      • 我が歩兵の 攻撃前進開始前
      • 我が歩兵 攻撃前進開始時期
      • 我が歩兵 敵歩兵の火網内に進入時期
      • 突撃準備時期
      • 突撃開始時期
      • 戦果拡張時期

      突撃準備は 攻撃の当初より之を実施せるは勿論なるも 本項時期の区分は 我が歩兵が敵前近くに迫れる時期に於ける 狭意義の時期なりとす

    2. (二) 火力の指示法

      砲兵大隊単位の火力を以ってするを利便とし 要すれば砲兵中隊数を持ってし 又 所要に応じ砲種区分を指示するものとし 前項の時期 及 目標 或は 地域 若は 協力部隊と共に 之を指示命令するものとす

    3. (三) 所望の火力 及 其目的

      既述の如く 攻者の自主的に決定する主要なる各時期に於ける区分と異なり 状況に応じ現出することあるを判断せるもの 特に敵情に依るものにして之を例せんが 敵の攻勢移転を阻止するが如き 或は 敵後方部隊の増援を阻止するが如きものにして 所望の火力数は斯くの如き目的と共に 必要なる地域に対して火力準備として命令するものとす

  2. 二、 効力射準備射撃 及 効力射開始の時期

    てすと

    1. (一)

      効力射準備射撃の必要は既に架説せしところにして 陣地攻撃に於ける之が実施も 亦 我が企図を秘匿するを肝要なりとし 之が為には 其実施の時期 及 場所に関する 至大の考慮を切望とす

      抑々効力射準備射撃実施の時期は 理論上 効力射開始の直前なるを可とし 此間 時間を間するに従い益々効力射準備射撃実施の価値を低下し 為に 効力射の実施に臨みて 少なくも 点検の為の射撃を行わざる可からざること多く 他面 攻撃の企図 及 開始をして 敵の意表に出でしめんには 砲兵の射撃開始は 歩兵の攻撃前進開始と同時なるを要するも 斯くの如くせば 我砲兵は効力射準備射撃の為 未だ敵砲兵に対し効力射を実施し得ざるに反し 敵砲兵は我が砲兵の制圧を受けることなく 平然として頗る有効に 我が歩兵の前進を阻止することを得せしむるの不利あり

      以上の如くなるを以って 遅くも 我が歩兵の攻撃前進開始時期に於ては 砲兵は効力射を実施し得るが如く配慮して 予め其効力射準備射撃を実施し置くを肝要とす 其時期の選定は 専ら状況に依り之を決すべきも 若し 両者の間に時期を隔するに際しては 効力射の直前に於て 少なくも点検の為の射撃を行うの必要あるものとす

      効力射準備射撃を行うべき地点と 効力射を実施すべき地点とは 測地の状況 及 射撃法の選択に依り 必ずしも同一なるを要せずして 例えば 前篇所述の転移射を実施するものとせば 其範囲なるを以って足れりとするを以って 実施適切なるときは 此間に敵を欺瞞し 我が企図を秘匿するの余地なしとせず 而して 歩兵の攻撃実行間に於ける歩砲の協同を円滑ならしむる為には 其任務に応じ 試射点選定区域 又は 試射点を配当するを可とす

    2. (二) 効力射開始の時期

      効力射開始の時機は 専ら歩兵の前進時機 及 該時機迄に砲兵に要求すべき任務の程度に密接なる関係を有するものにして 之を分別するときは左の如くなるべし

      1. (イ) 効力射開始と 歩兵の前進開始とを 同時ならしむる場合

        此場合に関しては 歩兵の攻撃前進開始と共に射撃開始せる我が砲兵を以って 先ず敵砲兵を制圧し 敵陣地設備を破壊し 次いで敵歩兵を圧倒して 我が歩兵の前進を支援し得るや否や 又 其程度如何を先決の要件とす

        • 敵砲兵の制圧

          敵砲兵の制圧は 目標を確認するにあらざれば 多数の弾薬を浪費するに至る故に 対砲兵戦に於いて 制圧なりや 徹底的殲滅なりやの主義方針を明確に確立し 前者には目的を達成し得る少数砲兵小数弾薬を 後者には大兵力 及 所要弾薬数を以って徹底的に集中する等 其戦法には差異あるものとす

