作戦要務令

第三部


第4篇 兵站
  1. 第236
    兵站の主眼とする所は、軍をして常に其の戦闘力を維持増進し、後顧の憂なく其の全能力を発揮せしむるに在り。而して、作戦上必要なる軍需品及び馬の前送、補給、傷病人馬の収療及び後送、要整理物件の処理、戦地資源の調査、取得、及び増殖、通行人馬の宿泊、給養、及び診療、背後連絡線の確保、占領地の行政等は兵站業務の重要なる事項とす
  2. 第237
    兵站業務は複雑多岐にして、動もすれば錯誤渋滞を生じ易く、其の実施には統制を要すること少なからず。故に、軍隊は此等兵站の特性を理解し、其の規定を励行し、苟も自隊の利害を以って全般の統制を紊るが如きことなきを要す
  3. 第238
    兵站業務実施の為、兵站線を設定す
    兵站線は通常留守部隊所在地に発し、海路、鉄道、水路等に依り軍の作戦地域に至る。而して、軍の作戦地域に於いては鉄道の利用に勉むるも、陸路を主とする場合多く、状況に依り水路、時として空路を利用す
  4. 第239
    兵站線上には通常集積基地、集積主地、兵站主地、及び兵站地を設定し、兵站業務に必要なる諸機関を配置し、且つ諸施設を行う
  5. 第240
    集積基地は通常内地主要の地点に設け、同地に必要の機関を置き、補給諸廠及び留守部隊より出征部隊に輸送すべき軍需品を集積し、需要の緩急を考慮して之を集積主地等に前送し、又出征部隊より還送し来るものを各々目的地へ分送する業務に任ず
  6. 第241
    集積主地は戦地又は外地主要の地点に設け、同地に集積主地諸廠其の他必要の機関を置き、集積基地等より出征部隊に前送すべき軍需品を集積し、需要の緩急を考慮して之を兵站主地に前送し、又出征部隊より還送し来るものを収容、整理し、或は之を集積基地等に後送する業務に任ず
  7. 第242
    兵站主地は軍作戦地域内の交通便利なる地点に設け、同地に通常兵站地区司令部、軍補給諸廠、兵站衛生諸機関其の他必要の機関を置き、軍需品の集積、管理、前送、後送及び修理、傷病人馬の収療等の業務を実施し、補給の原点を成形す
  8. 第243
    兵站地は、兵站地区司令部、同支部、又は同出張所の位置する所にして、輸送機関其の他通行人馬の宿泊、給養及び診療、警備、交通、通信施設の保護等の業務に任ず
    兵站末地其の他必要なる兵站地には、所要に応じ軍補給諸廠の支廠又は出張所、兵站衛生機関、通信所、野戦郵便局又は同分局等を開設す
  9. 第244
    軍司令官は軍作戦地域を通常師団作戦地域と軍直轄管区とに分ち、概ね兵站末地を連ぬる線を以って其の境界と為す
    軍直轄管区は通常之を若干の兵站地区に区分す
  10. 第245
    兵站地区隊長は兵站地区司令官となり、部下兵站地区隊、配属せられたる軍補給諸廠の支廠、同出張所、輸送部隊等を指揮し、支部又は出張所を出し、兵站地区内に於ける兵站業務を担任す。野戦輸送司令官、兵站地区司令官に任ずる場合に於いても之に準ず
    兵站地区司令部、同支部及び同出張所は、昼間は標旗(白地に軍隊符号を明記す)を以って、夜間は紅色の燈火を併用して標示す
  11. 第246
    軍需品の輸送は、兵站地区司令官、配属せられたる輸送部隊を以ってし、或は野戦輸送司令官(兵站地区司令官に任ぜざる場合)統一し、或は此等を併用して之を実施するものとす。而して、輸送品の授受及び監視等に関しては、直接之が輸送に任ずる部隊の長、其の責に任ず。但し、宰領者を附しある物件の授受に関しては該宰領者其の責に任ずるものとす
  12. 第247
    師団に対する軍需品の補給は補給点に於いて兵站の補給担任部隊(軍補給諸廠、同支廠及び同出張所、或は補給を担任せしめられたる兵站地区司令部、野戦輸送司令部)之を行うものとす
  13. 第248
    師団作戦地域(軍直轄管区)内に行動する兵站(師団)の輸送部隊は、其の行動に関し当該輜重兵連隊長(兵站地区司令官又は野戦輸送司令官)の区処を受くるものとす
  14. 第249
