作戦要務令

第四部


上陸戦闘

第5章 水路を利用する戦闘
  1. 第135
    長大なる水路、又は多数の水路存在する地方に於いては、陸上作戦に密に連繋し、舟艇或は船舶を利用して沿岸の敵を駆逐しつつ果敢に進航し作戦の進捗を図ることあり
  2. 第136
    水路を利用する戦闘に在りては、進航部隊の編組を適切にし、軍事船舶機関、陸上部隊等との協同を密にし、指揮連絡の施設を整え、優勢なる飛行部隊を以って適時敵情を捜索し水上部隊を庇掩すると共に、其の戦闘に直接協同せしむるを有利とす
  3. 第137
    進航部隊は舟艇或は船舶に依り進航し、敵情、特に沿岸の陣地、水路上の障碍、地形等を考慮して前進目標及び進航の部署を定め、地区より地区に躍進するを通常とす。此の際、所要の部隊を上陸せしめ、沿岸附近の敵を攻撃して直接進航を容易ならしむるを有利とすること多し
    進航に方り、潮汐の干渉ある水路に在りては其の特性を利用するの着意を必要とす
  4. 第138
    進航の為、艇(船)団を通常前衛、本隊、工作隊等に区分す。其の隊形は、敵情、水路の状態等に依り異なるも、通常1列又は2列縦隊とす
    前衛は速やかに水路及び敵情を捜索し、障碍を排除し、或は沿岸の敵を制圧して、本隊の行動を容易ならしむ
    本隊は船上に配置せる歩、砲兵火力の発揚、煙幕の展張等に依り敵を制圧しつつ、一意目標に向い進航す
    工作隊は舟艇等の応急修理、水路の測量、其の他の作業に任ず
  5. 第139
    前衛は捜索隊、水路啓開隊等より成る
    前衛と本隊との距離は状況に依り異なるも、適時障碍を排除して本隊の前進を成るべく渋滞せしめざる如く、之を定むるものとす
  6. 第140
    捜索隊は、水路、水路上の障碍、及び敵情を捜索し、水路啓開隊を誘導す
    捜索隊は高速艇、装甲艇等を以って編成し、之に偵察、標識及び通信に必要なる資材を属す
  7. 第141
    捜索隊敵と遭遇せる場合に於いては之を撃破し、或は火力、煙幕等を利用して突進し捜索に勉む。此の際、特に敵の術中に陥り邀撃せられざる如く注意すること緊要なり
  8. 第142
    水路啓開隊は捜索隊の誘導に従い進航し、水路上の障碍を排除して本隊の進航を容易ならしむ。之が為、要すれば2隊に区分し、適時超越して任務に服せしむるものとす
  9. 第143
    水路啓開隊の編成は、予想する障碍物の種類、程度等に依り異なるも、通常障碍物の排除、水路の清掃等に任ずる作業隊及び之が掩護に任ずる砲艇隊より成る
    作業隊は通常所要の工兵を以って編成し、小発動艇に乗組み、防材、沈船、機雷、流下物等を除去するに必要なる資材を装備す
    砲艇隊は各方向に熾盛なる歩、砲兵火力を発揚し得る如く、小型船舶に野、山砲、迫撃砲、機関銃、発煙筒等を装備す
  10. 第144
    高級指揮官は、状況に依り機動を予期する水路の捜索若しくは啓開に任ぜしむる為、予め1部隊を派遣することあり
  11. 第145
    本隊は所要に応じ諸兵連合の部隊より成る適宜の梯団に区分し、各梯団は水上の戦闘又は上陸戦闘を行い得る如く、所要の準備を整えあるを要す
  12. 第146
    本隊は河岸よりする敵の妨害に対しては迂回し、若しくは強行突破を行い、要すれば所要の部隊を上陸せしめ之を排除す。而して、頑強なる敵に対しては水陸両方面より撃破せざるべからず。此の際、巧に水路を利用して敵の背後を攻撃せしむるの着意を必要とす
  13. 第147
    工作隊は、救難船、工作、測量船等を以って編成す
    救難船は沈船の引揚げ又は除去作業に、工作船は舟艇の応急修理に、測量船は水路の測量及び航路の標示に任ず
  14. 第148
    進航部隊は所要の弾薬、糧食、其の他の材料を、適宜各舟艇或は船舶に分載す。状況に依り水上補給隊を適宜編成す
  15. 第149
    水路を利用する戦闘の要領は本章に拠るの外、一般上陸戦闘に準ず
作戦要務令第四部 上陸戦闘 終