          昼間攻撃に在りては 我が歩兵攻撃準備の位置より発進して 敵主陣地帯前に於ける敵歩兵火網に近接し 我が砲兵を以って敵歩兵を制圧するを要する時機迄には 相当の時間を有するを常態とし 此間 我が砲兵は先ず敵砲兵を制圧し得べく 此際 我が歩兵の攻撃前進に先だち予め敵砲兵の制圧を行い 敵砲兵一部の戦力にても減殺しおくに努力するを可とするも 徹底的対砲兵戦は戦闘経過をして益々長延ならしむるのみならず 企図秘匿の主利を放棄する所以なりて 其不利大なるを以って我が歩兵の攻撃前進開始と共に砲兵の射撃を開始して敵砲兵の制圧を企図するは 状況之を許せば有利なる方法と言うを得べく 一般に 敵陣地に対し比較的遠く攻撃準備位置を占めたる後攻撃開始を行うが如き場合にして 而も 敵陣地の強度大ならざるときに於ては 斯くの如き方法を採用し得ること多からんとす

          此間に於ける対砲兵戦は 目標に依り 或は 地域に依り 対砲兵戦専任々務部隊を命ずるを理想とするも 直協砲兵も亦 自己の協同する歩兵を射撃する敵砲兵に対しては救援的射撃を行うものとす

        • 敵陣地設備 特に其障害物の破壊

          前項に於けるが如く 師団砲兵は敵砲兵の制圧を行うを以って攻撃初期に於ける主任務とすべきも 昼間攻撃に在りては 我が歩兵の攻撃準備位置より敵陣地に近接するに要するに相当の時間を利用せば 敵陣地の要点に設けられたる障害物に対して 単に若干の破壊をのみ企図するが如きは 敵砲兵の制圧と同時に之を行い得ることあるものにして 之を例せんが 軽易なる敵陣地に対し昼間攻撃を行うが如き場合に在りては 斯くの如き方法を採用し得ることあるべし 但 斯くの如き状況に処しては 我が砲兵は我が歩兵の攻撃前進間に於て 而かも敵歩兵火網に近接する迄に於て敵砲兵を制圧するを要する外 障害物に対し所要の破壊を行い 状況に依りては若干の側防機能の破壊をも行わざるべからざるを以って 其任務は動もすれば広汎に失し 従って 縦い我が歩兵は攻撃準備位置よりする前進の為 比較的多くの経過時間を有する場合と雖も 歩兵の突撃実行迄に障害物の破壊を十分ならしむるが如きは 極めて優勢なる砲兵力を以って圧倒的の威力を逞うし得るが如き特種の場合に非ざる限りは通常過望にして 時としては 我が歩兵をして 其突撃前進時期に於て敵陣地に近く長時間の停止を行いつつ 砲兵を以ってする敵障害物の破壊完了を待たしむるが如き弊害を生じ易からんとす

        之を要するに 効力射の開始と歩兵の攻撃前進開始とを同時に行うべきや否やは 敵陣地の強度 我が砲兵力 及 攻撃実施の時期等 一般の状況を較量して決定すべきも 比較的軽易なる敵陣地に対し攻撃準備位置を敵に遠く占めて攻撃開始を行うが如き場合に在りては 歩兵の攻撃前進開始時期に効力射を開始する方法を採用することあるものとす

      2. (ロ) 歩兵の攻撃前進開始に先だち効力射を行う場合

        攻撃準備射撃を行う場合は 純然たる本項に属し 敢えて論説の余地なきを以って 茲には其他の場合に就いて解説するところあらんとするものにして 此場合に在りても 敵砲兵の制圧と敵陣地設備の破壊との要否を説き 其歩兵直接協同との関係に及ばんとす