    軍直轄管区警備の要は輸送を安全にし補給を全うするに在り。而して、其の警備は寡兵を以って通常長遠広大なる地域に亙り実施せざるべからず。而も、兵站は屡々敵の攪乱又は空襲の目標となり、時として空挺挺進隊等の攻撃を受くることあり。故に、特に志気を振作し、捜索、諜報の手段を尽くし、居常四囲の情勢を明かにし、工事を施し、連絡施設を完備し、兵力の機動を準備し、対空処置を講ずる等、警備に遺憾なきを要す。而して、戦闘に際しては兵站地に固着することなく、進んで敵を撃滅するを利とすること少なからず
    状況に依り、輸送機関の直接護衛の兵力を増強して輸送を強行するを要することあり
  15. 第250
    兵站地区司令官は通常兵站地区の警備を統一実施するものとす。之が為、警備に関する規定を定め、又、特に定められたるものの外、兵站地区内の指揮下に在らざる兵站部隊等を区処することを得
    軍司令官は警備の為、所要の部隊を兵站地区司令官に配属し、或は更に直轄の警備隊を以って警備に任ぜしむることあり
  16. 第251
    軍作戦地域の防空は通常高級指揮官統一の下に行わるるものとす。兵站地区司令官、防空機関を配属せられたる場合に於いては之を直轄使用し、所要に応じ部下部隊に分属す
    各種施設の防空に方りては、偽装を適切にして敵を欺騙し、或は分散配置に依り被害を少なからしむること緊要なり。此の際、屡々偽施設を行うを有利とす
  17. 第252
    兵站線を通行する軍隊及び軍人、軍属には軍用旅券を携帯せしめ、以って兵站線を通行し、且つ宿舎其の他の供給を受け得るの証たらしむ。而して、軍用旅券は高等司令部、兵站地区司令部、同支部及び同出張所に於いて之を発行するものとす。但し、軍事鉄道機関(軍事船舶機関)の管轄する鉄道(船舶)に依り輸送せらるる者には軍用輸送券若しくは便乗券をも併せ携帯せしむ
    兵站線通行中、軍用旅券に掲載しある人馬及び携行品の員数等に差異を生じたるときは、兵站地区司令部、同支部若しくは同出張所に就き、掲載事項の訂正を受くるものとす
    兵站地の長は要すれば軍用旅券と対照して通行人馬を点検することを得
  18. 第253
    軍隊指揮官及び軍人、軍属は兵站地に到着するや、直ちに兵站地区司令部、同支部若しくは同出張所に届告し、軍用旅券を示し、必要の指示を受くるものとす
    軍隊及び軍人、軍属は兵站地の長の定むる兵站業務上の諸規定を遵守すべきものとす。又、其の任務に支障なき限り兵站地の勤務に協力するを要す
    軍隊及び軍人、軍属は、特に定められたるものの外、兵站地の長の同意を得ることなく兵站地区内に於いて物件を調達し、或は妄りに兵站地区内の通信機関及び兵站施設を使用すべからず
  19. 第254
    大なる軍隊兵站線を通行し、若しくは一時兵站線に位置する場合に於いては、当該軍隊指揮官及び兵站地区司令官は、其の行軍、宿営、給養等に関し、各々上級指揮官より命令を受領し、之に基き所要の準備を行うものとす。而して、其の宿営設備は当該軍隊自ら之に任じ、糧秣中、主要なるものは兵站之を補給し、其の他は当該部隊自ら調達するに便なる如く兵站に於いて予め準備するを通常とす
  20. 第255
    各部隊は、一時不用又は携行不能の為後方に残置する荷物等は関係補給諸廠又は兵站地区隊等に其の保管を依託し、或は監視者を附して自ら保管するものとす。而して、保管の依託を受けたる者は倉庫又は地区を指定して之が保管に任じ、監視者ある場合に於いても勉めて之を援助す
  21. 第256
    兵站地の長は警備上緊急の場合に於いては、兵站線を通行する軍隊及び軍人、軍属を自己の責任を以って一時使用することを得。但し、軍隊指揮官にして兵站地の長より高級先任なるときは、刻下の状況を具申して其の援助を請うものとす。この際、之に応ずべきや否やは当該指揮官自己の責任を以って決す
    兵站地の長は、要すれば兵站線を通行する軍隊及び軍人、軍属(将校、各部将校及び高等文官を除く)を一時兵站地に留め、且つ指揮者を定めて引率せしむることを得
  22. 第257
    兵站地の長は、其の担任する兵站地区内に位置し又は通行する軍人、軍属の軍紀、風紀を維持する為、所要の規定を設くることを得
  23. 第258
    兵站地の長は其の担任する兵站地区内の通行人馬の診療を担任し、残置せる患者及び病馬を収療す。但し、軍医(獣医)を有する部隊に対しては所要に応じ診療を援助す
  24. 第259
    郵便物は各種の手段を尽くし、速やかに之が前送、分配を図る