作戦要務令

第四部


大河の渡河

第2章 渡河準備

第3節 諸計画の策定
  1. 第14
    渡河は日没後成るべく早く之を開始し、払暁迄に為し得る限り多数の兵力を渡河せしむるを有利とす。然れども、状況に依り黎明に近く渡河を開始せざるべからざることあり。此の際、煙、霧等を利用し、我が企図の遂行を容易ならしむるの着意を必要とす
  2. 第15
    攻撃準備射撃は敵陣地の強度、我が装備、渡河の時期等に依り之を実施することありと雖も、奇襲的効果を収むるを主とし、勉めて之を避くるを可とす
  3. 第16
    渡河の為軍隊を部署するに方りては、水際戦闘の必勝を期すると共に、連続且つ迅速に部隊を渡河せしむる如く着意し、隠密に渡河を企図する場合に於いても優勢なる砲兵及び重火器を我が岸に配置して適時敵の抵抗を制圧し、且つ敵の増援部隊を阻止するの準備に在らしむるを要す。而して、此等の射撃は第一線部隊敵に近迫し、之を必要とするに至り開始するを通常とす
  4. 第17
    主力の渡河を容易ならしむる為、一部を以って敵の予期せざる断崖、湿地、中洲等を超越渡河して敵の側防機能等を撲滅せしめ、或は敵の背後を攻撃せしむるを有利とすることあり
  5. 第18
    武装せる舟艇は、捜索、連絡、制河権の獲得、渡河部隊の掩護、水際戦闘等に任ぜしむるものとす
  6. 第19
    敵の河上艦艇に対しては、渡河点より離隔せる地点に於いて空、地、或は水上より之を撃滅又は阻止するを要す。之が為、予め渡河点の上、下流に一部の砲兵、探照灯、武装せる舟艇、水中障碍物等を配置するの外、飛行機、武装せる舟艇を以って直接敵の河上艦艇を攻撃せしむることあり。時として、河岸を占領せる部隊に必要なる兵力を増加し、此の種任務を兼ねしむることあり
  7. 第20
    渡河部隊を水上より掩護するには、通常武装せる舟艇を渡河点の外側に一線又は数線に配置するの外、為し得れば渡河部隊と同行し直接掩護せしむるを有利とす
    渡河点の外側に配置せられたる武装せる舟艇は、敵艦艇の阻止に便なる地点に位置して監視幕を構成し、要すれば障碍物(防材、浮遊網、水雷、沈船等)を設置す。此の際、若し照明機関を伴う砲兵を陸上に配置し協同せしむるを得ば有利なり
  8. 第21
    渡河作業隊は通常師団に配属せられたる工兵(戊)を主体とし、所要の師団工兵、通信部隊、渡河材料等を以って編成し、別に渡河材料の推進の為、所要の歩兵部隊等を配属し、或は之を援助せしむるものとす
  9. 第22
    渡河作業隊の編成に加わらざる師団工兵は、第一線歩兵の水際戦闘ならびに爾後の陣地攻略を容易ならしむる為、主として水際障碍物の破壊、特火点及び側防機能の攻撃等を担任し、又、両岸に於ける交通路の開設若しくは補修に任ずるものとす
    水際障碍物の破壊の為師団工兵を各舟に分乗せしめたる場合に於いては、工兵の指揮官は上陸後速やかに之を掌握すること緊要なり
  10. 第23
    大河の渡河作業計画に於いて定むべき主要なる事項、左の如し
    全般に関する事項
    企図の秘匿、警戒、水上の妨害排除、交通、連絡、瓦斯防護等
    作業準備
    器材の準備及び推進、他部隊との協同等
    作業実施
    渡河地域の配当、渡河法、渡河順序、渡河時間、破損舟の収集利用、器材の修理、燃料の補給、救助等
    各時期に於ける水上警戒、水際障碍物の破壊、煙幕の展張、曳航等に関しては、所要の統制を行うと共に、要すれば特別の作業部隊を設け之に任ぜしむ