        • 敵砲兵の制圧

          我が歩兵の攻撃準備位置にして敵歩兵の火網に比較的近接せる場合に在りては 若し我が歩兵の攻撃前進開始と砲兵効力射の開始とを同時ならしむる時は 我が砲兵は歩兵の攻撃開始と同時若は其直後に於いて敵砲兵を制圧するの必要を生ずべく 又 此際 敵歩兵の火網に近接せる我が歩兵に直接協同するの必要をも同時に発生し 為に 我が砲兵は戦闘力の分割を余儀なくせられ 動もすれば防御砲兵に対し戦闘威力の優越を放棄するの不利を生じ 防者の術中に陥るの結果に堕せんとす 論者或は曰く 斯くの如き状況は 多くは払暁攻撃の如き場合に生ずべく 此の不利を除去せんには敵砲兵の制圧の如きは前日中に於て之を概成し置くべきものなりと 然れども 前日に於ける敵砲兵の制圧効果の如きは 翌払暁に及ぶときは 多くは戦闘力を復活しあるを一般とするは 砲兵戦闘の特質上肯定すべき事項なり 之が為 又 前日に於て敵砲兵の根本的の殲滅 及 破壊を企図するが如き極めて大規模の対砲兵戦を行うは 一般の状況 之を許さざるを通常とし 従って 右述の如き状況に在りては 我が砲兵は事前に臨みて全力 若は 主力を以って 先ず敵砲兵を制圧し 次いで我が歩兵の攻撃前進開始と共に 更に全力 或は 主力を以って 歩兵に直接協同するを要するに至るを自然とす

        • 敵陣地障害物等の破壊

          攻撃準備射撃の如く 軍司令官の統一計画に基き 予め大規模の敵陣地設備の破壊を行う場合に非ずと雖も 師団砲兵のみを以って我歩兵の攻撃前進開始に先だち 障害物等の破壊を企図することなしとせず 即ち 敵陣地に近接して攻撃準備位置を占めたる場合に於て 前項の敵砲兵制圧と同時に 敵障害物等の要点に対して一部の破壊を行うが如き之なりとす

        之を要するに 歩兵の攻撃前進開始に先だち 砲兵の効力射を行うは 敵主陣地帯に著しく近く我が歩兵の攻撃準備位置を占めたる場合に於て 而も 敵陣地の強度少々大なる場合に於ては 之を実施するを可とす 之を攻撃準備射撃と称するや否やは 名称の問題にして 介意するに足らず 攻撃準備射撃と称するも可なるべく 称せざるも不可ならず 要は実効を収むるに在り

      3. (ハ) 我が歩兵 攻撃前進を開始したる後 砲兵の効力射を開始する場合

        斯くの如きは極めて稀有の状況なりと言うべく 状況上 歩兵は急速なる攻撃開始を行うを要するに際し 砲兵は爾他の関係上 戦闘開始の遅延したる場合の如き其一例ならん

  3. 三、 砲兵火力を以ってする敵陣地障害物の破壊

    砲兵火力を以ってする敵障害物の破壊は 其実施容易にして 我が歩兵の敵陣地に近接するに先だち 予め之を完了し得るの利ありと雖も 之が完全なる実施を期せんが為に要する砲兵力 特に其弾薬数の莫大なるを考え 且 之に伴う時間の寡少ならざるを考慮し 以って其成否 及 程度を決定せざるべからずものにして 其算討的基礎は既述の基礎元によりて窺知し得べく 単に空漠たる着意の下に爾他の関係を深く考慮することなく 砲兵火力を以ってする障害物破壊の万能に憧憬し 或は 所要弾薬数 及 時間の一側面をのみ偏眼視して之を忌避せんとするが如きは 共に不可なりと断ぜざるを得ず

    抑々障害物破壊の時期 及 方法 並びに 破壊口の数は 高級指揮官の企図に基き攻撃方針に即応して決定せらるべきものにして 状況 特に障害物の種類、強度、位置 及 我が砲兵 就中 準備弾薬数の多寡と重大関係を有し 他面 戦車の有無をも考慮して之を定むるの要あるものにして 其要目の交感するところを概述すれば左の如く 実際に臨みては 彼我総合的に審査するを要するものとす

    1. (一) 障害物の種類 及 強度

      鉄条網なると鹿砦なるとにより 又 鉄条網に於ても屋根形、網形 或は 折畳式(円筒形 蛇腹形 及 刺形の区別あり)なるとに依り 効力に差異を有し 更に各種障害物を通し 其幅員縦深の大小に応じ 或は 其施設せる障害物の重畳せる数に依りて 其強度を異にす

    2. (二) 障害物の位置

      敵陣地に関し 単に陣地の直前にのみ存するや 或は 内部にも存するや 又 其 経始法 及 設置せる線数の如何 並びに 設置せる地形 特に地面の傾斜 及 遮蔽の交感度等により 其効果 及 破壊法に影響するところ大なり

    3. (三) 我が砲兵力 就中 準備弾薬数

      砲兵力 特に準備弾薬数の多寡は至大の関係を呈するものにして 状況に依り 或は 攻撃準備射撃を行い 或は 之を行うことなく単に我が歩兵の攻撃前進開始前若干の時間より破壊を企図し 若は 歩兵の攻撃前進開始と共に破壊を開始するが如き 或は 又 全く 砲兵を以ってする予備破壊を行うことなく歩工兵の直接破壊を主眼とし 此間砲兵をして我歩工兵の作業を妨害する敵の側防機能をのみ制圧せしむべきや等の 差異を生ずべく 破壊の為砲兵を使用する場合にありても 単に重要なる方面にのみ比較的安全なる破壊を行う如くせしむべきや 或は 各方面に対し不完全なる平等破壊を企図して 歩工兵直接破壊作業の端緒を開拓せしむべきや等の各場合を生ずべし

    次に 砲兵力を以ってする破壊と 歩工兵を以ってする破壊作業とを併用する場合に於て 如何に之を区処按配すべきやは 各種の状況に依り決すべきものにして 其着意すべき要項は左の如し

    1. (一) 砲兵をして 単に重要なる方面の破壊にのみ任ぜしむるを可とする場合
      1. (イ)
        比較的狭小なる某重要方面の破壊効果を利用して 奇襲的攻撃の成果を獲得し得るとき
      2. (ロ)
        攻撃実行上 極めて重要なる方面の障害物にして 之が破壊の為 砲兵を用いるを極めて有利とするか 或は 他の破壊手段を以ってしては其成果を期し難きとき
    2. (二) 砲兵を以って 縦い不完全なるも 各方面に対して破壊を行わしめ 次いで歩工兵作業を以って之を補足し 又は 破壊口を増設せしむるを可とする場合 (実用上最も多き場合とす)
      1. (イ)
        我が砲兵力を以ってする破壊能力に比し 比較的広正面の攻撃を企図し 局部的破壊の効果によりてのみ攻撃の成功を期し難きとき
      2. (ロ)
        助攻方面に於ける戦況の進展如何は 主攻正面の戦闘進捗に重大なる交感を与える場合にして 多少の濃淡、厚薄を存しつつも 障害物の破壊は 敵の全正面に亙り概ね同時に相当の成果を期待するを要するとき
      3. (ハ)
        砲兵破壊の利害と 歩工兵破壊の利害とを較量し 両者の能力に依り 其合成効果を収めんとするとき

第三節 陣地攻撃各期に於ける砲兵

陣地攻撃の主要なる各時期に於ける砲兵戦闘の推移如何を熟知するは 砲兵運用上の指針として高級指揮官の忘る可からざる事項に属し 此の準拠に基き始めて的確なる砲兵運用を策し 歩砲の協調を律することを得るものと謂うべく 既述せし遭遇戦に於ける砲兵運用と重複すべき事項を除き 陣地攻撃の各期に於ける砲兵用法の特徴に関し 概述するところあらんとす

第一款 攻撃準備時期

此の時期に於ける攻撃砲兵は 寧ろ防勢的態度に在りて 爾後の攻撃準備の周到促進に腐心すべきものとす

  1. 一、 開進時期に於ける砲兵

    攻撃砲兵の任務は 其警戒部隊を支援し 且 師団主力の行動を掩護するに存し 此時期に於ては 有為なる敵は 好機を逸することなく攻勢移転を敢行すべきを当然とするを銘刻し 警戒部隊に属する砲兵は勿論 要すれば本隊砲兵中所要の兵力を増援して 防者の行動に対応せしむるを要し 此等砲兵は防勢配置に在りて攻撃準備の遂行に資するを要す 然れども 此際に於ける攻撃砲兵の防勢は 単に一段にして 同時に爾後の攻撃戦闘に関し深く留意し準備するところあるを要すること勿論にして 防勢的に使用すべき砲兵と雖も 爾後の用途を顧慮し 良く全般の状況を洞察して其配置 及 戦闘準備を決定し 爾他の砲兵は開進の配置に就き 共に力を竭して爾後の攻撃準備に努力腐心すべきものとす

  2. 二、 敵警戒陣地攻略時期の前後に於ける砲兵

    此時期に於ける砲兵は 好機を捕らえて 敵情 及 敵陣地の細部を標定捜索すべく 之と同時に測地、観測、標定の各機関を配置して 爾後の攻撃の為に必要なる砲兵射撃準備に専念すべきものとす

    払暁攻撃を企図する場合に於ける砲兵は 成るべく前日昼間に於て 翌払暁以後に於ける戦闘の為 必要なる諸準備を整え 且 夜暗を利用して 要すれば陣地を前方に推進し 以って払暁以後に於ける戦闘 特に歩兵との協同に遺憾なからしむること肝要なり

第二款 攻撃実施の初期

茲に所謂「攻撃実施の初期」とは 我が企図を表現し 敵と雌雄を決すべき除幕期にして 我が歩兵の攻撃前進を開始せる場合 或は 我が歩兵は未だ攻撃前進を開始せずして砲兵のみ先ず戦闘を開始せる時期なりとす

  1. 一、 一般の場合

    軍直轄砲兵は敵砲兵を制圧し 師団砲兵も亦 通常軍直轄砲兵と協力して敵砲兵を射撃し 以って我が歩兵の前進を容易ならしめ 此間 要すれば 最も重要性を呈する敵障害物、側防機能 其他の陣地設備を破壊するものにして 此等 敵砲兵 若は 敵陣地設備に対する射撃を 我が歩兵の攻撃前進と同時に行うべきや 或は 之に先だちて実施すべきやは 前節に於ける効力射開始の時期に於て説述したるが如き

    以上の外 此時期に於ては 時として 敵指揮組織の崩壊 及 敵後方に於ける交通遮断 若は 擾乱に任ずることあり 蓋し現時の戦闘に於いて 敵の戦闘司令所、観測所、通信所等を崩壊するは 敵を無為無能ならしむる所以にして 又 縦深配置を常態とする現時の防御陣地を攻撃するに方り 適時後方部隊の活動を阻止し 或は 補充機関の行動を掣肘するは 其価値大なるに依るものとす 然れども 他面 此時期に於ける我砲兵の任務は 他に幾多広汎 且 多端を極むべきものあるを以って 此等敵後方に対する射撃の実施には 自ずから制限を受くること明にして 其採否 及 程度は 一に状況に依るものと言うべし

    之を要するに 此時期に於ける我砲兵の最大目標は敵砲兵にして 少なくも之を制圧し 為し得れば之を破壊することにより 爾後に於ける我歩兵の前進を容易ならしむることを得るものなりと言い得べし

  2. 二、 攻撃準備射撃を行う場合

    状況 特に敵陣地の強度により 且 準備弾薬数之を許す場合に於て之を行うものにして 我が歩兵の攻撃前進に先だち我が砲兵を以って敵障害物 及 側防機能の破壊、敵砲兵の制圧 為し得れば破壊を実施すべきものなること 既述の如し

第三款 敵主陣地に対する戦闘間

てすと

  1. 一、 我が歩兵 攻撃前進の初期

    此時期に於ける各部隊の行動は 概ね遭遇戦の場合に準ずべく 砲兵は要すれば敵の障害物 及 側防機能の破壊を行い 或は 既に行いし此等の破壊を補足すべく 我が歩兵の敵陣地近接するに従い 漸次 敵情の詳細を偵知すると共に 歩砲の協定を補綴して 協同の緊密 完璧を期すべきものとす

  2. 二、 我が歩兵 敵歩兵の火網に進入時期

    此時期の前後に於て 防者歩砲兵は 我が歩兵に対し最大火力を発揮すべく 敵の側防機能等の詳細なる配置、障害物の状態等は 此時期を待ちて始めて之を確認し得ること多きを以って 攻撃砲兵は我が歩兵と最も密接なる連繋を保持し 歩兵の要求に応じ 適時所望の地点に対し火力を発揚すべきものとし 第一線部隊配属砲兵は 敵陣地の要部を側射し 或は 敵の機関銃、側防機能 及 戦車等を射撃する為 其全能力を発揮せんことを勉むべきものとす

    此時期に在りては 我が砲兵と戦車との協同も亦 極めて重要なる事項にして 砲兵は敵の対戦車砲を撲滅 或は 煙幕を構成して 我が戦車の前進を支援するを要し 第一線配属砲兵も亦 同様の任務に服するものとす

    此際 歩兵より砲兵への射撃を要望する地点を指示通報するの方法 (協定せる目標番号、地区地物基準、空中写真、写景図、射弾、方眼座標 及 着色発煙弾等)に注意し 確実迅速に砲兵射弾を導くの着意を要す

  3. 三、 突撃時期

    突撃時期に於ける歩砲の協同は 最も高潮に達するを要すること既述の如く 攻撃成否の岐分 茲に存すと言うも亦 過言に非ざるべし

    1. (イ) 突撃準備時期

      突撃準備磁器に於ては 我が火力を最高度に発揚して 敵を萎靡沈黙に陥らしむるを緊要とし 砲兵は縦い敵砲兵より至大の損害を受くることあるも毫も之を省みることなく 其砲火の大部を攻撃の重点方面に在る敵歩兵に集中して之を圧倒し 要すれば 一部の砲火を以って 我が歩兵に危害を及ぼす敵砲兵を制圧し 以って我が歩兵をして突撃決行の機運に接せしむることを期すべく 此際 我が砲兵が特に優勢ならざる限りは 助攻方面に対する砲兵火力の如きは 極度に之を減少し 状況に依りては全く之を放棄し 以って一意専念 重点方面に熾烈なる火力支援を与えんことを期すべきものとし 此際 現況に応じ 高級指揮官は要すれば砲兵に新任務を課し 以って我が歩砲合成の火力をして 少なくも重点方面に於ては 敵に対し圧倒的優勢の状態に達せしめざる可からず

      此際に於ける砲兵の射撃は 組織的に徹底集中し 時間的 空間的に 威力を発揚するを可とす

      之が為 砲兵射撃の平均点は 正確に目標に通じ 歩兵をして一歩にても敵に接近する如く危険界を減少し 集中の複行を繰り返すが如き無効力なる射撃を為さざる如く注意すべし

      敵の側防機能の如きは 予め我が砲兵等を以って破壊するを可とするも 其位置 及 掩護の程度 並びに 我が砲兵力等の関係に依りては 予め之を破壊し難き場合も往々にして生ずべく 又 此際 突撃の直前に於て敵の側防機能 特に機関銃の如きは不意に現出することあるべく 之等に対して予め適切なる準備を為すと共に 所要に臨み迅速に之を制圧すること肝要なり

      状況に依り 突撃決行前 砲兵を以って障害物の破壊を補足し 又は 直接突撃を準備せしむることあり 而して此際に於ては 特に歩兵との連絡 及 協定を密接にし 以って第一線歩兵に危害を及ぼさざる限り 成るべく近く 其前方に在る敵を射撃し 或は 敵増援部隊を遮断し 我が歩兵をして 砲火の成果を利用して速やかに敵に近迫し 突撃を敢行せしむることを期すべきものとす

    2. (ロ) 突撃実施時期

      突撃の決行と共に 敵側防機能は更にその猛威を逞うせんとし 或は 未地の地点に不意に現出して我に危害を加えるものを見るべく 砲兵は突撃準備時期に於ける射撃要領により 益々其火力を発揚して我が歩兵を支援するを要し 且 我が歩兵に危害を与えざる限り 成るべく其前方に在る敵を射撃し 或は 敵の増援を遮断するに勉め 又 此の時期に於て 戦闘に加入すべき我が戦車と密接なる連繋を保持し 之を支援すべきものとす

      我が突撃 中途に於て頓挫する場合に於ては 砲兵は猛烈なる射撃に依り 我が第一線の苦境を緩和し 敵の弱点を衝きて 突撃複行の動機を与える為 敵の守兵を圧倒し 或は 敵の逆襲を阻止すること肝要なりとす

  4. 四、 戦果拡張時期

    敵陣地内部に於ける 逐次の攻略となるや 砲兵の戦闘は 左の如く指導せらるべきものとす

    1. (一)
      主力を以って 逐次 敵陣地の要部 特に敵陣地帯の骨幹を成形すべき各拠点を猛射し 特に攻撃の重点方面に於ける我歩兵の攻撃進捗を計ること
    2. (二)
      一部を以って 敵砲兵を制圧すること
    3. (三)
      一部を以って 敵の逆襲を阻止すること
    4. (四)
      要すれば砲兵陣地を前方に推進すること

    以上の状況に鑑み 彼我の戦線は混沌錯綜し 歩砲の協同益々緊密を要すると共に 砲兵の統一指揮は漸次困難となるを以って 師団長は所要に応じ 更に第一線歩兵の指揮官に砲兵を配属するを可とし 軍司令官も亦 師団砲兵の戦闘を容易ならしむる為 軍直轄砲兵をして 師団の戦闘に直接協力せしめ 又 時としては 其一部を師団に増加配属することあり

    而して 砲兵は小局部的歩兵砲的用法に陥ることなく 主火力の逐次延伸 及 之と密着する歩兵の戦闘を協調せしめ 局部抵抗の如きは歩兵砲 及 配属砲兵に委ねるを可とす

第四節 夜間攻撃に於ける砲兵

  1. 一、 夜間攻撃と砲兵との関係

    抑々夜間の攻撃は 主として歩兵の任ずるところなるも 状況に依り砲兵をして之に協力せしむることあるものとす

    近時に於ける砲兵は 其射撃準備完了せば 夜間の特性を超越し 相当精度を以って射撃を実施し得べく 今や「暗夜に銃砲」なる俚言時代とは全く世を隔するに至れり 状況に応じては夜間戦闘に於ける砲兵の活用を十分ならしむることを期せざる可からず

    夜間攻撃に於ける砲兵の協力要否は 全般の状況に依り之を定むべしと雖も 今若干の場合を例示すれば次の如し

    1. (一)
      強襲的夜間攻撃を行うに方り 昼間に於ける砲兵射撃の結果を利用して 夜間 威力ある攻撃準備を行わしむるを有利とする場合
    2. (二)
      夜間攻撃を 状況 要すれば強襲を以って遂行せんとし 且 敵砲兵の威力大なるか 若は 敵の逆襲阻止を考慮するを要する場合 此等に対し我が砲兵火力を有利に使用するを得るとき
    3. (三)
      敵陣地内の限定区域に対し 砲兵射撃を以って之を阻止し 該区域に対し夜間攻撃を決行せしめんとする場合
  2. 二、 夜間攻撃に協力すべき砲兵に対する師団命令

    師団長は 砲兵の任務 特に歩砲の協同に必要なる事項 其他 所要に応じ射撃すべき目標 又は 地域 並びに 時機等を明示すべきものとす

    抑々夜間攻撃に於いては 昼間の如く 砲兵火力を第一線歩兵部隊の状況に応じ戦機を失せず之を直接支援する如く 時間的 及 空間的に機動せしむること困難にして 通常 各個の限定せる攻撃目標に対する各歩兵部隊に直接協同すべき砲兵は 殆ど固定的任務の下に使用せらるべきものとす 従って 師団長としては 歩砲の協同に必要なる事項 即ち 某歩兵部隊に協力せしむべき所要の砲兵力等を明示し 爾余は 之を関係ある歩砲兵指揮官相互の協定に依らしむるを可とす 然れども 所要に応じ 更に射撃すべき目標 及 地域 並びに 時機等をも明示して 歩兵の行動 特に奇襲的攻撃を妨げざる如くすると共に 所要の準備を整え 以って戦機に応じ 直ちに有力なる協同を実施せしむる如くするを必要とすることあり 即ち 之を例示せんが 各個の攻撃目標に向かい攻撃せる我が歩兵に対し逆襲すべき敵の後方部隊を阻止せしむる為 某地域に射撃を行わしむるとき 或は 特に我に危害を呈する敵砲兵、側防機能等に 砲兵火力の運用を期すべきとき 若は 敵陣地の一部を強襲せんとするに方り 該部分を敵陣地の他部より砲火を以って遮断せんとするが如き場合等 之なり

  3. 三、 夜間攻撃に任ずる砲兵の任務

    夜間 火器の威力を利用して攻撃を強硬するを要する場合に於ける砲兵は 通常 攻撃せんとする敵陣の制圧(敵陣地の守兵、敵の予備隊 特に其逆襲の制圧) 並びに 敵の第一線と後方部隊との遮断を行いて 敵の快復攻撃を制圧し 又 要すれば 我が攻撃を妨害すべしと予想する敵(砲兵、機関銃、照明機関等)の制圧に任ぜしむべきものとす

    攻撃奏効せし地点を確保する為の砲兵射撃は 特に攻撃歩兵と緊密に連絡し 予め行える協定に基き 敵の逆襲を阻止すべき要点に対して 適時 交通遮断を行い 状況之を要すれば 所要の固定弾幕を以って 敵を阻止せざる可からず